第二十七話
地這い龍リムドラ。その名を聞いたのはこの体に異変が起こる少し前だ。稀に森の奥から出てくるという。
過去に二度ほど姿を現したが、撃退が精一杯で討伐することは出来なかったようだ。
脅威となるのは巨体と物理・魔法をほとんど弾いてしまう強固さ。エルフたちは鼻先に攻撃を集中させることで撃退をさせたようだが撃退させただけでも奇跡だという。
多くのエルフの犠牲のもと成功した撃退。今、俺に求められているのはその場しのぎの撃退ではなく、討伐。
逃走は出来ない。姿は見えないが周りを囲まれている。前方にリムドラ、周囲に正体不明の強者たち。
森の奥で活動するにはこの難問を突破していかなくてはならないようだ。
体はホット、頭はクールに。先ほどまでの気持ちの高ぶりがうそのようだ。
奴が足を踏み出すたびに大地が揺れ、心が震える。両腕を前に突き出す。
形は炎を、イメージは破壊を。荒ぶる炎を抑え、凝縮していく。
まだ、まだ足りない。
魔法の達人ともいえるエルフたちでも勝てないこいつにはまだ、足りない。
魔力にものを言わせてさらに凝縮させていく。距離はあと20メートルもない。小さい山が動いているかのようだ。圧迫感を感じる。
焦るな、焦っちゃいけない。もう少しで……。
炎はまるで小さな太陽のように変化していく。
リムドラが歩みを止めた。攻撃対防御の真っ向勝負。
迷う音なく鼻先めがけて太陽を射出。すかさず土壁を前方に作り出し、伏せる。同時に太陽が炸裂し周囲に破壊をまき散らす。隕石が降ってきたらこんな感じになるのだろうか。
光、音、衝撃。耳をふさいでおくべきだった。何も聞こえない。分厚く作り出した土壁もほぼ全壊しかけている。うまく立ち上がることができない。それでも前を見る。破壊の惨状も、敵の姿も黒煙と土煙で見えない。
警戒しつつ後方に移動していく。どれだけの時間がたったのだろうか。時間が引き伸ばされているように感じた。
そして、山は動いた。
目を見開く。ありえない。硬すぎるだろうと。
呆然としている暇はなかった。リムドラが、移動速度を速めてきた。
縮地で距離を詰めてぶつかる前に右へ思い切り飛ぶ。
突進は避けたが次に待っていたのは大径木のような尾。土柱を伸ばし体をを押し上げる。尾が土柱を粉々に砕く様を見て冷や汗が流れる。
(どうする?どうすればいい?)
物理攻撃も魔法もほとんど効果がない。どうやってダメージを当てえていけばいいのか。そもそも奴は死ぬのか。不安が思考を鈍らせる。
考えがまとまらないまま、コアラのように樹木に抱き付く。
(……地面が陥没している。足跡か?)
リムドラが再び突進を仕掛けようとしている。
(一か八か、やってみるしかねぇ‼)
木から滑り落ち、手を地面につける。魔法を、広く、深く、想像し作り変える。
「沈め、大沼」