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ふと思いついたネタ;その弐

作者: 七織

魔王と勇者が手を組んだりと昔からあったジャンルだけど、色々おかしいよなーって思ってた疑問。

剣を持たなくていい世界。なんて無理じゃねっていう考えのお話

 そこには闇が満ちていた。

 確かに光源はあり光はある。モノの形は見えるし影もできている。

 だが身に纏わりつくかのような、質量を感じさせる闇がそこには横たわっていた。

 きっとここがどこか知れば誰もがそれを理解するだろう。

 闇に住まうとされる魔の拠点。魔族の王が住まう深淵の畔。

 魔王の城。そう呼ばれているところに勇者はいた。その手には剣を持ち、魔王と相対していた。



 長い戦争があった。

 人と魔との覇権をかけた生存競争にして互を造ったとされる神による代替戦争とも呼ばれた闘争があった。

 絶対数は人が多く、種としての頑強さは魔が上。

 魔族は一見鉱石にも見える「魔腫」と呼ばれる臓器を持ち、それを用いて魔導を使った。

 人は自然霊の手助けと神から神通力を引き出し現象とする術、魔術を開発し対抗した。二つを総称し、魔を操る法則「魔法」と呼ばれた。

 互の内部での意識の違い。穏健派と過激派。泥沼の戦いが長きにわたって行われていた。


 ある時、二つの「兵器」が発見された。

 「勇者」と「神代兵器」。

 勇者は類希なる才能と神からの加護を持った人間であり、王は彼に仲間を与え魔王の討伐を命じた。

 神代兵器とは神が争っていた時代の名残とされる遺物であり、有り得ない規模の破壊を齎す戦略兵器。これは両軍が互いに持ち、度々使用された。

 当初人間側が不利だったこの争いはその二つの兵器の出現により次第に均衡へと動いていった。

 だがそれは言うならば戦争の終わりが長引くも同じであった。また、ほんの数度あった神代兵器の使用により負傷者も多くなりその使用は厭われ、膠着状態になっていた。


 そしてもう一つの「兵器」、

 勇者は今この時魔王の城の中、魔王の前にたどり着いた。






 魔王の外見は人に近かった。

 髪の色は体内に保有する魔導性質により発現するとされる。それに適するならば全ての性質を保有する証である「揺らがずの黒」の長髪。

 背は170ほど。目は細目でその奥の瞳を覗かせず、口元には柔らかな笑み。

 それとは裏腹の、触れれば切れるような印象を抱かせる美貌の、美女。


「お話があります」


 魔王は言った。剣を向ける勇者を前に身を晒し、なんの気兼ねもなく勇者の間合いに一足で入って。

 その顔に敵意はなく、けれど勇者は剣を下ろすわけにもいかない。


 勇者の首にはチョーカーがあった。そこに嵌め込まれた結晶は固有の魔力振動を持っており、ついになる結晶のもとへ声と映像を届けられる。

 そしてその対になる結晶のもとには勇者の国の姫がいた。

 長引いた戦争責任の謂れ。政治の、身内の罠により王はベッドから起き上がれず、その娘が勇者たちの後任になっていた。

 この姫は責任が強く、けれど争いに巻き込まれぬよう蝶よ花よと育てられた箱入りの平和を願う娘。現実を知らぬ、なれどそれを己で理解する娘。争いの現実を知りたいのだと勇者にチョーカーを頼んでいた。情報伝達の為にも勇者は受けれていた。


 その姫が見ているのだ、対話を求める相手を無碍に切るわけには行かなかった。

 そして勇者は一刻も立たぬうちにこの判断を恥じる。

 即、切るべきであったと。


 魔王は笑みを浮かべ、手を差し伸べ言った。


「争いを止めませんか。手を結びたいと私は思っています。無意味な争いは嫌いなんです」


 勇者には理解できなかった。無意味な争いは勇者とて嫌うものだ。だが何故今この時なのだ。

 首元のチョーカー。そこから姫の声が届く。


『和平の申し入れ、という事ですか』

「そう思ってくれて構いません。あなただって仲間の血が流れるのは嫌でしょう。仮に今私を討って、それで争いが終わるとお思いですか」

『……全部が終わるとは思っていません』


 人間側にも派閥があるように、魔族側にもある。

 寧ろ魔族側の方が単純で、そして複雑だ。

 魔族の軍は十二の種族から成された連合軍だ。魔狼、人獣、純魔、夜魔……それらが互の利によって手を結びできた軍であり、それぞれの理由で動いている。

 軍として動く上での命令系統を立てるため、それぞれのトップである十二の長達の中で最も強い者が「魔王」とされ指揮権を得ている。

 目の前にいるのは魔の王であると同時に一つの種族の長でしかない。倒し弱体化させることはできても他の種族たちの動きが不明になる。


 だがそれでも人間側が少しでも有利になるために、命令系統を崩すために、と勇者は来たのだ。元より自己意識の高い種族が多い以上、一度瓦解させれば群として纏まることはないだろうと。

