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第二十四話

「最近暑くなってきたなぁ。そろそろ夏だな」


 世界が変わってもこの世界にはちゃんとした四季が存在しており、つまり夏も存在するということである。空を覆う木々の葉の間からは俺を溶かさんとばかりに太陽の熱烈な光が降り注ぐ。


「そうですね。あっ、夏と言えば『ルーンビートル』ですね」


流れる一筋の汗をぬぐいながらティアは言う。今日はティアと食糧を採りに来ている。


「ルーンビートル?」

  

聞き覚えのない言葉に俺は首を傾げながら聞き返した。


「知らないんですか?えっと……あ、あれです!!あの黒光りしていてカサカサ動いている甲殻類モンスターですよ」


 ティアの指さす方を見ると地球でよく見かけた『G』と呼ばれる昆虫によく似たモンスターがこちらに向かってくる。しかし大きさが段違いだ。膝ほどまであるぞ、あれ。


「うわぁ、キモいなぁ……」


最近は熱くなってきたからか、こういう虫っぽいモンスターをよく見かけることが多くなってきた。


ルーンビートルは羽を広げブウゥゥゥゥゥンと音を鳴らしながら羽ばたき飛びかかってくる。


「ふっ!!」


 居合斬りの要領で剣を抜刀しルーンビートルを真っ二つに斬る。緑色の血液をまき散らしながらルーンビートルは絶命した。


「弱いな」


「えぇ、ルーンビートルは弱くて私たち子供でも倒せるくらい弱いですよ。問題は強さではなく数です」


「数?」


剣を振り血を吹き飛ばしてから鞘に戻す。


「はい。毎年夏になるとルーンビートルが大量に発生するんですよ。だから長持ちする食糧を今のうちにためておくんです」


「ふーん、大量ってどのくらい?」


真っ二つに分かれたルーンビートルの片方を掴みあげる。心の中では


(これ喰えるんじゃね?)


と危ないことを考えていた。


「そうですね……とりあえず、ゴブリンの群れよりも多いですよ」


「げっ、ウソだろ?」


(ふむ、臭いは悪くない。何というか、コンソメっぽいな)


「本当ですよルーンビートルの集団が森を覆い尽くすんです。その光景は【黒い絨毯】って呼ばれているんですよ」


「く、黒い絨毯……ね」


その光景を思い浮かべると一瞬でチキン肌になる。


「……カズマさん、それ食べるんですか?止めましょうよ」


「いやいや、こいついい匂いだし結構旨いかもよ?モンスターに変わりないし」


そういって俺はそれを口に入れた。


パリッ


(!!こっ、これはまさか!!)


 美味い。見た目に反してこいつは美味い。妖しく黒光りする甲殻はジャガイモを薄くスライスし油でカリッと揚げた『あれ』を何枚も重ねたような触感。味は噛めば噛むほどじわじわとにじみ出でくる奥深いコクのある味。間違いない、こいつは!!


「ポテトチップだ!!」


 ティアは俺の様子に困惑しているが、俺の眼中にはもうポテチであるルーンビートルにしか入っていない。バリバリと音を立てながらルーンビートルを口に放り込んでいく。久しく食べるポテチ(ルーンビートル)に涙を流す。向こうにいたときは飽きるほど食っていたなぁ、と過去を思い出す。


足までしっかりを食らい尽くし俺は決心する。


「ルーンビートルを大量に確保しよう」


「え、カズマさん一体どうしたんですか?」


ティアは終始困惑していた。






 それから何日か経った。すでに黒い絨毯は発生している。里のみんなは引きこもってしまっているが俺はただ一人ポテチ(ルーンビートル)を求め里から出ていた。


 左に剣を、右に黒剣を掴みルーンビトルズに斬りかかる。ルーンビートルの戦闘力は低い。というか皆無といっても過言ではない。デカさはただの見かけ倒しだ。抵抗むなしくルーンビートルズはポテチに変わっていく。


そろそろいいだろうと、俺はこの日のために急いで作り上げた巨大な籠にポテチを突っ込んでいく。


(よし!!帰るか)


籠に蓋をしたところでそいつは現れた。


ドシン!!


「なんだ!!」


 振り向くとそこには巨大な甲殻類モンスターがいた。全長三メートルもある長く太い角を持つモンスター『オウドゴッギー』。


 オウドゴッギーの下には巨体に押しつぶされたルーンビートルが苦しそうにもがいでいる。縮地で接近し斬りかかるが火花を散らすだけで終わった。


「固いな。ルーンビートルとは大違いだ」


 オウドゴッギーは同じ甲殻類モンスターであるルーンビートルが好物でこの時期になると森の奥から出てくる。危険な相手だから、出会ったのならさっさと逃げろと忠告されているので俺は背を向けて縮地を発動させエルフの里に逃げ出した。勝てる相手ではない。


(今回は逃げたけど、いつか森の奥に行った時は……)


そう胸に秘めて、拳を強く握った。

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