第二十五話
まだ見てくれている人がいる・・・
その事実が私を動かす
秋は冬に向けて、栄養を蓄積しなければならない時期である。森にすむ動物やモンスターの多くはたくさん食べて皮下脂肪や魔力を蓄積していく。この森には多くの強力なモンスターが跋扈しているがモンスターではない普通の動物も生息している。
モンスターに比べ弱いとはいえ、大抵の大型動物はゴブリン程度では負けないくらいの戦闘力はあるし、モンスターに負けないくらいの能力などを秘めている動物もいる。
この時期になると多くのモンスター達が食糧を求めて活動が活発になり、行動範囲が広がる。さらに狂暴化してしまうのでエルフの里では夏に比べてめっきり外に出ることが少なくなっていた。
「ハッ、ハッ、ハッ……ぅ、ハッ!!」
そんな中俺は、いつも異常に危険な森の中を走り回っていた。モンスターに追われているのではない。俺の血走った眼は地を垂れ流しにしながら逃走している『ボガート』というコボルトの上位種にあたるモンスターを補足している。
武器として振るっていた棍棒はすでに放棄し一心不乱に俺から逃げていた。俺はボガートを追いかけながら落ちていた木の枝を蹴り上げて手に取り、やり投げの要領で奴の足目掛けて思い切り投げる。放たれた枝は一直線に飛んでいきボガートは枝を足に絡ませてしまい派手に転倒する。
倒れたボガートに接近し、頭を踏み砕き、心臓を抉り取って、俺はまたすぐに走り始める。心臓を食い千切り新たな獲物を探していく。
心臓を食い千切ると勢いよく鮮血が噴出し顔や地面にしみついていく。味などに意識はむけない。ただひたすらに食欲を満たしていくだけ。
そもそも何故俺がこんな時期に森の中を駆け回っているのか。モンスターの狂暴化。それは俺も例外ではなかった。よく考えたら俺の半分以上はオンスターなのだから当然のことである。エルフの里にいては危険だと考えた俺は長老に短い説明をした後すぐに里を出た。それからは本能の赴くままに獲物を狩り、喰らっていく。そんなことを続けていた。
何も考えずに、喰らっていく。そんなことをしていた俺は気付かなかった。自分が今どこにいるのか。
決して超えてはならない線を越えてしまったことに。