第十九話
二話連続投下~
「ふむ、それでお主は一体何者なのじゃ?」
俺は今、椅子に座りテーブルの向こうには老いたエルフの爺さんが座っている。その後ろには二十代くらいの若い男のエルフがとティアが並んで立っている。男のエルフが殺気を飛ばしてくる。何か悪い事でもしたのかなぁ。
ここはエルフの里。俺がいるのはエルフの長老の家だ。腹に空いた穴は塞がり、左腕には包帯?のような物が巻かれている。
どうしてこんなことになっているのか。それを説明するには少し前に遡る。
あの日、森の異変を感じたのはティアだけではなかった。エルフの里にいるエルフたちも異変を感じていた。エルフたちは異変の原因を調べるため森に出ていた。
ティアは帰りが遅い俺を心配して森を彷徨っていたところ、突如森の奥から光が溢れ出した。
俺が死神を消滅させるために放った光魔法『アキラ』の光だろう。
ティアだけでなく、森の異変の原因を探していたエルフたちも光に気付き光の方向へ向かうとそこには腹に穴が開いている人型のモンスター(俺)と泣きながらモンスターに呼びかけ、傷の治癒を行う、行方不明のティアに遭遇。俺にとどめを刺そうとしたエルフにティアは気付きエルフを説得。
さらに無理を言ってエルフの里まで運んでもらい一週間俺は眠り続けていたらしい。
目を覚ますとすぐに呼び出しがかかり、長老の所まで案内され「何者だ?」という質問を受けている。
「と、いうことだ」
「……一体何を言っているんじゃ?まだ寝ているのか?」
そんな変なものでも見るような目はやめてくださいよ。俺は正常だ。
「それで、お主は何者なのかと聞いているのじゃが?」
そうだった。俺が何者なのか聞かれていたんだった。…さてどう答えたものか。
「……モンスターなんじゃないんですか?」
「確かにお主からはモンスターの気配を感じる。じゃがな、もう一つ別の気配を感じるのじゃよ」
「……もう一つ?」
ティアはモンスターの気配としか言っていない。だがこの爺さんは別の気配も感じたようだ。
「もう一つ、人間の気配じゃよ」
男のエルフの殺気がさらに強くなった。人間に強い恨みでもあるのだろうか。とにかく好かれてはいないようだ。
「人間の気配ですか?」
「そうじゃ、だから問うておる。モンスターが人間の姿に擬態をしても気配まで変わることはない。モンスターから人間の気配を感じることもない。じゃが、お主からはどちらの気配も感じる。お主は何者じゃ?」
「……」
言うべきか、言わないべきか。まぁ、別にばれても問題ないし言ってもいいかなぁ。
「元人間のモンスター、かな」
「元人間?どういうことじゃ?」
爺さんは眉を顰めながら聞いてくる。今更ながら爺さんの名前はなんていうのだろう?
「どういうことも何も、森で、腹が減ったからモンスターの肉を喰ったら…」
「なんじゃと!!お主モンスターを喰ったのか!?」
爺さんは驚きの表情が広がっている。爺さんの後ろではエルフの男が「ありえん」と殺気を飛ばすのを忘れながら呟き、ティアも口に手も当てて驚いている。
「え、えぇ、まぁ死にかけましたが今ではピンピンしてますよ」
「そうか、それならお主からモンスターと人間の気配を感じるのも納得じゃな…」
モンスターの肉には毒が含まれており人間だろうとエルフだろうと一口であの世行きじゃぞ、と爺さんは教えてくれた。
「へぇー、そうなんですか…慣れるとおいしいですよ?」
「よかったら今度一緒にどうですか?」と聞くと、「いらんわ」と呆れながら返してきた。
「モンスターを喰うなと教わらなかったのか?」
どうやらこの世界ではモンスターの肉は食ってはいけないというのが常識のようだ。
「俺の故郷にモンスターなんていませんでしたからねぇ」
「モンスターがいないじゃとぉ?お主、生まれはどこなのじゃ?」
隠してもしょうがないし正直にぶちまけてしまおう。命の恩人だし。
「異世界です」
「なん…じゃと…。ではお主は勇者なのか?いや、ありえん。次の召喚までまだ三十年はかかるはずじゃ…」
「俺は勇者ではありませんよ……ただ召喚に巻き込まれてだけの一般人ですよ」
しかし三十年か…ということは晃はまだこの世界に召喚されていないのか。
「俺は召喚に巻き込まれた。ある程度場所や時間にズレが出てもおかしくはないでしょう…たぶん」
俺の言葉に爺さんは確かにと、うなずく。
「それでお主はこの世界で何がしたいのじゃ?」
「何がしたいって…決まっているじゃないですか」
当たり前なことを聞くなよ爺さん。
「復讐ですよ」
「……そう言うと思っとったわい」
じゃあ聞くなよ、オイ。
「それはこの世界に対してか?それとも…」
「いえいえ、復讐対象は二つ。勇者召喚をしたファルムとかいう国と巻き込んだ『アイツ』だけですよ。あなたたちエルフには危害を加えるつもりはありませんし、命の恩人に対して手を出すなんてことはしませんよ」
「魔法王国ファルムと勇者、どちらも厄介な奴じゃぞ。それでもお主は復讐をするのか?」
「もちろんです」
「……そうか。まぁ、お主の好きなようにするといい」
「止めないのですか」
同じ世界に住む人なのに
「人間とエルフは犬猿の仲……人間がどれだけ死のうと痛くも痒くもないわ」
わっはっはっはと豪快に笑っている。
「ところでお主、名は何というのじゃ?」
いまさら名前を聞くのか。
「佐藤和馬だ。和馬と呼んでくれ」
「カズマ、か。よしカズマ。お主ここに住んでみないか?」
爺さんは笑いながら聞いてくる。一体何を考えているんだ?
「まぁ、硬い床で寝るのも嫌になってきたしなぁ……住んでいいなら住みますよ」
よく見ていなかったけどエルフの里きれいだしね。
「ふむ、それならお主の住む場所は……」
「長老!!こんな得体のしれない奴を里に置くなど…正気ですか!!危険すぎます!!」
エルフのお兄さん邪魔しないでよ、せっかくのいい気分が台無しだよ全く。
「黙れ!!オルドス、貴様の意見など聞いてないわ!!」
「しかし!!…」
「口を閉じろ、バカ息子が!!」
あっ、オルドスっていうんだあの人…人?あのエルフの方が正しいのかな?
「くっ、わかりました…」
キッと俺を睨みつけるオルドスさん。殺気が三割増くらいになっている。
「すまんのぉカズマ。とっ、ちょうど空き家があっての、お主にはそこに住んでもらうことになる。ティア、案内をしなさい」
「はい!!任せてください!!」
可愛いなぁ、ティア。
「頼むよ、ティア」
ティアは「わかりました!!」と元気よく返事を返してくれた。癒されるなぁ。オルドスとかもうどうでもいいわ。
「挨拶が遅れてしまって申し訳ないのぉ。わしはこのエルフの里の長、アルフレッド。息子のオルドスと、孫のティアじゃ。エルフの里へようこそカズマ。歓迎するぞ」
「お世話になります!!」
こうして俺はエルフの里に住むことになった。
「ところでお主の瞳の色、紅と金とは変わっておるのぉ」
なぬ!?