11話
微妙な空気の中、馬車は進む。
神馬と神具であるだけあり、速度は十分以上で、いくつか行商人だろう馬車を追い越した。
彼らは、驚いたように、こちらを凝視していたので、とりあえず窓から手を振っておいた。
あっという間に、彼らを追い越し、私たちは、夕方に街についた。
街は、大きな壁に囲われ、犯罪者や魔物が入ってこないようにしているようだった。
検問の順番を待ちながら、三咲はソレイルの記憶を探る。
確か、この街の名は、アステール。ルチル王国の辺境の町。
フェンリルたちの巣のある魔の森や、その中央の草原「神の庭」と呼ばれている地域は、人類は住んでいない。
検問に並んでいる人々は、金髪や、赤茶色の髪が多く、この辺りは前の世界の海外のような雰囲気だったが、他国には、水色の髪や緑色の髪など、アニメのような髪色のものもいるようだ。
さて、窓の外を見るのは、そろそろやめて、いつまでもしょぼんと落ち込んでいるアンバーに、いい加減声をかける。
「ねえ、アンバー」
「は、はい!」
「・・・反省しているみたいだし、今回は許す。
確かに私は、元人族で、他の神々からすると、劣っているかもしれないしね」
「いいえ! ミサキ様は他の方々より素晴らしい方です!
私の申し方が悪かったのです」
「私もごめんね。私にも『神の心』はあるみたい。神様になったときに、私の中で色々変わったみたいなの。
私もさっきの怒りは制御すべきものだったのに、当たってごめん。
申し訳ない。どうか許してくれる?」
先に謝られてしまったが、私たちの関係は、私が上位のものだ。
先に許さなければ、受け入れてはくれないだろう。
舐められてはならないし、愛想をつかされてもならない。
難しいことだけど、私一人では、まだ生きていけないのだから、アンバーは捕まえておかないと。
アンバーの様子を恐る恐る窺うと、彼女はなぜか感動したように涙ぐんでいた。
え? なんで?
今のって、とらえ方によっては酷い奴だったと思うんだけど・・・。
「ミサキ様は、本当に優しい神なのですね!
神々から謝罪の言葉を受けたことなど、今まで・・・。
もちろんでございます! ミサキ様は他の神々に劣るところなどない神様ですから」
「そ、・・・そう」
熱意ある力強い返事をしたアンバーに少し引きながら、彼女から流れ込んでくる温かい力に首をかしげる。
しかし、すぐに解った。
これが信仰心か・・・。
私が成り替わっただろう神は、創造神のようだから、信仰心に存在が左右される神ではないと思うけど、まあ心地はいい。
そうこうしている内に、検問の順が回ってきた。
アンバーが馬車の窓から顔を出す。その後ろから三咲も様子を見る。
衛兵は、三人も並んでいて、どうやら酷く緊張しているようだった。
「み、身分証をお預かりします」
「申し訳ありませんが、わが主も私も身分証はまだ持っておりません。此方の街の冒険者ギルドが評判が良いと聞き、此方で登録をするつもりです」
「え!? 冒険者になられるんですか?」
「ええ。わが主の家系の代々の習わしで・・・。
見ての通り、バトルホースを従魔にするほどの方ですから、ご心配は無用です」
「どうして、この街で登録を?
遠い異国の貴人の方とお見受けしますが、途中の街では登録はなさらず?」
どうやら疑われているらしい。
年若い衛兵を押しのけて、年輩の男が詰問してくる。
アンバーは、一度にっこり微笑んで、軽くうなずき、こう続けた。
「この通り、我々は見た目が侮られますから、あまり評判の悪いところは・・・。返り討ちにはできますが、ここは我々の力の及ばぬ地。
面倒ごとはごめんですから。
それから、ここまでは、魔の森を抜けてまいりました。
野獣より、野盗の方が我々には面倒なので」
「…なるほど。詳しい事情をお聞かせ下さり、ありがとうございます。
身分証のない方は、一人銀貨三枚です。・・・はい、確かに。
それでは、お通りください」
「ようこそ、アステールへ!」
どうやら無事に街に入れたらしい。
日はすっかり暮れて、夜が始まろうとしていた。




