第三話
「うっ……ぅぁああ…あー」
俺は変な声を出して目を覚ました。
「…あれ?なんで俺は寝ていたんだ?」
寝ている間に声を聴いた気がする。気のせいかな?
俺は起き上がり軽く周りを見る。最初に目に入ったのはイノシシの死体だ。もう肉が腐り始めていて周りには小さな虫やネズミっぽい奴らが我先にと喰らいついている。
足元には木の枝に突き刺さった肉、少し先には焚火がすでに燃え尽きていた。
「そういえば、俺は肉を食ってすぐに倒れて…あれ?…なんで俺は生きているんだ?」
確かに倒れて全身がこれでもかというほど痙攣して意識を失ったはずだ。あれで生きているなんて普通じゃない。
「だけど…生きているよな俺」
そう生きているのだ。
「特に体に異常は…え?」
とりあえず体に異常がないか調べてすぐに声を上げる。制服が汚れている。だがそんなことはどうでもいい。問題は
「なんだよ、これ…」
体の中にナニかがある。漠然とそれがチカラであるとなんとなく理解する。不可能を可能とすることができるようなそんな力。まるで
「魔法…?」
自分の体の中に意識を向けていると自然とその言葉が出てきた。だが使い方がわからないし何故そんなチカラが体の中にあるのか。疑問は尽きない。
「…望めば使えるのかな?」
(だけど生まれてこの方魔法なんて一度も見たことなんて)
そこまで思ってから昨日のことを思い出す。クマが、炎を吹き出していた。あれは魔法、なのではないだろうか?
口から炎…何度か見たが…自分の口から炎が噴き出る光景をイメージする。口から炎が吹き出ることを強く願う。そして
「っふ!」
息を吹き出すとともに炎、よりも小さい火が吹き出てイノシシの肉にくっ付いていた虫が燃える。虫は焼け死に火はすぐに消えてしまった。
「…うわぁホントにできちゃったよ。」
驚き呆然とするがすぐに異変はやってきた。
グゥゥゥゥゥゥl
腹からすごい音がした。そう腹が減ってきた。今までにないくらい強烈な空腹。体の中のチカラもほとんど残っていない。
(何か、食い物は…)
探し、足元に落ちている肉に手を伸ばす。そして泥や汚れなど気にせずに食らいつく。
(うまい)
昨日は微妙な味だったが今日はなぜかうまく感じる。半分ほど食ったが痙攣は起きない。それどころか段々チカラが湧いてきた。
(うまい)
口の周りが油や泥で汚れていくが構わず一心不乱に肉を喰らう。そうして肉を食い終わるが
(足りない)
俺の空腹は満たされなかった。
(もっと、もっと食いたい)
目の前には虫が群がり腐り始めている肉の塊。
俺はふらふらとソレに近づき邪魔な虫を払う。
(邪魔だ)
そう思って虫を払うと手が燃えて虫どもを焼き殺す。なぜ燃えているのかなんて今はどうでもよかった。
(肉、肉、肉、ニクニクニクニク)
頭の中には目の前のご馳走のことしかない。腐り始めた肉に顔を近づける。腐敗臭が漂う。しかし
(あぁぁぁ、ウマソウナニオイダ)
顔を顰めるどころか笑顔を浮かべる。そして、俺は、肉に喰らい付いた。肉と一緒に虫を喰うがうまいと感じてしまう。あたりにはクチャクチャと咀嚼する音が響いていた。