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序/1話


とある世界の神が死んだ。

一人の人間の手によって。

異世界の女、相良三咲は、いと尊き神を殺した。



世界が書き変わる。


ここに、一人の異世界女の最強冒険譚が幕を開ける。




___



突然訳も分からず、パンクチックな世界にいた。

空は煙が立ち込め、機械仕掛けの塔が轟々と唸りを上げている。

そんな中、目の前には一抱えもある甲虫が浮いている。

「貴様には、我らの世界に来てもらう」とかうんたらかんたら言っていた(何故か喋っていた)虫を、思わず三咲は叩き落とした。

甲虫は、地面に叩きつけられ、ピクリとも動かなくなった。

青緑色の液体が流れ出ている。

死んだのだろう。


その気持ち悪い光景をぼーっと眺めながら、私はまたぼんやりと考え込んだ。

夢かなにかだろうか?

直前はなにをしていたんだっけ?


明瞭としない意識の中、テレビのチャンネルを切り替えるように瞬時に世界が入れ替わる。

落とし穴に落ちた時さながら、落下感を味わって……



三咲は空を落ちていた。

「へ?」


訳が分からなかった。

肌で風圧を感じて、三咲は本能的に恐怖を抱いた。

夢じゃないのかとかそんなこと頭に浮かぶ暇もなく、反射的に三咲は顔を庇った。


「なに?なになになにぃぃぃぃ?」

声を置き去りに、三咲は落ちる。

空は憎たらしいまでに快晴で、雲ひとつない。

地上は良く見え、真下は広い草原のようだった。

せめて緩衝材になりそうな木とか水とかないのなんて悲鳴をのみこんで、三咲は半世紀にも満たない生涯を振り返っていた。


普通の人間ならば、用意もなく、高所から放り出されれば、落下の衝撃でミンチだろう。

しかし。



相良三咲は、

彼女は、先程神を殺した。

彼女自身はそれを知らないが、世界は知った。

世界は、自分の創り主以上の存在として、彼女を認知してしまった。

創造主より、強いもの。

創造神より、いと尊きもの。

世界は既に書き替わった。



だから、

三咲は恐怖から目を瞑り、

そして、何事もなく、無事に着地した。


彼女は、重力を感じさせない軽やかさで、足音軽く着地した。

「……、………?」

衝撃に備えて、息を飲んだ三咲は、いつまでも来ないショックに、恐る恐る目を開けた。

風が吹く草原は、爽やかな草いきれの匂いがして、とても夢の中だとは思えないほどに、リアルだった。

先程の頬に感じた風圧も。


だと言うのに、先程の現象は、あまりにも夢じみている。

「何が起こって……?」

三咲が状況を飲み込み切れずにいるうちにも、状況は刻一刻と移り行く。

ふいに何かが近づいてきている気配を感じて、訳が分からないながらも、反射的に三咲は警戒する。

というか、どうして私は気配なんて感じ取れるのか。

漫画なんかでは武道家が気配が何たらって話をしているけれど、運動が苦手な私は今までそういったことは鈍く、理解できなかったものなのに。


数分ほどの間の後、やってきたのは、巨大なオオカミの群れだった。

三咲は遠くに見えた影に逃げを打つが、あっという間に狼たちは三咲を囲い警戒網を敷いてしまう。

ぐるるると威嚇してくる大きな狼たち。

バイクほどはあり、人が乗れそうなほどの大きさの狼に、当然ながら三咲は怯えた。

「ひゅ、」

恐怖に息が詰まる。

前も後ろも横も囲まれていて、逃げられない。

これ、食べられちゃうやつ?

せっかくミンチの危機がなぜか去ったのに、今度は狼の餌?

絶望で、三咲は顔を引きつらせる。


・・・。


しかし、狼は、いくら待っても、襲ってはこず、三咲の周りをぐるぐる囲み、吠えるだけ。

その姿は、怯えているようにも、困惑しているようにも見えた。


「え、えと、君ら敵じゃないの?」

私を襲うために来たんじゃ・・・。


三咲がかすかな期待をこめて、狼たちを見回すと、彼らやはりウォンウォンキュンキュン鳴いて、相談しているかのように互いの顔を見合わせるばかり。

やけに人間臭い。それに、大きなわりに大人しい狼だった。


かといって、三咲が歩み寄ろうと、あるいは隙をついて逃げようと動けば、彼らはたちまちに警戒態勢をとって、ぐるると唸った。


膠着状態。



しばしの間、そんな状態で、三咲は動くことができずにいた。

正直なところ、動きを見せない狼たちに恐怖や警戒は薄らいできていて、三咲は今夜の宿を心配し始めていた。

このままでは日が暮れてしまう。

ここがどこにせよ、人が住む所なり、当座の寝床になりそうなところなり探さなければ。

そうしないと、誰に襲われなくとも、三咲は死んでしまう。


立つのも疲れてきたころ、遠くから狼の遠吠えが聞こえ、目の前の狼たちが一斉に遠吠えし始める。


あまりの迫力に、恐怖がぶり返し、三咲が固まっていると、彼らは仲間?とのやり取りを終えたらしい。


狼たちのうち、一番小柄な一匹が恐る恐る進み出てきて、いよいよ食べられるかと身構えれば、どうも様子が違う。

彼(のちに彼女と知る)は、三咲の前で伏せて、鼻先で背を指し示した。

「え、乗れってこと?」

「ウォン!」

元気よく返事を返され、三咲は、恐る恐る周りの狼を窺いみる。

それぞれ、鳴いて返され、なんとなくどうやら乗るように促されているらしいと察して、三咲はあきらめて、狼の背に乗った。

どうやら言葉を解するくらいには知能が高いらしい。もしかしたら、やけに人間臭いし、彼ら独自の言葉をしゃべっているのかも。


三咲を乗せた狼は立ち上がり、一声遠吠えをして、走り出したほかの狼に続いて、駆け出す。

はは、こうなったらもう逃げられないよね。

三咲は狼たちのあまりの速さにそうあきらめ、しっかり狼の首にしがみついた。

振り落とされたら、痛いどころじゃすまないだろう速さだった。



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