第九話
あれから数日がたった。俺は寝る間も惜しんでひたすら狩り、喰らい続けている。夜でも関係ない。暗視魔法を付加しているため。暗くても問題なく活動できる。疲れを感じたら魔法で疲れをとった。傷を負った時も魔法で癒した。
今も狩りの最中だ。シルバーウルフが5体。
二体が左右から飛びかかってくる。後ろからも一体襲ってきている。
俺は左手の剣を下から上に切り上げる。右手には炎の剣『炎剣』を発動し軽く横に振るう。剣からは太刀筋をなぞるように飛焔が飛んでいき焼き尽くす。炎剣はウルフの頭に当たり、頭を吹き飛ばす。返り血が体にかかる。
二体のウルフを殺し、縮地を発動する。後ろから飛びかかっていたウルフは一瞬で標的を探す。しかし首を曲げようとするが、曲がらない。そのまま視界が暗くなり絶命する。首を切り落とされたが最期まで気づかなかった。
残った二体は背を向けて逃げようとしていた。
「逃がさん…」
俺は縮地で距離を詰め一体に狙いを定めて蹴りを放つ。蹴られたウルフは短い悲鳴を上げて飛んでいき木に衝突しそのまま動かなくなった。
最後の一体は逃げ出している。剣を右下段から逆袈裟に切り上げる。
「…地走り」
刀身からはいくつもの鎌鼬が飛びウルフを切り刻む。血が飛び散る。何も感じない。血糊を払い剣をしまう。殺して、喰らう。その作業をひたすら続ける。強くなるために。三体目を喰らい終わり四体目を喰らおうとしたとき、デカイ存在を察知する。
(プラチナウルフか…)
ウルフを蹴り飛ばし剣を構える。
「グゥオオッォォォォォ」
吼えながら高速で飛びかかってくる。俺は縮地で回避し距離を離す。
(狭いな…)
躰の大きいプラチナウルフを相手にするには場所が悪い。俺は背を向けて、縮地で移動する。奴もすぐにあとを追いかけてくる。やはり速い。縮地と同じか少し速い速度で追いかけてくる。
(ッち!)
追いつかれ、振るわれた前脚が当たり吹き飛ばされる。
地面に何度か叩きつけられようやく止まる。
(…っ!右腕が…)
尖った爪が当たり、右の二の腕に傷を負う。魔法で癒しつつ立ち上がる。
(しばらくは動かないな…)
右腕をだらんと下げたまま視線で狙いを定めて願う。
(属性は炎。効果は爆発。破壊を、願う)
プラチナウルフは手負いの俺にとどめを刺すべく飛びかかってくる。瞬間、横から爆発がおこる。横に吹き飛ぶプラチナウルフに俺はすかさず願う。
(属性は炎。形状は球。数は三。効果は爆発。破壊を、願う)
瞬時に発動し一メートルほどの大きさの火球が出現する。
「死ね」
つぶやくとともに火球はプラチナウルフ目掛け飛んでいく。着弾し、地面が大きく三回連続して揺れる。炎が収まるとそこには爆発で肉が所々飛び散った焼死体が現れる。焦げ臭いが漂ってくる。おいしそうな臭いだ。俺は剣を仕舞い焦げた肉に喰らい付く。右腕の治癒はもう少しかかりそうだ。
プラチナウルフを喰い終わった後も俺は狩り続けた。いつの間にか傷の治癒は終わっていた。
……だいぶ森の奥の方まで来てしまったらしい。ウルフどもを全く見なくなった。…少し戻るか。獲物がいないのならば活動していても意味はない。時間を無駄にするわけにはいかないのだ。
俺は戻って獲物を探しに行こうとした。そのとき、
(ッ!!なんだ?やたらと大きい気配がする…)
俺の索敵範囲にデカイ何かが引っ掛かった。…プラチナウルフではない。もう二回遭遇して戦ったのだ。気配が違う。こいつは…!!
俺が硬直している間にそいつはノソノソと姿を現した。
俺は剣を抜き右下段に構え、そいつを睨む。初めて見た時よりも大きくなっている。いや別の個体なのだろうか?体長は四メートルはほど。赤黒い剛毛。鋭く長い尖爪。鉄すらをもやすやすと噛み千切りそうな鋭牙。牙をむき出しにしてこちらを睨んでいる。口からは涎が糸を引きながら垂れる。その眼には明らかな殺意がのぞく。
俺は唾を飲み込み剣を強く握る。…手から汗が滲んでくる。緊張している。だがこいつには負けられない。この森の長と思われるこいつ、ブレイズベアーには。