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結衣ちゃんは呪いの神様に憑りつかれてしまった!  作者: けろよん


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第14話 帰ってきた日常

「お前……その力どこで手に入れた? さっきの呪符はなんだ?」


 真司の低い声が響く。

 怜も腕を組んで睨みつけてくる。


「普通の人間があんな符を扱えるはずないわ。説明して」

「私達は責めてるわけじゃないんだよ。ただ結衣ちゃんの事を教えて欲しいだけなんだ」


 遥にまで問い詰められて、結衣は肩を強張らせた。頭の中で必死に言葉を探す。


(まずい……神楽のことは絶対に言えない……!)


 喉が渇いて、声がうまく出ない。だが、黙っていればもっと怪しまれる。

 結衣は苦し紛れに口を開いた。


「そ、それは……友達から……。葵って子がいて、彼女から……ちょっと教えてもらったの」


 その瞬間、場の空気が一変した。


「葵……だと? 星宮葵か!」


 真司の目が見開かれた。

 怜も驚いたように息をのむ。


「……なるほど。彼女なら確かにありえるわね」


 遥がぱっと笑顔になって頷く。


「やっぱり! あの子、ただ者じゃないって思ってたの! 部に誘いたいって前から言ってたんだよね!」

「ふん……やはりな。彼女の家系は、古い“系譜”に繋がっていると噂されていた」

「やっぱり星宮さんは私達の部活に必要な人材なのよ!」


 三人の声には妙な確信がこもっていて、結衣は冷や汗をかきながら、心の中で必死に謝っていた。


(ごめん、葵……! 何も関係ないのに、勝手に名前を出して……! でも、葵から紹介されたんだから関係ないわけでもないのか……)


 彼女はきっと今頃神楽と楽しくお喋りしていることだろう。

 真司は刀を収め、結衣をじっと見つめた。


「……なるほどな。君が来たのは星宮さんの紹介だったな。その力を行使できるのもあの子の影響か」


 結衣は曖昧にうなずくしかなかった。


「うん、葵からお札をもらって、これを使えばいいよって……」


 その呪符は神社に貼ってきた物であってさっき使った呪符とは違うのだが、結衣にはもう葵のおかげにするしか誤魔化す方法が思いつかなかった。


(ごめん、葵。後でジュース奢るからね) 


 必死に心の中の友達に祈りを捧げていると、遥が明るく言った。


「だったら、次はぜひ葵ちゃんも一緒に連れてきてよ! 二人が仲間になってくれたら百人力だよ!」

「……そうだな。放っておくのは惜しい才能だ」


 真司も同意する。

 怜も小さく頷いた。


「あなた達がいれば郷土研究部の大きな力になれる。神楽麻倶奈を倒すのも夢では無くなるわ」


――結衣は心の奥で、罪悪感に胸を締めつけられていた。


(だからその神楽を倒すのが無理なんだってー!)


 なぜならその力を継いだのが自分だから。結衣はもう神楽とは無関係でいられない事を自覚していた。

 だが、もう部員たちは結衣と葵に強い興味を抱いてしまっていた。


(どうしよう……どうやって守ればいいの、私達の生活を……!)


 結衣はもうとにかく頭を下げるしかなかった。


「ごめんなさい! 私も葵もやっぱり危ないのは苦手かなあって……」

「そうか。才能があるのに惜しいな」

「無理強いはできないわ。呪いに関わるのは覚悟がいるもの」

「でも、入部したくなったらいつでも来てね。星宮さんと一緒に!」

「うん……考えとく……」


 とにかく無理やり入部はさせられなくてほっと息を吐く結衣だった。




 部室をあとにした結衣は、胸の奥に重い石を抱えたまま、校舎を歩いていた。


(呪詛生物か……この町にはやっぱり呪いの怪物がいるんだ……そして、その親玉があの神楽で私はその力を継いでいる……)


