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プチ歓迎会

 

「2人とも初日お疲れ様~。送りながら途中でプチ歓迎会やるから乗って乗って♪ ほら中川君も!」


 ようやく仕事が終わって店を出ると、先にいそいそと着替え終わって帰宅したと思っていた大木が車を横付けにして待っていた。


 こういう所だけは用意周到でやけに張り切るこの男が俺は何となく、苦手だったのだけど。それと縦横にやたらデカいこの大男がたまに『プチ』って言葉を使うあたりも。


「ホントですか~ありがとうございます! 陽菜(ひな)ちゃんもおいで♪」

「え、うん……中川先輩も来てくれるんですよね?」

「ん、ああ……」


 そう言われてしまえば仕方がない。助手席に乗り込もうとしたらなんと、そこにはすでにポテチだのコーラだの花火まで買い込んだ袋がすでにスタンバイしていて、後部座席に乗り込んだ2人も楽しそうな声を上げている。


 

 正直さっさと帰ってしまいたいと思っていたけれど、カーステレオから流れる何年か前に流行った夏歌と女子たちの笑い声に、少しだけ付き合っても良いかなという気分になった。

 

美咲(みさき)ちゃんちは坂下(さかした)町って言ってたよね? じゃあ第2市民公園とかが近いし広くていいかな」

「あ~確かに近い、ですけど……行くのってカラオケとかじゃないんですか?」

「だってカラオケじゃ流石に花火はできないじゃん?」


 俺も『歓迎会』というからカラオケか居酒屋でも行くのかと思っていたが結局、大木の発案(プラン)通り、二人を送っていく方角にある市民公園で花火をすることになった。


 日中は夏日だったとはいえまだGWを過ぎたばかりの5月上旬だ。夜は少し肌寒くて花火なんて気分じゃないのだけど、公園に降り立った三人は楽しそうに準備を始めている。


「こっちに花火全部並べときました」

「こっちも火の準備OKだから早速やろっか!」

「わ~楽しみ♪」


 500mlのコーラを片手に早速といった感じで大木が最初の花火に火を付けると美咲さんが歓声を上げる。まだ学生の女子2人はともかくとして、25歳にもなる大男の成人男子がなにを手持ち花火ごときではしゃいでいるんだか。


 

「中川先輩は花火、やらないんですか?」

「いや、俺はいいよ。3人でやってきな」

「そんな事言って~。ちょっと待ってくださいね」


 はしゃぐ大木たちを冷めた目で見ながら少し離れた所でコーラを飲んでいた俺に、高田陽菜が火のついた花火を2本持って戻ってくる。


「これ。1本受け取ってください」

「え、いや。だから俺は良いって……」

「早くしないと消えちゃいますから! ほら!」


 そう言われて思わず受け取ると、笑いながら花火の筒先を近い位置に寄せてくる。強引だなぁと思ったけれど、そういう部分を不思議とイヤだとは思わせない子だ。花火の灯りに照らされてはしゃぐ笑顔はまだ少し幼い感じが残っていて、それが高校生ぐらいのように見えた。


 その後、女子達を(主に美咲さんの方を)質問攻めにする大木とそれに答える2人の会話を聞いていて分かったのは、2人とも専門学校の2年だという事。でも全く違う学校で、苗字もたまたま一緒だっただけだという事。それから美咲さんの方はこの辺りが地元なワケでは無く、1人暮らしだという事だった。


「え~じゃあ物騒だから家まで送っていくよ~」

「いや、そう言ってさ。しれーっと女性の住んでる部屋を把握しようとしてる大木さんのが物騒だから。2人ともここから歩いて帰れる距離?」

「はい、全然大丈夫ですよ」


 終わった花火や食べ物の後始末をさっと終えると、助手席に乗り込んで名残惜しそうな大木に出発を促す。別に大木がストーカーで捕まろうが知った事ではないが、バイト初日から馴れ馴れしくし過ぎたせいで辞めてしまわれたら仕事として困るからだ。


「それじゃあ今度はカラオケ歓迎会ね♪」

「はーい、楽しみにしてまーす!」


 窓から顔を出す大木に、笑顔でひらひらと手を振る美咲と軽く頭を下げる陽菜。多分同い年だというのに対応は全然違っていて、それが何となく対照的に見えた。



「中川君。俺、美咲ちゃんの事本気で好きかもしれない」

「はァ……そうですか」


 しばらく走って2人の後ろ姿が見えなくなった帰り道、ハンドルを握ったまま大木の呟いた言葉に()()()()()()呆れたような反応しかできなかった。


 だけど、今にして思えば俺だって大木の事を笑って呆れる事が出来ないような状況になっていったんだ。

ここまでで登場人物の描写が挟めなかったので主要人物紹介を↓


中川 圭吾(22)※冒頭部分では10年後なので32

 本編主人公。高卒後バンドをやるために上京。接客業をしながらバンドをやっていたが父の急病で地元に戻り、調理の仕事に就く。

 中肉中背で166センチと男性にしては小柄で色白。都落ちした気後れから、職場ではあまり喋らない。


高田 陽菜(19)

 主人公の勤め先にバイトで入ってきた専門学生。耳が隠れるくらいで切りそろえたショートボブと日焼けした人懐こそうな雰囲気が特徴的。身長は152センチとやや小柄。 

 テキパキと動き回り、ハキハキした態度で上の年代から好印象を持たれやすい。

        

高田 美咲(20)

 陽菜と同日にバイトで入ってきた専門学生。長い髪を後ろでまとめた色白のおとなしそうな和風美人で陽菜とは正反対の印象を受ける。身長は163センチと女性にしてはやや長身。


大木 大輔(25)

 主人公と同期入社した料理屋の息子で会社では『期待の大型新人』

 身長182センチだが体重も80キロ越えで縦横に大柄。美咲さんに初日から好意を寄せている。

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