第二十一話
少し修正しました。
エルフ。ゲームや小説の中などでは長寿で肉弾戦よりも弓や魔法などを使って戦う種族で、何よりも美男美女である設定が多い……と俺は記憶している。
実際俺が見てきたエルフは美男美女だったし、長老も今では爺さんだが、昔はやはり容姿が優れていたであろう面影があった。
しかし目の前のエルフはどうだろう。
弓とか遠距離魔法とは縁のなさそうな鍛え上げられた筋骨隆々の肉体。髪の色は美しい?金色の坊主頭。くねくねと揺れる腰は、このエルフが女性ならとても艶めかしく拍手喝采で喜んでいただろうが、今は吐き気しかもたらさない。
ゆったりとしているはずの服は鍛えられた筋肉によってピチピチのボディスーツ状態。
顔はひたすらに濃い。
美男ではない。
室内でトレーニングでもしていたのだろうか。全身からは汗が滴り、ナキオから蒸気が上がっている。開け放たれたドアからは日本の夏のようなジメジメした空気が熱せられたアスファルトのごとくゆらゆらと熱を放出する。
俺はナキオの自己紹介など聞いていなかった。否、聞く余裕がなかった。美しい女性エルフを期待していたのに蓋を開けてみればこの様だ。オカマエルフが出てくるなんて誰が予想しただろう。
「それで?可愛いぃあなたの、お名前はなんていうのかしらぁ~?」
「さ、佐藤、和馬…です」
勝手に口が動いてしまった。早く帰りたい。
「まぁ~可愛い!!そんなに恥ずかしがらなくてもいいのよぉ~。カズマのお世話はアタシがすることになっているの。よろしくねぇ~」
勘弁してください。あと腰振る速度を速めないでください。
あぁ、ここでの生活は思っていた以上にきつそうだ。
エルフは自給自足で生活をしている。当然食糧はモンスター……ではなく森にある野菜やキノコ、果物に動物・魚だ。俺とナキオは食糧調達&結界周辺をうろつくモンスターの討伐をしている。
「ナキオさん、この「あらやだ、カズマちゃんったら。アタシのことはナキちゃんって呼んでっていったでしょ~」……ナキちゃん」
「なにかしら~?」
うぜぇぇぇぇぇ。このオカマ野郎、ぶっとばしてもいいのだろうか?
「……このキノコは食べられるのでしょうか?」
毒々しい紫色のキノコを指さしながらナキオに聞く。
「んん~そのキノコはハナチオバタケと言って、毒はないけどあまりおいしくはないキノコよぉ~」
「そうですか」
あれはなんですか?とか、これは食べられるのですか?と聞くとナキオは嫌な顔一つせず丁寧に説明をしてくれる。オカマだけどいい人のようだ。
「…カズマ、モンスターよ」
木々の間を素早い動きで移動する体長一メートル半ほどのサル(ラクシャサというらしい)が三体。
「アタシが二、カズマは一、行くわよ!!」
「はい」
俺は短く返事をすると右腕に黒い霧を、左手に剣を構える。
ナキオがどのくらい強いのか気になるが俺は目の前の一体に集中する。一週間寝ていて腹が減っているのだ。容赦はしない。
ラクシャサに闇弾を放つが素早い動きで躱され、木々を盾に防がれる。
木に隠れ出てこない。木ごと打ち抜こうと考えていると上から音がした。
「くそ、上か!!」
ラクシャサは木に登り上からの奇襲を仕掛けてくる。手には太い木の枝が掴まれておりラクシャサは飛び降りるのと同時に枝を投擲してくる。
バックステップで躱すと枝は地面に勢いよく突き刺さり土埃が舞う。ラクシャサは軽やかに着地し枝を抜き槍のように二度、三度と高速の突きを放つ。
剣で逸らし、右腕で弾き隙を作る。
枝を弾かれ後ろに体勢を崩したラクシャサに剣で斬りかかる。
「なっ!!」
ラクシャサはバク宙で剣を躱し、枝を地面に突出し距離をとる。
「甘い!!」
俺は触手を伸ばしラクシャサの足に巻き付け地面に叩きつける。
「ギャッ!?」
短い悲鳴を上げるラクシャサを触手を縮めて引き寄せ、剣に炎を纏わせ振るう。
「飛焔・双牙!!」
二つの炎の斬撃がラクシャサに当たり爆発し手足を吹き飛ばす。
「ふぅ~やっと終わった。さて、ナキちゃんの方はどうなったかな」
ナキオの姿はすぐに見つかった。どうやら一体倒しているようだ。
「キィィィィ!!」
ラクシャサの爪がナキオを襲い、ナキオは腕を交差し防御の体制をとる。
爪は腕を引っ掻くが火花を散らすだけでナキオの腕には傷一つついていない。いくら鍛えられた筋肉といえど、モンスターの引っ掻きを防ぐのは無理だ。おそらくは精霊魔法だろう。
