閑話 最後の花火が鳴り終わるまで。
ひとつ前のあとがきにカクヨムのみでの公開と書きましたがこちらにも転載しました。
1000文字限定企画でのスピンオフになります。
本編続編は本日17時に公開予定です。
毎年やってくる、花火の日が嫌いだった。
子供の頃からそう思っていたし、今はもっと、そう思ってる。
それはあの夏の花火を、思い出させるから。
俺の住む街では8月の初め、大きな花火大会が行われる。それは全国的に有名らしくて、当日には多くの観光客が新幹線でこの街に乗り付け花火会場へと集結していた。
そうなると当然、街に溢れた観光客を相手に商売をする店も出てくる。その当時俺の働いていた店も多分に漏れず、通常営業と併せて花火会場へ向かう観光客を相手に酒と肴を売るスペースを設けていた。
そのスペースの担当を任されたのがどういうワケか、よりにもよって俺と彼女だったのだ。
社員2年目で居酒屋での接客経験が長い俺と、前のバイトでは居酒屋に居た事のある彼女。まあ考えてみれば妥当な組み合わせではあるのだが……彼女と働くのは個人的に凄く気まずかった。何故って、俺は彼女にたった一週間前フラれたばかりだったからだ。
「先輩、ビールの樽無くなりました!」
「分かった替えとく! レジ頼むわ!」
とはいえビールの泡を注ぎ足す暇も惜しいぐらいの中ではそんな事に拘っている時間もない。必要な情報以外を話す機会もないままに俺達は業務に没頭していた。
「2人ともお疲れ! ココは俺に任せて2人で花火行ってこい!」
会場に向かう客足が減ってきた打ち上げ開始10分前、プラコップにビールを注ぎながら小田主任が俺と彼女の背中を押す。
「アレって自分が飲みたいだけですよね、良いんですか?」
「去年の店長も同じ事言ってたからな、恒例行事なのかも」
人の流れに身を任せながらゆっくりと歩く。仕事で散々言葉を交わしたおかげか、ぎこちなくならずにこんな会話も出来た点は配置を決めた主任に感謝だ。それまでずっと、話す事も出来ないままだったから。
ビルの間から花火が見える川沿いに近付くにつれ、歩いている人は増えていき小柄な彼女がちゃんとついて来ているか不安になる。
「はぐれるなよ」
「あっ、先輩……手……」
その時、一発目の花火が上がって目の前の夕空を染める。一定の速度で流れ続けていた人波が止まり、後ろを歩く彼女と距離が一気に詰まる。
繋いだ手、触れる肩の感覚。幸せだった頃に時間が巻き戻ったみたいで。
「このまま、花火が終わるまではこうしていても良いか?」
一瞬の沈黙の後、彼女は答えた。
「花火の間だけ……ですからね」
そして最後の花火が鳴り終わった後、彼女と俺は『これまで』に戻った。