4話
翌朝、日が昇る頃、狼たちは次々と起き出して、洞窟から出てきた。
結局、三咲は、一睡もできなかったが、特に不調はない。
ソレイルの言う通り、神になったことで、睡眠が必要なくなったのだろう。
どうやら寝ようと思えば、眠れるようで、今のところ便利な体になったという印象だ。
アンバーは起きだすと、まず伸びをして、三咲を近くの湖に案内してくれた。
湖は、どうやら獣たちの安息の場となっているようで、どうも狩りは厳禁らしい。
向こう岸が見える程度の小さな湖だったが、木々が開けて明るく、湖の中心には、ごく小さな孤島があり、巨大な木が植わっていた。
樹齢100年以上はありそうな、幹がとても抱き着けない大きさの大木。
「あれは、世界樹のひとつなのよ」
三咲が立派な大木に息を飲んでいると、近くからいきなり声がして、三咲は思わず肩を揺らす。
振り向くと、そこには半透明の女児が浮いていた。
ひらひらとした水色のワンピースを着た女の子は、涼やかな声で続ける。
「おはよう、神様。貴女の名前はなんていうの?」
三咲が、軽くアンバーを振り返ると、彼女は、三咲を安心させるようにうなずいた。
「私は、三咲。相良、三咲」
「ミサキ!素敵な名前ね、神様。でも、初めて聞いた名前だわ。
新しく生まれた神様なの?」
「そう、なるのかな?」
「そうなのね、おめでとう!
神様は、どうしてフェンリルたちと一緒にいるの?」
フェンリル? アンバーたちのことだろうか?
有名な名前だ。確か神話だと、ロキ神の子で、神を殺すと恐れられた狼だっけ?
アンバーを窺うと、彼女は困ったような顔をした。
「妾の子たちが、なわばりに降りてきた彼女を見つけたのだ。
久しいな、水の精よ」
「あら、ソレイルだわ。お久しぶりね」
いつの間にか、ソレイルも起きだして、湖に来ていたらしい。
ソレイル曰く、水の精である少女は、嬉しそうに笑った。
「ソレイルは、この神様を受け入れるの?」
「ああ。彼女なら大丈夫だろう」
女児と、ソレイルの間に、ピリピリとした微妙な空気が流れる。
ここまでくると、三咲も察してしまうものがある。
もしかして、ほかの神様が、以前彼女たちや世界になにかしたのだろうか?
三咲とアンバーが困っていると、水の精はふいにため息を吐いた。
「いいわ。ワタシも様子を見ることにする。
ただし、その神様が何かしたら、ソレイルが対処してよね」
「承知した。では、ここに契約を」
「ええ。契約を」
彼女たちの間に、急に魔法陣が現れ、合意とともに光い輝き、宙に溶けていった。
「それじゃあ、またいずれ」
別れの言葉をおいて、水の精も宙に溶けるように消えた。
彼女が消えるのを見送って、ソレイルが三咲たちに振り返った。
「さて、食事にするとしよう。
必要はなかろうが、貴女も食べるといい。
この森は恵みが豊富にあるし、食事は心を慰めてくれる」