ナキオはラクシャサを蹴り上げ反撃に移る。というかとどめを刺しにかかる。
「いくわよぉ~…」
足を広げてどっしりと構える。
「おるぅらぁぁぁぁぁぁ!!」
勢いよく打ち出された右のストレート・パンチを受けたラクシャサは打ち出された砲弾のように吹っ飛んでいき木に衝突し、骨の砕ける音を響かせながら絶命した。
……ナキオは本当にエルフなのだろうか。
「あらん、カズマちゃんの方は片付いたの?」
「えぇ、まあ一応…」
「それじゃあ、食糧調達に戻るわよ」
「あぁ、ナキちゃん。その前に食事をさせてください。腹が減って死んでしまいそうです」
そういいながら俺はラクシャサを喰い始める。
「……驚いたわ。カズマちゃんってモンスターを食べられるの?」
クチャクチャと咀嚼している俺にナキオは驚いているようだ。
「特異体質というか、喰わないと理性を保っていられないんですよ。長老から俺のことを聞いていないんですか?」
「カズマちゃんがモンスターだなんて聞いてないわよ~。カズマちゃんエルフは食べないの?」
「エルフって見ても食欲湧かないんですよ。だから食べません」
そんな会話をしながら俺はラクシャサ三体を喰い終え食糧調達を再開する。
「そういえば、ナキちゃんて精霊魔法使わないの?」
「アタシはちゃんと使っているわよ。カズマちゃんは精霊魔法をどのくらい知っているの?」
大根っぽい野菜を採りながらナキオに聞く。
「そもそも、魔法自体よくわからないですよ」
「あら、そうなの?」
俺の言葉が予想外だったのだろう。ナキオは少し驚いているようだ。
「魔法というのはね……」
ナキオの説明によるとこの世界の魔法は大きく分けると三つ存在するらしい。
一つは人間が使う『神聖魔法』。二つ目はエルフが使う『精霊魔法』。最後にモンスターが使う魔法に分かれる。
『神聖魔法』は神々に願うことで発動する魔法。神は、火の神、水の神、風の神、土の神、雷の神、光の神、闇の神、時空の神の八神。
『精霊魔法』は精霊に願うことで発動する魔法。火の精霊、水の精霊、土の精霊、風の精霊、光の精霊、闇の精霊の六大精霊。
『神聖魔法』は精霊たちに悪影響を及ぼすらしい。エルフが人間を嫌うのは『神聖魔法』の存在と過去に迫害を受けたため、だそうだ。迫害を受けたエルフはその数を大きく減らしたが森に逃げ込み強力な結界で生き延びてきたらしい。
人間もエルフも生まれた時から根源属性が存在し根源属性は増えることも減ることもない。根源属性は通常一つか二つ。多くても四つだそうだ。
モンスターの使う魔法についてはよくわからないと言っていた。
ナキちゃんはどんな精霊魔法を使うのかと聞いたところ、どうやら精霊を体内に取り込み身体能力を上げる補助・精霊魔法しか使わないようだ。
火の精霊は『力』、水の精霊は『治癒速度』、土の精霊は『防御力』、風の精霊は『速度』、光の精霊は『再生と加護』、闇の精霊は『破壊と呪い』の特性があり、ナキオは火の精霊の『力』と土の精霊の『防御力』を使う。
「ナキちゃんたちエルフは精霊が見えるの?」
「当然じゃない。見えなかったら精霊魔法は使えないわ」
ふむ、どうやら精霊は存在するらしい。俺は左目を閉じながら願う。
「属性は付加。対象は左目。効果は精霊の可視化を願う」
魔法名は…『エルフの眼』といったところかな。
目を開くと赤・水・黄・緑・白・黒色の小さい光が漂っているのが見える。
「これが、精霊か…」
「カズマちゃん…精霊が見えるの…?」
「えぇ、案外うまくいくものですね」
精霊たちは黒い霧が嫌なのか俺を避けながら浮遊している。俺は黒い霧をひっこめると黒色の精霊だけがが体にまとわりついてきた。じゃれているのかな?
「カズマちゃんには驚かされてばかりね……。精霊が見えるだけでなく、闇の精霊だけとはいえ精霊に好かれるなんて……」
「あはははは……」
この後俺は闇の精霊魔法が使えるのかどうか試したところ問題なく使え、さらにナキオを驚かすことになった。
里に帰るとエルフたちの歓迎を受けた。精霊は悪い存在には近づかない。和馬は闇の精霊に好かれ、精霊魔法を使えることからエルフたちに認められることとなった。
エルフたちの歓迎を受けながら和馬は自分の使う魔法について考えていた。
神聖魔法は神々に願い、精霊魔法は精霊たちに願う。俺は一体何に願っているのだろう?と。