 足取りは自然と重くなる。廊下の窓から差し込む夕日が、彼女の影を長く伸ばしていた。

 教室の前まで戻ると、扉の向こうから聞き慣れた声がした。神楽と葵が楽しそうにお喋りしているようだった。


「結衣、遅かったね」


 扉を開けると、そこには葵が自分の席に腰掛けて待っていた。

 その隣の席には、ちょこんと腰かけた神楽の姿。

 夕日に染まる髪が橙色に光って、そこには見覚えのあるお札が貼ってあった。


「ようやく帰ってきおったか。聞いてくれ。こいつ能力者だぞ」

「私に力はないよ。このお札その物に力があるんだよ」


 神楽と葵は楽しそうだ。どうやら思ったより打ち解けているようだった。

 葵は変わり者ではあるが結衣と友達になっているぐらいだし、占いでもクラスメイト達から頼られているから実は人当たりはいいのかもしれなかった。


「……ただいま」


 結衣は力なく返事をして、机に鞄を置いた。


「どうだった? 郷土研究部」


 葵が身を乗り出して聞いてくる。自分が紹介したのもあって、興味津々という瞳だった。

 結衣は言葉に詰まり、視線を落とした。


(言わなきゃ……でも、どう伝えれば……)


 困る結衣を神楽が面白そうに見守っている。


「正直に言えばどうだ? みんな我を恐れているのだろう? この町の人間なら当然のことだ」

「えー? 神楽ちゃん全然恐くないけどなあ」


 葵が首をかしげる。

 結衣は大きく息を吸って、ようやく言葉を絞り出した。


「……呪詛生物が出た。みんなで戦った。……私は……神楽に渡されたお札を使って何とか戦ったけど……」


 葵の目が大きく開く。


「えっ……! あの怪物がまた現れたの!? だ、大丈夫だったの!?」


 葵が驚くのも無理はない。襲われたのがついこの前のことで、立て続けに起こったのだから。

 それは呪いの存在を知ったからでもあるし、こちらからその領域に踏み込んだせいでもある。

 そう前置きした上で、結衣は頷いた。


「……なんとか。でも、その後……そのお札のことを聞かれて……咄嗟に……葵からもらったって……言っちゃった」


 沈黙が教室に落ちる。

 葵はぽかんと口を開けたまま、やがて小さく吹き出した。


「もう、結衣らしいね。ああ、また私のところに勧誘来るのかなあ……」

「ご、ごめん! 本当にごめん! 葵を巻き込むつもりじゃなくて!」


 結衣は机に頭を打ちつけるように謝る。

 葵は肩をすくめ、苦笑した。


「まあ、私から紹介したんだから仕方ないよね。あの神社に貼ってって渡したお札、漫画の指もだけど、実は私の呪いのアイテムは夏実ちゃんという子から譲ってもらった物なんだ」

「夏実ちゃん……?」


 全く知り合いにいない名前で首をかしげるしかない結衣。その反応を見て葵は面白そうに笑っていた。


「結衣がこれからも呪いに関わっていくなら、いつか夏実ちゃんと知り合う事もあるかもね」

「もう、嫌な事を言わないでよー!」


 結衣にはもうこれ以上呪いに踏み込む気は無いのに、さらなる深淵が待っている予感しかしないのだった。

 神楽は面白そうにケラケラと笑っていた。


「結衣も葵も呪いの渦に巻き込まれるか。ここが再び呪いの町として名を馳せる日も近いのやもしれんな」

「ちょっと! 勝手に決めないで! 私には元の生活があるんだからね!」


 結衣が慌てて神楽をにらむ。だが、そんな態度は二人を笑わせるだけだった。


「結衣は本当に変わらないね。大丈夫、結衣なら呪いに勝てるよ。私達もついてるから」

「お前がどのように染まるのか。これからが楽しみだな」

「もう、呪いなんてこりごりだよー!」


 夕暮れの教室は笑いで満ちていて、ここにまた黒い呪いが忍び寄っているなんて結衣は思いもしていなかった。

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