第二十話
右の瞳の色が紅色なのはわかるがどうやら左の瞳は黒から金色に変わっているようだ。
「……長老、鏡貸してもらえますかね」
「鏡か?ふむどこにやったかのぉ…」
長老は椅子から立ち上がり使い込まれた引き出しを漁る。
「おじいちゃん、鏡ならここにあるよ」
見かねたティアは隣の引き出しから手鏡を取り出す。
「おぉ、すまんのぉティア。最近妙に忘れっぽくてのぉ」
そう長老が言うが、まぁ確かに見た目は外国人の耳が長い老人だからな。
「どうぞ、カズマさん」
「あぁ、ありがとうティア」
お礼もそこそこに俺は鏡をのぞく。そこに映っていたのは長老の言う通り紅と金の瞳の冴えない男の顔が…というか俺の顔があった。
「確かに金色だ…」
「なんじゃ、元々の色じゃないのか?」
「いえ、元は黒だったんですけどね。まぁ視力に問題はないし別にいいか」
そう呟いてから俺は「ティアありがとう」と手鏡をティアに返す。
「では、これで失礼します。ティア案内をよろしく頼む」
「はい!!」
「ほっほっほ、それではの」
「……ふん」
おっさんいい加減睨むのやめてくれよ。
ティアの案内で俺は今後住むことになる住居に移動した。長老の家からはだいぶ遠く、里の中心から一番離れている。ここに来るまで二十分くらい掛かり道中で多くのエルフを目にしたが遠巻きに眺めているだけでこちらには来なかった。やっぱりの姿だから嫌われているのかなぁ。
ティアはやることがあるらしく案内を終えると帰って行った。俺の世話はお隣さんに住んでいるエルフが見てくれるらしい。優しいくて美人な女性エルフだといいなぁ、なんてことを考えながら室内に置かれているクローゼットを開く。
「お、エルフたちが着ている服があるぞ」
これでボロボロの制服とはおさらばだ。もう二度と着ることはないだろう。
制服を脱ぎ淡い緑色のゆったりした服を着ていく。
「…初めてお前を着たときはここまでボロボロになるなんて想像していなかったが……さよならだ。ありがとう」
脱いだ制服を焼却処分して俺はようやく自分の変化に気付く。
(腹があまり減っていない?破壊衝動も殺戮衝動も感じない。人間に戻ったかのような感じだ…)
心がとても穏やかに感じる。
(そういえば左腕はどうなったのだろうか……見てみるか)
包帯が巻かれてているがすでに痛みはなく、自由に動かせる。解いてしまっても問題はないだろう。
「げっ、なんだよこれ……」
白。左腕が指先から肩にかけて白いペンキで塗ったかのように真っ白に変色している。
「今までで一番人間離れしているぞ、これは……」
おそらく生きるために、光魔法に対応するために変異してしまったのだろう。……たぶん闇属性には対応していない。
左手に光弾、右手に闇弾を発動しながら、俺の体は最終的にどうなるんだろ、人の形は保っていられるのかなぁとしばらく考えるが何か分かるはずもなく。
「……お隣さんに挨拶に行こう」
魔法をキャンセルし俺は自宅を後にした。
自宅の周りにはお隣さん家しかない。嫌われているのかな?
俺は特に気負うことなくお隣さん家のドアをノックする。
「はぁ~い。今開けますからちょっと待っててくださ~い」
おっ、高い声…女性エルフか!!
ティアに案内されているときに見たエルフはみな美男美女ばかり。おそらくこの声の持ち主たる彼女もさぞ美しいことだろう。
ヤバい、少し緊張してきたとか、どこか変なところはないよな、と慌てる。しかし俺の緊張など知らんと言わんばかりにドアが開きだす。
「!!」
開かれたドアの奥を目にした瞬間、俺は挨拶を忘れたまま驚愕した。
そこにいたのは
「おまたせぇ~。あら!!可愛いぃ~坊や!!あなたが長老さんの言っていた子ね。話は聞いているわ。アタシは里一強く、そして美しいエルフ…ナ・キ・オ。ナキちゃんって呼んでね」
くねくねと腰を振りながら自己紹介をしてくる筋骨隆々のオカマエルフがいた。