第十四話
森の奥に進んでからたぶん一週間がたった。…もしかしたら二週間かもしれない。まぁ細かいことは気にしないおこう。森の奥の化け物どもは予想以上に強く、エンカウント率も比べ物にならないくらいに高くなっていた。
来ていた制服はボロボロで正直服としての機能を保っていない。赤く染まった右目はもとに戻ることもなく黒い霧も常に薄く纏った状態だ。
そんな中、俺は喜んでいいのかよくわからない状況に陥っている。
「人間に化けても無駄よ!『エルフ』である私は気配でわかるんだから!」
足を怪我したエルフの少女は木を支えに立ちながらギャンギャン喚いている。
「おいおい、んなデカイ声出すなよ。気づかれるだろ…」
静かにするように注意するが全く聞く耳を持たない。
(どうしよう…)
初の異世界の住民遭遇なのだが、どうしよう。うるさいし殺してしまおうか。いやいやちょっと待とうか俺。相手はまだ子供だ、殺しちゃいかんだろ?
頭の中でくだらない茶番を繰り広げながらエルフの少女を観察する。
見た感じ小学生高学年ぐらいだから…十二歳くらいか?顔のパーツはこれどもかというほど整っている。肩甲骨ぐらいまである色素の薄い髪と白い肌。小柄でちんまりした背丈。掴んだだけで折れてしまいそうな細い手足。将来はきっと美人になるな。
観察していたら俺の中の欲望が膨らむ。ふらふらとエルフの少女に近づき俺は欲望に身を任せる。
…なんてことはしない。するはずがない。そもそも美味しそうに見えない。…変な意味ではなく、食欲があまりわかない。少女の魔力量を視る。
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魔力量だけなら半端なく高いのだが何故だか喰いたいと思わないのだ。
まぁ、いいや。思考を放棄し少女を拠点まで連れて行き話を聞こうと俺は少女に近づく。
「く、来るなぁ!」
「そんなにおびえるなよ、俺が変態みたいじゃないか」
俺はロリコンじゃない。年上が好みなんだ。
少女の腕を軽く、本当に軽く掴んだ。少女の抵抗は激しさを増す。
「放せ!放してよぉ!」
「暴れるな、別に殺したりはしな…」
少女の掴まれていない自由な方の手が俺の頬を打つ。
「!!やっ、ご、ごめんな…」
俺は掴んでいた手を放し、頭を掴み地面に叩きつける。…どうやら鼻が折れたようだ。そのまま少女を持ち上げる。顔は涙と泥と血で汚れ、泣きながら許しを請う。
「ご、ごべんばざい…ひっ、うぐ…」
掴んでいた手を放し地面に落とし蹴り上げる。少女は悲鳴を上げる暇もなく飛び再び地面に叩きつけられる。
…死んではいないが、気絶したようだ。
「やっちゃったなぁ…」
こんなことをするつもりはなかったのだが、ついカッとなってしまった。
「…静かになったし別にいいか」
ぐったりと地面に横たわる少女を抱えて拠点に向かって歩き出した。
拠点まで戻った俺は少女を降ろし、傷を癒すし浄化をかけてやる。自分にも浄化をかけていると、少女は目を覚ました。
俺の姿を見た途端壁まで後ずさり、ガタガタと震え、涙目でこっちを見る。
「…そんなにおびえるな。おとなしく俺の言うことを聞いていれば危害は加えないから。な?」
最上級のスマイルで俺は言うが少女の震えは収まらない。
「お前、名前は?」
少女は震えている!!
「…答えないと殺すぞ」
面倒になり素に戻る。
「ティ…ァ」
小さい声でティアと名乗った。円滑なコミュニケーションのために俺も名乗る。
「俺は和馬だ。よろしくなティア」
なんというか先は長そうだ。