第四話
どのくらい時間がたったのだろう。いつの間にか俺の空腹は満たされイノシシの肉はほとんど無くなっていた。チカラの方もかなり増えている。今なら炎ぐらいは出せる気がする。
(だけど出したらまた腹が減るんだろうなー)
確かに魔法は使えた。しかし使うと物凄く腹が減ってしまい正気を失ってしまう。あの時はイノシシの死体があったからソレに喰らい付いた。魔法を使うなら何か食い物を用意した方がよさそうだ。
俺は口を制服の裾で拭いながらそんなことを思い浮かべつつ剣を拾い、歩き出した。今日の目標は水を探すことと、食糧の確保だ。水は魔法で出せるかもしれないが、そうすると空腹が面倒なので出来れば別々で見つけたい。
(剣が軽い?)
どうやら体の中にチカラが増えただけでなく筋力も上がっているらしい。羽のようにとまではいかないが少し重い木の枝ぐらいに感じる。
「魔法で筋力の底上げとかできるのかなー」
そんなことをつぶやくが試すにはやはり食糧がいる。しかなく俺は剣を片手に森を歩き始めた。
歩き出してから大体一時間と少しくらいたった。ようやく水、デカイ湖を見つけた。
「おぉぉ水だぁぁぁ!」
腹は満たされていたが血ではのどは潤うことはない。いや、濃厚でうまかったがやはりのどの渇きには水が一番だ。
「よし、さっそく飲むとしますか!」
水を見つけてからテンションが上がってきた。生水は危ない?腐りかけた肉を喰った俺には関係のないことだ。
「んぐ…ん…ぅ…ア”ぁぁぁぁ。うまい!」
ついでに手や顔についた汚れを洗い落す。
「ふぅ、すっきりしたー」
水を飲み、汚れを落とした俺はここらへんを拠点にすることにした。
「うーん、雨とか風をしのげる家がほしいな…」
遠くの方を見ていると少し先に建物が見えた。水ばかり気にしていたため気づかなかった。
「誰かいるのかな?…とりあえず行ってみるか」
この森に来てから独り言が多くなっている気がするのは気のせいではないのだろう。
建物、いや廃屋にはすぐについた。人の気配はない。
「おじゃましまーす」
キイィィ、と音を立ててドアを開ける。やはり人はいないようだ。廃屋の中にはテーブルや足の折れた椅子、何もない棚があったがどれもホコリをかぶっていた。ここに住んでいた人はどうしたのだろうか?おそらくだいぶ昔に森で死んでしまったのだどう。
制服は泥だらけだ。今更ホコリ程度で騒いだりはしない。
「よし、ここを俺の拠点にしよう!雨と風がしのげれば問題はないな。」
外で寝るよりはマシだ。そう結論付けてから俺は食糧を探しに拠点を後にした。
拠点からあまり離れないようにして俺は食糧を探した。出来れば肉が喰いたい。というわけで俺は喰えそうでかつ俺が勝てそうな獲物を探す。魔法や身体能力が上がっているがそれでもクマはおろかイノシシにすら勝てないだろう。狙うは
「小型の化け物だな。」
俺はアイツを殺すまで死ぬわけにはいかない。俺の人生を滅茶苦茶にしたアイツを殺すためには絶対にチカラが必要だ。だから焦らず確実に力をつけていくしかない。
しばらく歩いていると右の茂みから物音がした。俺はすぐに後ろに跳ぶ。直後角の生えたナニカが目の前を横切った。
(後ろに跳ばなければ危なかったな…)
俺はすぐにそれがなんなのかを確認する。体長1メートルほどのウサギのようだ。いや、角があるウサギって…
(ここってやっぱり地球じゃあないのかな…)
そんなことを思いながら俺は剣を抜き、左手で構える。剣道をやっていたわけではない。俺にできるのは適当に振り回すことぐらいだ。それでも、拳よりはマシかもしれない。
ウサギ、ホーンラビットは再び俺に跳びかかってくる。鋭くとがった角は刺さったら危険だ。しかし昨日のクマに比べると、劣る。
俺は冷静に見極め突進を右足を引いて体を横にしてよける。すかさず俺は攻撃が空振りし着地したホーンラビット目掛けて剣を振り下ろす。剣は背中に当たった。手に斬る、というより骨を砕く感触が伝わる。
ホーンラビットは動かない。どうやら死んだようだ。だが殺したことによる罪悪感とかは感じない。むしろ楽しくそしておいしそうに感じる。
(俺はもう地球に帰れないな…)
地球にいた頃のことを思い出していると涙が出そうになった。あわてて涙を拭いホーンラビットの足を掴む。
あと二、三体は欲しかったが暗くなり始めたので俺は拠点に戻りホーンラビットを骨と皮を残して食った。イノシシに比べるとかなり味が薄かった。
そしてホコリが積もった床で死んだように眠った。