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第八話

 プラチナウルフを倒した翌日。聞きなれてきた怪鳥の奇声ではなく、ザァァァァッと降る雨の音で目を覚ました。この森に飛ばされてから初めて雨だ。…ここはいまいつの季節なのだろう?


そこまで暑くはない。むしろ過ごしやすいくらいだ。春ぐらいなのかもしれない。


 そういえばこの森に飛ばされてからもう一か月は経つのではないのだろうか。今日は少し今までのこと、これからのことを考えてみるのもいいか。

 

 考えないようにしていたがここ、この世界は地球ではないだろう。地球ではない、おそらく異世界ということになるのだろう。15年間生きてきたが少なくとも魔法が使える人なんて見たことはない。それに角の生えたウサギや5メートルもある狼、火を噴くクマなんて聞いたことも見たこともない。


どう考えてもおかしい。


 ここに飛ばされてから大分経つ。家族はどうしているのだろう?いきなり失踪したのだ、もう警察に届けが出ているだろう。だけど見つけることは不可能だ。異世界にいるのだから。


 当然帰りたいと思う。家族に会いたい。友人と話したいことだってあった。高校生活だってまだまだこれらというところだった。恋だって…したかった。


 だけどもう無理だ。俺は地球に帰ることは、できない。ただ帰るだけなら十分な魔力を蓄えて願えばいいのだ。だがおそらく一生をかけてもそんな魔力は集まらないだろう。


 だが一番の問題はそんなことではない。化け物とはいえ俺は殺しなれてしまった。もう殺戮衝動や破壊衝動が抑えられない。


 学校で町で、腹が減れば殺し喰らう。おそらくそうなってしまうだろう。それに魔法もある。隠し通せるとは思えない。長い間失踪していた俺が戻れば当然何があったのを聞かれるだろう。


 しかし正直に異世界の森で狩って暮らしていたと聞いて誰が信じる?誰も信じない。それどころか頭がおかしくなったと思われるだけだ。そんなのは嫌だ。…戻ってもそこに俺の居場所はない。


もう俺はここで生きていくしか道はない。


 どうしてこうなった?自分の中で何度も問うた。そのたびにこう思う。あいつのせいだ。あいつ、神崎晃のせいだ、と。だがなぜ晃は飛ばされたのだ?偶然なのか、意図的に飛ばされたのか。だとしたら誰に?なぜ?偶然ではなく誰かがやったのならそいつも容赦はしない。


…待て、誰かが呼び出す…召喚したなら、なぜ俺はこんなところにいるのだろう?術者のところに召喚されるのではないのだろうか。…いや、俺は巻き込まれただけだ。座標が狂ってもおかしくはない。


 それに召喚なんてものが個人で簡単にできるとは思わない。国単位とかでやっているのではないのだろうか?…だめだ、森の中にいては何もわからない。森から出た方がいいのだろうか。


 いや、晃もこの世界に来ているはずだ。当然魔法が使えるようになっている筈だ。あいつのことだ、俺よりもうまく使えるに違いない。あいつを殺すためにはあいつよりも強くならなくてはならない。国ごとつぶすのならなおさら力がいる。圧倒的な、力が。

 

 どうすれば強くなれるのか?決まっている。強いやつを喰って喰ってひたすら喰らうしかない。そうして力を蓄えていくしかない。負ける訳にはいかない。俺の人生を滅茶苦茶にした奴らを殺すまでは死ねない。必ず、殺す。


…少し熱くなりすぎたな。食糧確保のついでに雨に当たって頭を冷やすとするか。


俺は立ち上がり、狩に出かけた。





 雨が降る中、俺は立ち尽くしている。すでに食事は終えた。では俺が今、何をしているかというと、魔力を失うとどうなってしまうのかを確かめている。雨でぬかるんだ地面には一体のホーンラビットが死んでいる。こいつの魔力がなくなったときどうなってしまうのか。


3/34


 あと少しで0になる。さてどうなることやら。大体の予想はついている。しかしできれば外れてほしい。でなければ俺はもう…いや、まだだ。まだわからない。まだ…


0/34


0になった。それと同時にホーンラビット体は薄れてゆっくりと消えていく。10秒ほどで死体は消えた。


 俺の予想は現実となった。魔力がなくなれば死ぬ。この世界に人間はいるはずだ。俺が持っている剣や盾がそれを証明している。


 この世界の人間はどうやって魔力をためているのだろうか。俺は化け物を喰らうことで溜まる。この世界の人間は?俺と同じなのだろうか。…だとしたら何故他の人間を見ないのだろう。

もしかしたら、別の方法で溜めているのだろうか?俺の溜め方が異常なのだろうか?だとしたら俺はもう、人ではない。


俺は、消えたホーンラビットと同じ



化け物、だ。



「はっ、はははは…」


笑いたくなった。もう人ではい。なんだこれは?


「はは、あっははははは!」


どうしてこうなった?おかしい。なんで俺は笑っている?


「あはっ、あっはっははははははははは!!」


……おかしいな、俺は笑っているのになんで、なんで



なんで、俺は、泣いているんだ?



雨が強くなってきた。俺の笑い声は降り続ける雨によってかき消されていった。

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