第十六話
国王様と謁見をする前に僕と咲美ちゃんの所にはシルファさんが来ていた。
『国王様の前では勇者様らしく聖女様らしく振舞ってください。…急に召喚されて混乱しているのはわかっています。ですがそこを何とかお願いします!!』
シルファさんが必死に頭を下げてきた。僕はここに召喚されたということにいまいち実感が持てていないから混乱は小さい。しかし咲美ちゃんは大事な兄が行方不明になって一ヵ月立っている。精神状態がかなり不安定なはずだ。聖女らしく振舞えるのだろうか?
「咲美ちゃん、大丈夫?」
「晃さん…私は」
兄さんは行方不明。だめ、私が兄さんを信じなかったら誰が信じるの?きっと兄さんは無事だ。だから私は元気を出さなくちゃ。
「…わかりました。大丈夫です」
「お二人とも、ありがとうございます!!…そろそろ時間です。私は先に行きます」
そうして国王様との謁見は始まった。
国王様との謁見が終わり僕と咲美ちゃんは昨日案内された部屋に戻っていた。部屋には僕と咲美ちゃんのほかにもう一人シルファさんがいる。これからの予定なんかを話すそうだが僕は昨日から聞こうと思っていたことを聞くことにした。
「あの、シルファさん、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「もちろんです晃様。それで聞きたいこととは?」
「…昨日、僕と咲美ちゃん以外にもう一人召喚された人はいなかった?」
そう聞くとシルファさんは思い当たる節があるのか少し考える。
「…もう一人…晃様を召喚しているときに小さな引っ掛かりを感じましたが…確証はありませんがその可能性はあります。ですがなぜそのようなことを?」
「実はそのもう一人は咲美ちゃんの兄で僕の親友なんです。僕が親友…和馬って名前なんですけど…召喚されるときに和馬の手を掴んで巻き込んでしまったんです」
「なるほど…それならばおそらくは召喚場所の座標が狂ってしまい、ここではない別の所に出現しているかもしれません」
その言葉を聞き落ち込んでいた咲美ちゃんは少し明るさを戻す。
「兄さんは、生きているのですか?」
「大丈夫だよ咲美ちゃん。きっと無事だろうし、僕らと同じ世界にいるんだ。必ず会えるさ」
「咲美様、晃様の言うとおりです。咲美様のお兄様とは必ず会えます。元気を出してください!!」
僕とシルファさんに励まされ咲美ちゃんはなんとか元気を取り戻した。
「…シルファさん、最後に一つ聞いてもいいですか?」
和馬の心配はなくなった。僕はどうしても聞いておかなければならないことをシルファさんに聞く。
「僕たちはもとの世界に戻れるの?」
「もちろんです晃様。すべてが終われば帰還魔法で帰ることができます」
「本当ですか?」
重要なことなので僕は慎重に聞く。
「本当です。嘘はありません」
「…わかった。シルファさんを信じるよ」
「ありがとうございます晃様。…それでは晃様、咲美様これからの予定について話していきたいのですがよろしいでしょうか?
「うん、わかった」
「はい、大丈夫です」
こうして僕たちは魔王討伐への長い、長い道を歩き始めた。