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第3話 とてもとても面倒な後輩

 全く、面倒な事になっちまったなとつくづく思う。

 小春の晴れ舞台を見に来ただけだというのに。創真は武刃家じゃない、武鍛刃だ。

 

(なのに、何でこうなっちまったんだ?)

 

 武鍛刃が舞台上に立つなど、プロの世界でもそうそう見ない光景だ。

 創真は理由があるから辛抱強く鍛えているけど、そこまでの戦闘能力はない。小春や侑斗の方がまだ強い方だ。

 

「創真先輩、私はいつでも準備出来ています!」

 

「なら、とっとと始めようか。審判」

 

 審判は頷き、巻き込まれないよう離れた。それを見て、創真と風花は武刃具を展開させる。

 ここまで来た以上やらない選択肢は無い。

 

「「武刃具──」」

 

「超動!」

「抜刀!」

 

 両者から、鮮やかな青いエネルギーが溢れ出してその身を包み、纏われる。

 

 日本人に似合う和の甲冑をベースに、動きやすさを重視した軽装防刃具。

 創真の手には、弓型の刃具であるグロリアスが展開。風花の手には、刀剣型の刃具がライフエナジーを刀身に帯びている。

 

 集中。これは大事な一戦と風花は気張り、長い髪を軽くかき上げ、裾の短いスカートを軽く叩いて気合いを入れた。

 いつでも交える舞台は整った。

 そして。

 

「始め!」

 

 とうとう試合が開始する。

 だが開始のゴングが鳴ったにも関わらず、2人はお互いを見つめ合った状態から一向に動かないでいる。

 

 どういうつもりなのか、と注目する周囲はどよめく。

 

(ま、そうだろ)

 

 5分という短い時間制限とはいえ、実力が不確かな相手に不用意に近付いたり、仕掛けたりするのはあまり得策とは言えない。

 しかも、お互いにお互いの化け物じみた一端に触れているから余計だ。

 

 創真からすると目の前の彼女は、上級生の相手すら諸共しない剣技を持っている。

 風花からすれば、創真は桁外れの破壊力を秘めている刃具を生み出す武鍛刃。手にしているあのグロリアスも、大剣銃撃墜砲丸のそれと同じくらい力を秘めているに違いないと警戒をしている。

 だが、見つめ合っているだけじゃ勝てない。時間は過ぎていく。

 

 弦を引き、矢を構えると、風花が一歩前に踏み出して仕掛ける姿勢を作る。

 

 瞬間、両者は自分達の間合いを作ろうと動き出す。

 創真はバックステップ、風花は脚に力を込めて床を蹴って前進。

 

「どこまでやれるか、見ものだな!」

 

 最初の攻撃は、創真から始まった。1本の放った矢はブレる事なく、真っ直ぐ風花の脳天目掛け。

 

「──ッ!」

 

 届く前に、綺麗に一刀両断された。

 怪訝な表情で矢を連続で打つ。

 迫るスピードを一切緩める事なく、向かってくる矢を全て斬り伏せている。

 

 冗談も大概にしろ。避けるならまだしも、涼しい顔をして飛んでくる矢を全て刀1本で捩じ伏せるなんて芸当、はっきり言って人間離れしている。

 矢の速度は、時速300キロは優に超えている。

 高速の領域だぞ? ただでさえ、遠距離からの攻撃というアドバンテージを有しているのにそれをよくもまあ。

 

「3本ならどうだ?」

 

 時間差で3本を放つ。

 1本でダメならば3本に増やすまでだ。同時に打てばたった一振りで一蹴されるのは目に見えている。

 ならば敢えて時間差で放てば、2本目からの刀の切り返しについてこられず矢が届く……はず。

 

(1本当たれば良し。2本も当てればラッキーだ)

 

 3本全部捌くなんて到底不可能だ。そんな事出来たら、裸で学園内を走り回ってもいい、くらいの自信はある。

 

「よっと!」

 

「はぁ⁉︎」

 

 パキン、と甲高い音を鳴らして、放たれた3本の矢を見事斬り捨てた。しかも、走る速度を緩むことなく接近しながらだ。

 

 思わず声を上げてしまった。

 なんて子だ、このままだとマズい。間合いに入られては遠距離武器の利点が完全に無くなり欠点しか残らない。

 

「貰いました!」

 

 いつの間にか、風花は創真の懐に潜り込んでいた。

 既に間合いに侵入されている。

 

