第二十二話
二十日ぶりの投稿。遅くなりました。
俺がエルフの里に住んでから三か月ほど経ち季節は春になった。里には太陽の柔らかな陽光が差し込み爽やかな風がふわりと通りぬける。精霊たちは春の到来がうれしいのかいつもよりもはしゃいでいる印象を受ける。
そして今、俺は長老の家にいる。悪いことをして説教……とかではないぞ。
「ティアが風邪ですか」
「うむ、ティアだけでなく多くの者が風邪を引いてのぉ。薬草が足りなくなってしまったのじゃ」
あぁ、確かに最近よく咳をしているエルフを見かけたっけか。
「で、俺に薬草を取ってきてほしいと……」
「そうじゃ。頼めるかの?」
そんなこと聞くまでもないだろーが、長老。
「あぁ、わかった。薬草ってどういうやつなんだ?」
俺は傷なんて魔法で治してしまうし、病気にもなっていないから薬草なんて採ったことなどない。
「おぉ、そうかそうかちょっと待っておれ。……お主に採ってきて貰いたいのはこの【オレゴン草】という薬草じゃ」
俺は長老からオレゴン草を受け取り観察する。黄色く、葉先は丸みを帯びている。においを嗅ぐといかにも薬、といったにおいが漂う。
「どのくらい採ってくればいいんだ?」
オレゴン草をいじりながら「これ苦そうだなぁ」と考える。
「ふむ、採れるだけ採ってきてくれるとたすかるのぉ」
それならデカイ籠がほしいな……。
「長老、デカい籠を貸してほしい」
「籠か?ふむ、すぐに準備しよう」
おっと、オレゴン草がどのあたりに群生しているのかを聞いとかなければ。
「オレゴン草はどの辺に群生しているんだ?」
「ふむ、オレゴン草は水辺に多く群生しとる。見つけるのにそう苦労はせぬ筈じゃ」
長老から籠を受けとり俺はエルフの里を後にした。
オレゴン草は水辺に群生している。長老からそう聞いた俺はかつて拠点として住んでいた湖に向かって進んでいた。あそこならたくさん採れるだろう。途中、ウェアラットという膝ぐらいまである大きなネズミが襲ってきたが見た目道理すばしっこく厄介だった。しかし所詮はネズミ。すでに俺の腹に納まっている。
死神戦以来人間味を少し取り戻した俺だが、以前に比べればというレベルで俺は相変わらずモンスターを喰っていた。最近平和だし、里のみんなも好くしてくれるが俺は復讐者なのだ。晃を、ファルム王国を殺し滅ぼすためにモンスターを狩って狩って狩りまくり、喰らい力を付けなければならない。
(気が緩み過ぎないように気を付けなければいけないな)
気を引き締め、ウェアラットの心臓を噛み千切る。心臓は魔力が多く含まれている。見た目はあれだが以外にうまい。次に多いのは脳だ。味噌っぽいが決して味噌の味はしない。
「あぁ、日本食とかジャンクフードが食べたい」
エルフの里では自給自足の生活だがちゃんと調理したのもが食べられる。しかし米や味噌、醤油などはなくどちらかというと質素な洋食がメインだ。ジャンクフードもなく味の濃い照り焼きチキンなど夢のまた夢。味付けなんて塩や香辛料くらいしかない。ネズミの心臓なんてまさにジャンクフードっていう感じだが俺は普通にハンバーガーや体に悪いポテトが食べたい。……だけどもう食べられないんだよなぁ。恨む理由が一つ増えたな。絶対に許さんぞ。食い物の恨みは怖いのだ。
地球の食い物を考えながら進んでいたらいつの間にか湖にたどり着いた。
(大体三か月ぶりかな?)
