2話
どこに向かっているんだろう。
なんて、狼の巣穴以外にないよね・・・はは。
三咲が遠い目をしていると、どうやら目的地の近くについたらしい。
どうして乗っちゃったかなあ。いや、囲まれてたから、乗るしかなかったけどさ。
いつのまにかかなり遠くまで来ていたらしく、最初の草原から、場所は森の中に移っていた。
狼たちはいよいよ速度を落とし始め、三咲は周りを気にする余裕が出てきた。
森の中を軽やかに狼たちが駆けていく。
森の奥まったところまで来た時、どこかから、ウォン!と声がして、狼たちは足を止めた。
すると、木々の陰から、十頭ほどの狼が姿を現す。
全部で二十頭ほどの、人より大きな狼。
その中でも、リーダーだろう、ひときわ大きな個体が、最後に現れて、私の方をまっすぐ見やる。一瞬目を見開いているように見えたのは、気のせいだろうか。
私を乗せていた狼が地に伏せ、私をおろしてくれた。
二回りほど大きさの違う二頭は、何某かのやり取りをすると、乗せてきてくれた狼の方は、私のそばにまた伏して、私の手に頭を擦り付けてくる。その犬じみたしぐさに、三咲は思わず撫でてしまう。
気持ちよさそうに撫でられる狼に、なんとなしに癒され、私は勇気を出して、リーダー個体と向き合えた。
しかし、どうすれば・・・。多分言葉が通じないし。
「もう、よろしいか?」
おもむろに聞こえた人の言葉に、三咲は目の前のリーダー個体が口を開いたと理解していても、思わず周りに人を探してしまった。
「どうかなされたか?」
「え、いえ、何でもないです」
リーダー個体の狼は、煮え切らない三咲にきょとんとし、呵々と笑った。
「子からなわばりに貴女が降りたと聞いて、どんな性かと警戒していたが、これほど腰の低い神とは初めて出会う」
かみ?
神!?
「え、いやいいやいや。私なんて普通の一般人で、腰が低いのは当たり前っていうか・・・」
というか、自分より大きな狼に強く出れる人なんて、そうはいないと思うけど。
「それほどの神気を身にまとっていて、まさか神でなく人であるとぬかすとは・・・妾は侮辱されているのか?」
ぐるると唸る狼たちに、三咲は必死になって事情を説明する。
夢で、大きな喋る気持ち悪い虫を殺したこと。
そしたら、空から落とされて、夢ではないと気づいたこと。
自分の元居た場所は、地球の日本という国で、本当に自分は一般人だったこと。
なのに、空から落ちても、無事に着地できて、放心していたこと。
今、神であるといわれて、混乱していること。
とにかく誤解を解いて、怒りを納めてもらいたいと、三咲は必死に弁解した。
そのかいあってか、彼女は大きな息を吐いて、怒りをひっこめてくれる。
「もうよい、わかった。その必死な態度を見れば、そなたの話が嘘だとは思わぬ。
この世界には、昔から時にほかの世界からくる渡り人がいる。
しかし、貴女はほかの渡り人とは違い、神である。なぜそうなったのかは妾にもわからぬが、おおかたその虫とやら関係するのだろう。
貴女が神であるならば、そなたが元人間であろうと、妾たちは敬うのみ。
その性も善良であるようだしな。
しかし、何も知らぬ今のままでは、人の世でやっていけぬだろう。この世界のことをお教えしよう。今夜は巣穴によって行きなされ。
人の身では、少々堪えるだろうが、野宿よりはよいかと」
三咲には、ほかに行先もなく、うなずくことしかできなかった。