 その点を魔王は言う。


「私が手を貸しましょう。魔王としての決定を下せば、それなりの力を持ちます。私は平和が好きなんです。だから、この剣を下ろしくれませんか」


 魔王の手が勇者の剣を握る。神代兵器の一つ、個人武装であるその剣は刃を握る魔王の手を容易く切り裂き、血を滴らせる。

 血を滴らせたまま手を離さず、魔王は剣を握る力を強めていく。いま勇者が動けば、容易くその手を切り落とせるだろう。

 気味が悪くなった勇者はその剣を引く。先細りの形状の剣はするりとその手から抜け、その鋒が下げられる。


「ありがとう。対等な立場で言葉を交わし、要らぬ血を無くしましょう。武器など捨てて」

『その言葉、信じていいんですか』

「勿論。こちらの事情を知っているのなら分かるでしょう。強大な意志などない個の集まりで烏合の衆。私は穏健派なんです。ラブ&ピースをで昼寝が好きです」

『何故いま、何ですか』

「勇者が攻めてきたから被害を気にして、ってのなら理由になります。普段なら臆病風だの言われるけれど、今なら私と部下の命を理由にできる。私はその理由が来るのを待ってました」

 

 のらりくらりと魔王は言う。勇者にはその真意が見えない。

 だが、チョーカー越しに感じる姫は乗り気だと分かった。争いが嫌いな人だ、戦争が終わならば嬉しいのだろう。

 例え終わらせることは出来ずとも、確実に規模は小さくなるのだから。


『是非、受けたいですわ』

「それはよかった。書類にサインでもすればいいのかな、それとも握手かな」

『そのどちらもお願いしたいですが生憎、この状態では無理ですわね。今出来るのは話すことくらい。後日会いましょう』

「そうですか、なら今のうちに話せること話しておきましょう」


 ユラリと、魔王の影が動いたのを勇者は感じた。


「私たちは対等の立場で言葉を交わし、争いをなくしたい。そう願いたいものです」

『ええ、その通りですわ』

「なら、握るのは互の手でなくてはいけません。武装は困ります。これを気に両軍で廃棄しましょう」




「互が有する神代兵器。その全ての破棄を提案します」




(――ッ!!!)


 勇者が剣を振りかぶらなかったのは、それをする寸前に姫が見ていることを思い出したから。

 勇者が目の前の存在を問答無用で殺そうとしたのは、相手が意図することに気づいたから。

 そして、今この状態が手遅れだと気づいたから。


「神代兵器は知っての通り凄まじい破壊を齎すモノが多い。今の技術では作れない、悪魔の如き代物です。だけど作ることは出来ずとも壊すことなら出来る。あれは扱うには大きすぎる力です。あなたもそれによって齎された被害を知っていますでしょう」

『……ですが、今この場で承認というわけには』

「後でいいのです。停戦の証文にサインをしてからで。不正がないよう互の兵を合わせた連合軍を作り、その元で破壊しましょう。裏切りが気になるのでしたらそのウチの一人はここにいる勇者君でいい。立派な抑止力になります。あんな馬鹿げた力を野放しにできません」

『そういうことでしたら、喜んで』

「そう言ってもらえて嬉しいですね。神代兵器のみならず過剰な力を持つ兵器は捨て、互いに武器は捨てて身一つの対等な立場に立ちましょう」


(馬鹿を、言うな……)


 何が、対等な立場だ。

 勇者は叫び出したい心を必死で抑える。


 魔族の体は頑強だ。生まれついての魔法への適正と発達した筋肉と外皮。素人の振るう剣では刃は肉に届かず、相手の振るう爪は容易く人を抉る。

 生まれた時からの差。人が一なら魔族は五。その差を埋める何かがいるのだ。

 勇者のような本当にひと握りの特別を除き魔族とはそういうものであり、それに対抗するために使われるのが魔術であり培われた兵器だ。

 身一つの対等などありはしない。人が剣を握り術を使い、そうして初めて「対等」なのだ。それでチャラなのだ。


 相手の要求は最初から一つ。

 「神代兵器の破棄」

 それのみ。

 一と五の差。それは埋めようと思えば埋められるが、その埋める手段は同時に魔族も使える手段だ。有利性はそこまでゆらぎはしない。

 だが、神代兵器は違う。

 一と五で言うなら、神代兵器は百であり千。一と五の差など誤差の範囲内。人であろうと魔族であろうと関係なく、吹き飛ばせる兵器。

 互のあいだにある差を踏みにじれる兵器なのだ。だからこそ、不利だった状態を均衡にまで戻せられた。

 それを無くす。

 姫は気づいていたない。勇者の戦いを見たが故に。人は魔に十分に対抗できるのだと思ってしまったが故に。


 姫は思っているだろう。形だけでも停戦協定が結ばれればそれでいいと。魔王の提案通り神代兵器の破棄の件で裏切りが出ても勇者が止められる。もしその時は正義と悪で明確な線引きを世界に知らしめられ、大義名分ができる。