エルフの里に住んでからここには一度も戻っていない。拠点には再びホコリが積もり始めているだろう。
(っと、懐かしんでいないでさっさとオレゴン草を集めるか)
今の季節は春。色んな草花が成長している中、黄色い葉っぱというのは結構目立つ。オレゴン草は長老の言う通り簡単に見つかった。黙々とオレゴン草を集め始める。こういった単純な作業は割と好きな方だし、お世話になっているエルフのみんなのためと思えば全く苦にはならなかった。
「……ふぃー。こんなもんかな」
背負っていた籠一杯にまで集まった。オレゴン草が落ちないようにしっかりと蓋をする。しっかりと蓋をしたことを確認してからエルフの里に戻り始めた。
湖を出てから里まであと半分というところでそいつらは姿を現した。やかましい鳴き声とともにゴブリンどもが集まる。棍棒を持った前衛ゴブリンが三体に、弓を持った後衛ゴブリンが二体の計五体だ。ゴブリンなど俺なら一撃で倒せるほどの雑魚だが、仲間と連携して襲ってくるので決して侮れない。ゴブリンシャーマンはいないようだ。長老の話ではゴブリンシャーマンは下級とはいえ攻撃魔法を使ってくるし、何より身体強化などの補助魔法を使用してくるので厄介だと言っていた。
前衛ゴブリンが突っ込んでくると同時に矢が飛んでくる。剣を抜き、躱せない矢は剣で弾く。そうしているうちにゴブリンどもが接近し棍棒で殴り掛かってくる。俺は大きく後退し棍棒を躱し、距離を取る。剣に風を纏わせ後衛ゴブリンに地走りを飛ばす。後衛ゴブリンは地走りを躱そうとするが一体は躱し切れずに右半身を切り刻まれ、もう一体は木を盾にしてやり過ごした。
前衛ゴブリンは再び接近し俺を囲む。襲いかかる棍棒を弾き、躱し、逸らすことで対応する。時折放たれる矢が思いのほか厄介で、俺は舌打ちをする。
(速く帰らなきゃいけねーのに。めんどくさいやつらだ)
それでも俺に逃げるという選択肢はない。腹が減っている。ウェアラットごときでは腹は膨れないのだ。
(そりゃ!!)
「ぎゃ!!」
地面を蹴り上げ土を飛ばす。土は一体のゴブリンの目に入り攻撃の手が止まる。左から振り下ろされる棍棒を躱し剣を股間から頭まで切り上げる。切り上げた剣の勢いをそのままに右へ頭から股間まで振り降ろす。放たれた矢を前方のゴブリンを蹴り上げて盾にして防ぐ。矢には毒か塗ってあったのかゴブリンは白目をむき体はガクガクと痙攣し始める。
蹴り上げたゴブリンを後衛ゴブリンに向かって思い切り蹴り飛ばす。強化された脚力によってゴブリンはサッカーボールのように一直線に飛んでいく。
「ギャッ!!」
背後にある木と仲間のゴブリンにはさまれ小さい悲鳴を上げる。すかさず俺は剣に風邪を纏わせ縦、横と斬撃を飛ばす。斬撃はゴブリンだけでなく背後の木まで十字に切り刻んだ。鮮血十字……『ブラッディクロス』。うん、カッコイイな。
戦闘を終えた俺は早速臭いゴブリンの死体を喰い始める。
今回はゴブリンシャーマンがいなかったがいたらもっと厄介だっただろう。たった五体のゴブリンでも連携しての攻撃は面倒だ。矢には痺れ毒なんかが塗られているし……おっと、こいつは毒入りのゴブリンだ。盾にするんじゃなかったかな。
捕食を終えすぐに俺はエルフの里に帰還した。ゴブリンとの戦闘のせいでもう日は暮れている。
「長老、ただいま戻りましたよ」
「おぉ、遅かったなカズマ。一体何があったんじゃ?」
俺は背負っていた籠を長老に渡しながら事情を説明する。
「ふむ、ゴブリンか……」
「あぁ、まあゴブリンシャーマンがいなかったからそれほど問題にはならなかったよ」
「最近妙にゴブリンを見かけるという話を聞いてのぅ。この辺で縄張り争いでもしとるのかもしれん。今後は注意した方がよさそうじゃな」
縄張り争い。生き物だしそういうのもたまにあるらしい。
「ごくろうじゃったカズマ。これだけオレゴン草があれば足りそうじゃ。疲れたじゃろう?食事を用意したから食べていくといい」
「助かります長老」
まぁ縄張り争いなんてそのうち終わるだろう。俺はそんなことを思っていたが甘かった。もう食えないバニラアイスにはちみつをたっぷりかけるくらい甘かった。
ゴブリンの縄張り争いは猫の縄張り争いのような生易しいレベルべはなかったのだ。だがそれを知るのはもう少し先になってからだった。