 相変わらず風花の瞳はキラキラと輝かせて笑顔なのだが、今はそれがとても恐ろしい。

 死神が魂を狩り取りに来たのか、と錯覚してしまう程に。本人が純粋に楽しんでいるのが尚更怖い。

 

 でもまあ、対処は出来る。

 

 創真の下半身が動き、風花の顎が大きく跳ね上がった。

 近付かれる事は想定内。だったら、それを前提とした戦い方をすれば良いだけのこと。近づかれた時の選択としては、取り敢えず相手の間合いとなったら足を出そう。シンプルだけど、意外と有効だ。

 

「ふふん、近付けばいいってもんじゃないぜ。まあ新入生にしてはよくやった方かな?」

 

「ありがとうございます!」

 

 蹴り飛ばされていた顔が、いつの間にか創真の目と合わせられる程まで元に戻っていた。

 しかも独り言のつもりだった言葉に反応しては、感謝の言葉までの吐ける余裕っぷり。

 驚愕である。

 何でそんな平然としていられる。確実に手応えはあった。加えて、創真が気付かぬ間に腕を掴んでいる。

 

 次の攻撃が来る。その前に腕を掴む。よし、捕まえた。

 

「わわっ、捕まっちゃった!」

 

 よくもまあ試合中にそんな能天気なリアクションが出来たものだと感心する。それは果たして素なのか、それとも余裕の表れからきたものか。

 それよりもこうもテンションの高い武刃家は初めてだ。普段とは違って、彼女のペースに引き込まれ、やりづらさこの上ない。

 

「凄いですよ、先輩! まさか、あの切り返しを止めちゃうなんて!」

 

「それ嫌味かよ。そっちこそ、どうやって立て直したんだよ。防刃具越しでも、ダメージは通っている筈だ」

 

「さっきのですか? 蹴りに合わせて頭を仰け反っただけですけど」

 

 完全に視覚外からの不意打ち。そんな、さも当たり前にやってのける彼女は、侮れないなんてレベルではない。

 

「てか、おま……力強っ!」

 

 創真も腕を掴んでお互いに膠着状態。その最中こうして喋り掛けて油断を誘っているのに、逆に力を強めて強引に押し込もうとしている。

 

「えへへ、褒められてばかりで嬉しいなー!」

 

 こっちは何も嬉しくないと言いたい。可愛い顔して、その力はゴリラと言っても過言ではない。創真は全力で振り解こうとしているのに。

 明らかに筋力で負けている。華奢な身体でここまでとは、小春と良い勝負が出来るだろう。

 

「褒めてねぇよ!」

 

 腕を下へ叩き落とし、足裏で風花の刃具を踏み付けて封じる。

 

(これで確実に仕留める)

 

 風花の目の前で矢を構えた。距離にして零。この超至近距離で躱せる武刃家はプロでも中々いない。

 

 渾身の一矢を穿つ。

 

 光り輝く矢が放たれた瞬間……いや、それよりも早く、創真の指が矢を離すその時。

 

 風花の頭が残像の如くブレた。

 

 打ち放たれた矢は、風花の頭部ではなく会場の強化壁にヒビを入れたのだ。

 

「いっ⁉︎」

 

 変な声が出た。

 

 零距離とも言える超至近距離から放たれた矢を、掠る事もなく躱した。それを目の前で見せ付けられたら、誰だってそんな声を出すに決まっている。

 

「危なかったー」

 

「どこがだよ!」

 

 首を横にして、呑気な事を言う。

 

 悟った。正攻法で彼女を射抜く事は絶対に不可能だと。しかしながら、策を練り直す時間はこの試合には無い。

 

 お互いに目が合った。

 

「この!」

 

 ライフエナジーで矢を生成した瞬間、創真の身体が宙を舞った。

 

 踏み付ける刃具を、腕力だけで無理矢創真の身体ごと引き上げたのだ。

 

 お陰で矢はあらぬ方向へと飛んで行った。

 

 上向きに倒れ強打する背中。上体を起こそうとすると、とんでもない剣速で刃具を振り下ろしてきた。

 瞬時に両腕で防御姿勢を取って耐え凌ぐ。ライフエナジーを両腕に集中させて防御力を高めたのはいいが、流石にその一撃が桁外れ。その癖剣速も凄まじく、さっきから攻められてばかりだ。

