第十五話
翌日。
煌びやかな大広間、着飾った男女が左右にずらりと並んでいる。シルファさんは上座の方に立っている。
そして正面には宝石やら金銀が填め込まれた派手な椅子に座っているのはおそらく国王と王妃。
その背後には武装した赤い髪の女騎士。護衛かな?
僕と咲美ちゃんは膝をつき、頭を下げている。
「そなたたちが、勇者と聖女か」
国王の重く体中に響く声が大広間に広がる。
「はい。国王様」
国王様は僕と咲美ちゃんを見て満足げに頷く。
「そなたたちには三年後に現れる魔王を打ち倒してもらいたい」
「魔王…ですか」
「うむ。魔王を倒すことができるのは根源属性が光、それも強力な光属性でなければならん。…召喚は無作為に選ばれるものではない。強力な光属性を秘める者を勇者として、モンスターの魂を浄化することができる者を聖者・聖女として召喚するのだ」
魔王を倒す力。それが本当にあるのかは自分ではよくわからないが、それでも僕を必要とする。僕の協力でこの世界の人々が救えるのなら僕は、
「僕、神崎晃は魔王討伐を引き受けます!!」
困っている人がいるのなら僕はできることをするまでだ。
「私も、佐藤咲美も引き受けます!!」
こうして僕たちは魔王を討伐することになった。
最近森の中が寒くなってきた。俺は黒い霧を丸くしたり、四角くしながら森の奥を歩いている。形を変えているのは特に意味はない。あれからティアと何度か話をしたのだが中々警戒心を解いてくれないので最近は「危害を与えません」アピールをしながら暮らしている。…いまだに向こうから朝の挨拶が来ないがきっとそのうち心を開いてくれる。
ティアのことを考えているとモンスターが近づいてきた。
出てきたのは体長一メートル半の猿だ。特徴は腕が異常に長い。地面にくっ付くぐらい長く厄介だ。数は三体。
一体が真正面から飛び込んでくる。霧を右腕に纏わせ龍化させ、頭に噛り付く。そのまま食い千切るとドスっと音おたてて頭のない死体が落ちた。
霧が薄くなった左側から長い腕を振るわれる。右に躱そうとするが爪に魔力が集中しているのを確認すると俺は思い切りジャンプした。俺のいた場所を風の刃が通過し地面に傷跡を残す。
悔しそうにこちらを睨む猿を目掛けて無数の触手を飛ばす。すると触手の横から風の刃が飛び触手を切り刻んでいく。斬られた触手は形を崩し霧散し消滅した。舌打ちをしながら着地し妨害してきた猿に黒火球を飛ばし牽制しておく。
牽制している間に接近してきた猿の攻撃をかわし、剣を抜き放ち斬りつけ、怯んでる隙に剣を突きだし頭を貫く。
再び横から風の刃が放たれるが、剣を引き抜き死んだ猿を蹴り上げ盾にする。風の刃は猿に当たり無数の傷からは血が撒き散らされ地面に染みになる。蹴り上げた猿が盾と目隠しになり俺は縮地で簡単に猿に接近することができた。長い腕を振り上げてくるが黒い触手が全身を貫通し絶命する。
「ふぅ、疲れたぁ…」
俺は触手を伸ばし猿の死体を集める。一々拾いに行かなくて済むので楽だ。死体を集め手早く食事を終わらせた俺は、上を見上げるが…空が、太陽が見えない。まぁきっとお昼の時間帯ぐらいだろうとあてにならない腹時計で判断をし、今日の狩はここまで!!と拠点に戻り始める。
拠点に戻るとティアが湖で釣りをしていた。…別にティアの趣味ではない。俺が「肉は食い飽きたので果物や魚を採って来い」と言ったのだ。ティアはがくがくと何度も頷いて了承してくれた。やさしいなぁ。
ティアは俺が帰ってきたことを確認するとすぐに釣り道具(ティアが自分で作った)を片づけて食事の準備に取り掛かる。…なんか癒されるなぁ。
今まで拠点は俺が寝ることだけに使っていたが、ティアが来てからは随分と変わった。ホコリが積もっていた床は塵ひとつ存在しないぴかぴかな床になったし肉以外のそれも簡単ではあるが『料理』を用意してくれる。ありがたいなぁ。
ティアが食事の支度をしている間、俺は暇になる。そこで俺は廃屋の少し離れた所に直径三メートル、深さ八十センチほどの穴を開け固める。そこに魔法で水を満たし水分子を振動させて40℃ぐらいまで温める。
「風呂だぁぁぁぁぁ、やったぁぁぁぁ。…いやー意外と簡単にできるもんだなー」
俺は布きれ同然の制服を脱ぎ、湯に浸かる。
「あ゛ぁぁぁぁぁ、きんもちうぃぃぃ!!」
突然奇声をあげた俺に驚きティアが調理を中断し様子を見に来るが、裸の俺を見ると顔を赤く染めて急いで逃げて行った。
……かぁぁわぁいぃぃぃぃぃ!!…落ち着こうか俺。
風呂の気持ちよさとティアの可愛さで死にそうになるぐらい興奮する。
いやぁ、やっぱ風呂はいいなぁ。浄化で綺麗に出来るけど、これからは風呂に入るようにしよう。
あまりに気分がいいので俺は鼻歌を歌いながら久々の風呂を満喫した。
「さて、そろそろあがるかな」
嗅覚強化された俺の鼻が旨そうな匂いを嗅ぎつけて腹を鳴らす。ティアの料理では魔力は得られないが別の何かが得られるのだ。
風呂からあがり俺は水滴を蒸発させ制服を着て匂いのもとへと急いだ。