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第十一話

 暴れまわる欲望に身を委ねると体が軽くなったように感じた。同時に食欲だけではなく破壊搖動や殺戮衝動が火山の噴火のように勢いよくあふれてくる。


サア、ハジメヨウ


 全身から黒い霧が滲み出てくる。特に右腕には多くの霧が集まり包み込む。次第に霧の密度が高まり実体化する。肌色から漆黒の染まり太く地面に掠るぐらい長くなり五本の指の先は鉤爪のように鋭く変化する。


(グッ…)


 右目が痛む。流れ落ちる液体をなめると血の味がした。鏡を見れば右目が赤く変色していることに気付けていただろう。


 痛みに不快感を感じたが今重要なのは目の前の獲物を切り裂き、砕き、引きちぎり、喰らい、血を啜ることだ。


 俺を危険と判断したのか、ブレイズベアーは腕を振るい無数の火球を飛ばす。同時に俺は駆けだす。迫りくる火球を速度を緩めることなく躱しながら巨大な右腕を振るい黒い火球を飛ばす。何発か当たりブレイズベアーを黒煙が覆う。


 さらに接近すると紅炎に包まれた腕が黒煙を突き破って横なぎに襲う。即座に屈んで躱し、通過した腕を切り裂く。肉を切り裂く感触がダイレクトに伝わり気持ちがいい。濃厚な血の匂いが食欲をそそる。


 痛みで暴れるブレイズベアーから一度距離をとる。黒い火球によって右目は焼かれ、左腕は肉がごっそりと吹き飛ばされ骨が露出している。


命の危機を感じたブレイズベアーは背を向け逃走を始める。


ニガサナイ


 剣を握る左腕から黒い触手が伸びブレイズベアーに絡みつく。触手を収縮し徐々にブレイズベアーが引きずられてくる。暴れるが触手は千切れる気配がしない。頑丈なようだ。


 徐々に近づく中、俺の右腕の霧は形を変える。右腕にさらに霧が集まり実体化していく。先ほどの腕よりも長く大きい龍の顎。黒い牙は長くどれも鋭い。雛鳥が親鳥から餌を貰うかのように巨大な口を開き獲物を待つ。微笑ましさのど欠片もなく、見るものすべてに恐怖を与える光景だ。


 ブレイズベアーはさらに暴れるがもう龍の顎の目の前だ。大きく開かれた口はゆっくりと閉じブレイズベアーの頭を噛み千切る。ブレイズベアーの抵抗は止み触手を解く。


「ウオオオオォォォォォォォォ」


俺は勝利の雄叫びをあげる。右腕の龍も解き俺は一心不乱にベレイズベアーの死骸に喰らい付いた。


 腹も魔力も満たされた俺は地面に横たわり体を丸める。満腹になり睡魔が襲うが抗うことなく眠り始めた。





「…さ……なよ」


声が聞こえる。身体が揺れている。地震ではなく声の主に揺すられているようだ。


「はや……起き……ば」


どこかで聞いた声。懐かしく感じる。一体誰の声だ?


「早く起きろって言ってるでしょうが!!」


拳が振り下ろされ俺の腹にめり込む。


「グファッ」


痛みで完全に目が覚める。そして自分がベッドで寝ていることに気が付く。


「あれ、ここはどこだ?さっきまで異世界の森にいたはずなのに…」


目の前に映るのは広く薄暗い森ではなく狭い自分の部屋。


「兄さん何言ってるの?いつまでも夢見てないでさっさと支度しなよ。今日学校だよ」


そう言って俺の妹である佐藤咲美は部屋を出て行った。


「…学校?」


そう呟いて俺は充電器が刺さった携帯を開き日付を確認する。…確かに平日だ。


「戻ってきたのか?」


呆然とするがここは自分の部屋で、さっきのは咲美だ。


「いや、ここが現実だ。異世界の森とかなんだよ。夢だ、夢に違いない」


やけにリアルな夢だったな、と笑いながら起き上がり制服に着替えていく。


(そうだ、今日このことを晃に話してみるか)



その名前を思い浮かべるとちくりと胸が痛んだ。


(あれ、何かを忘れているような気がするけど…)


首をかしげながら、まあいいか、とつぶやいて着替えを再開する。


制服に着替え両親に挨拶をし朝食を食べる。???は部活の朝練でもう学校に行っているようだ。


朝食を食べ終えた後、歯を磨き、鞄に教科書やノートを詰め込んで準備をする。


「行ってきます」


靴を履いて玄関のドアを開ける。


通学路を歩いていると後ろから声をかけられた。


「おはよ、和馬」


挨拶を返そうと晃の顔を見た瞬間、視界が真っ赤に染まり俺の両手は晃の首を絞めていた。


晃は苦悶の表情を浮かべ、苦しさに喘いでいる。


(そうだ、俺は晃を殺す。なにが「おはよう」だ。気安く俺に話しかけるな。お前は俺の復讐対象なんだよ。お前は、俺の…)


 晃は酸素を求めて口を大きく開ける。涙を鼻水を唾液を垂れ流しにして弱弱しく首を絞める俺の手を掴む。


(ハハ、簡単だ。こんなにも簡単に殺せる。さあ、早く死ねよ。死んでくれ)


俺の手を掴む力が弱くなっていく。もう少しだ。


(俺の人生を壊したんだ。今度は俺がお前の人生を壊してやる)


掴んでいた手が離れる。絞めていた手を放すと晃は鈍い音を立てて倒れる。


(終わった…案外あっけなかったな…)


「やった、はは、殺した。俺が、この手で晃を殺した」


うれしさがこみあげてくる。


「あはっ、あッはははははははは!!」


晃はピクリとも動かない。








 寒い。俺は寒さを感じて目を覚ます。どうやら本能に任せてブレイズベアーを喰った後すぐに寝てしまったようだ。


「夢か…」


周りには森が広がっている。自分の部屋ではないし、晃の死体もない。


「はあぁ」


俺はため息をついて立ち上がる。


(ブレイズベアーも倒したしこの森で一番強いのは俺になるのか?)


そんなことを思いながら森の奥に進む。しかしすぐに現実というものを思い知ることになった。


(な、んだよこれ…は!!)


殺気。今まで受けてきた殺気が可愛く思えるほどの強さ。


(次元が違いすぎる)


ブレイズベアーが森の主?俺が一番強い?


(馬鹿か俺は…)


今いるところは森の奥ではない。ここが入口だ。


(あれを…)


拳を握り俺は決心する。


(あれを倒す)


 この森の本当の主を倒せれば、どんな敵が現れても対処できる。国と戦っても勝てるくらいの強さがなくては復讐を達成できない。


(必ず殺す。待っていろ…)


俺は森の主を殺すために強くならなければならない。俺は湖に戻ることなく森の奥に進んでいった。

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