第10話 郷土研究部へ
放課後、結衣は教室を後にして、学校の隅にある部室棟へと足を運んだ。
心臓が少しドキドキしているのを感じる。
(大丈夫、冷静に――)
日頃の自分とは縁のない場所だ。神楽はついてこなかった。
現在の呪いの研究には興味はあるが、奴らに自分の存在を気取られたら面倒なことになるからということだった。
神楽の面倒は葵が喜んで見ておくからと請け負ってくれたが大丈夫なのだろうか。葵が? 神楽が? あるいは両方? 他人を気にしている場合ではなかった。
「郷土研究部、ここだよね」
表向きは郷土を研究している部活だが、その実態はこの町の呪いについて研究している部活だと葵は言っていた。その実態は果たして……?
結衣は深呼吸をして部室のドアの前に立った。
「……呪い、なんて進んで関わりたくないけど、今は情報を得るしかない」
部室の扉を軽くノックする。無視されてもよかったが、中から返事があってしまった。
「どうぞー」
「失礼します……」
結衣は少し緊張しながら扉を開けた。
目の前に広がったのは、思ったよりは普通の部室の風景だった。
古びた本棚や、書きかけのレポートが積み上げられた机、壁に貼られた地図や歴史的な資料が並べられている。
てっきり葵のアイテムを数段怪しくしたような物が所狭しと飾られた部屋を想像していたので拍子抜けしたのは確かな事だった。
部室には、三人の部員がいた。彼らも別に呪いの関係者のような怪しい風貌ではなく、普通のこの学校の生徒達のようだった。
最初に目を引いたのは、背が高く真面目そうな少年だ。
彼は窓際に座っていて、手に持っていた本を閉じて立ち上がった。
「おや、君が星宮さんから紹介のあった子か?」
「はい、葵から紹介されてきました」
「あなたもこの町の呪いに興味があるの?」
次に声を掛けてきたのはクールビューティーな少女。
彼女は机の前で資料を整理しながら、結衣に視線を送った。
冷たい美しさと、どこか引き寄せられるような魅力があった。
「見たところ、星宮さんほどの情熱がありそうには見えないけど。冷やかしなら帰ってもいいのよ」
「まあ、そう言わずに。最初は誰でも興味を持つところからだよ」
そして、最後に気さくで優しそうな少女が、にこやかな笑顔で結衣を迎えてくれてお茶を置いてくれた。
「初めまして。この部活が気に入って入ってくれると嬉しいな」
「すみません、入部しに来たわけじゃなくて……」
結衣は、軽く頭を下げながら挨拶をした。
「天川結衣です。よろしくお願いします」
「結衣ちゃんね。私、遥。よろしくね」
気さくな少女、遥がにっこり笑って言った。
「僕は真司。よろしく」
少年は軽く頷きながら、少し照れくさそうに言った。
「私は玲。よろしく」
クールな少女は淡々とした口調で、無表情に一礼した。
結衣は、自己紹介をしながらも、心の中で警戒していた。
(みんな普通そうに見えるけど、呪いの研究をしているのよね……?)
葵が嘘を言うとは思えないし、ここは自分から踏み込まないと。
何の成果も得られませんでしたでは帰りたくない。
まずは、自分が何をしに来たのかを伝えないと。
結衣は少し緊張しながらも、話を切り出した。
「実は……呪いや異能に興味があって。何か、調べていることがあれば教えてもらえたらと思って」
遥がにっこりと微笑んだ。
「うん、もちろん! 私たちも、呪いとか伝承に興味があって、いろいろ調べてるのよ」
玲が少し冷ややかな目線を結衣に向ける。
「興味があるなら、もっと早くここに来るべきだったわね。呪いに関することならここで学べるわ」
真司が立ち上がり、少し嬉しそうに言った。
「まあ、僕たちもまだまだだけどね。でも、君も興味があるなら、いい情報が得られるかもしれないよ」
結衣は、少しホッとした。
とりあえず、場は温かく迎えてくれた。
これならもっと核心に触れても大丈夫そうだ。