 勇者にはわかる。破棄の件は問題なく行われる。一部が暗躍し隠し通される物もあるだろうが、知られている分は互いに何の問題もなく破壊される。

 問題はその次。誤差がなくなった先にあるのは絶対的な差。

 武器を捨て身一つなど、そこにあるのは対等な関係でなく向こうから生かされるだけの飼い慣らされた立場だ。


 姫は気づいていない。外の現実を知らぬから。現実でなく結果しか知らぬから人は魔に対抗できると思っている。要らぬ戦火を減らすために、神代兵器を嫌っている。けれど相手が持つ神代兵器への抑止力としては認めていたはずだが、それが無くなるのなら要らぬと。

 魔からすれば元より神代兵器など要らないということを姫は知らない。


 最初に会ったとき切っておくべきだったのだと勇者は己の決断を後悔する。

 例え姫から罵られてもその首を飛ばしておくべきだったのだ。話が進んだ現状で剣を握ろうにも姫からは平和を乱す行為にしか見えないだろう。反逆者でしかない。


「安心していい。私”が”面倒な争いを嫌いなのは本当だよ」


 魔王が勇者に囁く。

 だが、それは魔王だけだろう。他の連中まで同じとは保証できない。神代兵器が無くなった後、魔王以外の連中が攻めてきたらどうする。争いが再開したら対抗する手段はどうするというのだ。そしてその争いは確実に起こると断言できる。

 対等な立場にあるならば武装は持ったままでなくてはならない。向こうが約束を守る事だけに縋った関係などなんの意味もない。

 

(今、直ぐにでもこいつの首を飛ばして……)


 勇者の心の中でそんな言葉が囁かれる。

 反逆者として、戦犯として扱われても人のためになると信じて。

 だが剣は振り上げられなかった。少なくとも今この場でそれをしたとしても手遅れなのだから。

 例えつかの間だとして平和が訪れるなら人々はそれを望む。遠い先でなく、いつだって今この時の平和を人は求めるのだから。

 

「ではまず、私たちが手を結びましょう。何事も形からです」


 伸ばされた手のひらを勇者は握らない。


「生憎だがここに来るまでに血に汚れている。汚すわけには行かない」


 争いを通し、勇者の手のひらは傷だらけの無骨なものだった。ここに来るまでの争いで今は血も流れていた。


「私は気にしませんよ。そんな血を流さぬという為にもするのですから」

「そんな相手の手を血に汚すわけにもいかない。その手は姫と結んで欲しい。話が終わりなら帰らせてもらうとする」


 握ってなるものかと勇者は魔王に背を向け歩き出す。

 その手は最後まで剣の柄を握りしめていた。








 それから暫くして和平が宣言され、戦争は一旦の終結を迎えた。

 神代兵器の破棄は何の問題もなく行われ、互が有してそれらは順番に壊されていった。

 そして最後の一つとなったとき、連合軍内部での争いが発生。一人を除き生存者皆無により破壊が行われたのか不明だが、その主犯が持ち逃げしたと囁かれた。

 連合軍を皆殺しにして逃げたその一人は史上最悪の戦争犯罪者にして反逆者として歴史に名を刻まれた。

 ”二つ”の兵器を有し、何故か神に愛されたその男は後に魔王とさえ呼ばれる。

 その男は嘗て『勇者』と呼ばれていた。

平和のために、争いを捨てるために剣を捨てようぜ!

なお魔族の腹パンで人は死ぬ模様。


対等であるからこそ剣を持たねばならない。そんな状況普通にあると思います。

爪とか牙持ってる連中に素手で横にいるとかアホじゃねーのっていう。

約束破られたこっちは何もできない、向こうに依存した関係でしかない。

それって対等じゃなくて飼い殺しと言うと思う。


魔族と人が手を結んでさー、兵器を捨てようぜって言ってさー、平和のために頑張る話とか見てて疑問しかわかない自分の頭。

きっと昔の思いを忘れた汚れた人間になってしまった気がする。

そんな思いで書いた話です。

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