10話
「つまり、貴女は、私を劣っていると見ているのね?」
三咲が眉を寄せると、たちまちの内に、アンバーは顔を青ざめさせた。
三咲の一転して、冷ややかな声音もあって、彼女は唇まで紫にしている。
しかし、三咲は、それらに気遣う余裕はなかった。
自身が他の神々より劣っていると思われている。
そう知った瞬間、三咲はマグマのように煮えたぎる怒気を抑えるのに、躍起になっていた。
未だ人間的な理性は、納得している。
元人間の神と、生まれからして、神として在るもの。
どちらが尊いか?なんて、解りきっている。
だというのに、感情がまるで納得しない。
自分が下に見られた。
信頼しかけていたところを裏切られたという思い以上に、今の三咲にとって、他の神々と比べられて、あまつさえ劣っているなどと決められたことが、屈辱でならなかった。
まるで知らない誰かのような、自分で理解できない怒りが、身の内で荒れ狂う。
知らない自分が顔を出す。
怒りと戸惑いが、ほぼ同時に自分の中で主導権を握り、内心ぐちゃぐちゃだった。
まるで二重人格にでもなってしまったのかのよう。
三咲は、どうにか自分を落ち着けようと、ため息をこぼす。
アンバーが、びくりと肩を揺らした。
「言い訳を聞くわ」
しどろもどろにアンバーが言うところによると、
決して私を下に見る気はなかったこと。
むしろ私こそが地上にとって歓迎すべき神であること。
とはいえ、他の神々に対して、文句を言えるわけがなく、そのあまり、あのような言い回しになってしまったこと。
三咲は、眉をしかめながら、話を聞いていた。
「……じゃあ、他の神様なら、その場で消し飛ばされてたってこと?」
三咲の皮肉に、アンバーは明確に首を横に振った。
「違います。……他の神なら、私など最初から声をかけてもらえません。口もきけぬまま、畏れ、従うだけです」
その言葉に、三咲は静かに目を細めた。
「……じゃあ、今、こうして言い訳を許してる私も、“劣ってる”のかしら」
アンバーが息をのむ。
そして、膝を折り、地に伏せるように頭を垂れた。
「いいえ。ミサキ様は、最もお優しく、最も恐ろしい神です。
だからこそ……私は、忠誠を誓えるのです」
三咲は、しばらくその姿を見下ろしていたが、やがて微かに息を吐いて、肩の力を抜いた。
「……次からは、ちゃんと伝えてね」
「はい……」
怒気は消えたが、その余韻は、なお空気を張りつめさせたまま。
“神としての心”は、もう、三咲の中に棲みついていた。
それが今後、何をもたらすかは、まだ彼女自身にもわかっていなかった。