 

「あはは、楽しいですね先輩!」

 

「俺をサンドバッグにするのがか? 楽しくねーよ!」

 

 下半身を跨いで何度も何度も刃具を打ち付けながら、笑顔でそんな台詞を吐く姿は脳裏に焼き付いてトラウマになること間違いなし。

 防戦一方のこの状況を、なんとかして打破したい。となると、すべき事は。

 

「しつこい!」

 

 握りの部分に備え付けられているトリガーを2回連続で押し、ライフエナジーをチャージ。

 頭上で平行に弓を構えてトリガー機能により出力が増強した矢を放ち、その反動で風花の股下を潜り抜ける。

 

(白か)

 

 潜り抜ける際、スカートの中に潜んでいた白い下着を思いっきり見てしまったのは秘密にしよう。

 白い下着を目に焼き付け、脳内フォルダーに永久保存しつつ風花の背後を取った。

 

 ガラ空き。

 絶好の的と言える程、無防備を晒している今が攻めどき。

 

「あそこから抜け出すなんて凄いですね!」

 

 踵を返して一瞬で正面に向き直り、笑顔を向けてきた。

 

「だから早いって!」

 

 地面を蹴って、後退しながら矢を放つ。

 射線上を読んでいるのか、必要最低限の左右の動きだけで避けている。

 

 この短時間で、防御するのにもう刃具すら使わなくなったのかと思うと悔しい。

 奥歯を噛み締める。まるで3年生を相手にしているかの様だ。

 

(あーどうしよう、勝てる気がしない)

 

 そんな気持ちが少しずつ芽生え始めてきた。しかも自作したものとはいえ、普段から使用してないだけあって未だ手に馴染まない。

 

「残り時間」

 

 視界の隅に映るホロディスプレイに目を向け、残りの試合時間を確認する。

 

 53秒。


 既に1分を切っていた。一刻の猶予も無い。

 

「先輩!」

 

「何?」

 

 次の策を練っている最中だ。1秒でも時間が惜しいのに、話し掛けて来るあまり少しぶっきらぼうな返事をしてしまった。

 

「残り時間がもう僅かです!」

 

 そんな事は知っている。

 

「こんなにも心躍る覇道は久し振りです」

 

「だろうな」

 

 誰が見たって、風花の瞳を見れば一目瞭然。キラキラさせながら覇道する人なんて初めてだ。

 

「だから、後輩だからって遠慮などせず思いっきり来て下さい!」

 

 何を言っているのだ、この子は。慣れない刃具で、お前みたいなバケモン相手にここまでやれている自分を褒めてやりたいわ。

 

 と、言おうとしたが言葉を飲み込んだ。

 

 それにあれだけ派手に動いている癖して、まだ余力があるのは体力お化けとしか言いようがない。

 

「結構頑張っているんだけどなぁ……はぁ」

 

「またまた、冗談はよして下さい」

 

 拳を天高く掲げた。

 

「先輩のかっこいいところ、もっと見せて下さい!」

 

 その言葉でスイッチが入った。

 

「かっこいい、のか?」

 

「はい!」

 

 そんな事を言われて喜ばない思春期男子は居ない。

 

「しょうがないなぁ。なら、俺の最っ高の刃具の力を存分に見せてやる!」

 

 純粋な風花の言葉に乗せられ、急にやる気を出してライフエナジーの質が濃くなった。

 

「あはっ!」

 

 風花も、無邪気な笑顔とは裏腹に刃具に帯びるライフエナジーの出力が更に上昇した。それを見てちょっと後悔したのは言わずもがな。

 

「やあやあ我こそは、叢雲家の長女にして一刃の風。疾風の風花とはこの私! 嵐のように舞っていざ駆け抜かん!」

 

 この文明が進んだ現代で、まさか古風な口上を耳にするとは。長生きはしてみるもんだ。

 

「行きます、よっ!」

 

 音も無く、風すら揺らめくことなく、その姿を消した。目にも止まらぬ速さで動いたのは間違いないが、予備動作無しだったが為に反応する事が出来ない。

 

「風花流、隙間風」

 

 背後に殺気。意表を突かれ、一手出遅れたか。

 

 否。

 

「ハアッ!」

 

 ──そう仕向けるように、わざと僅かにライフエナジーの巡りを浅くさせて誘ったのだ。

 

 カーン、と嫌な音が鳴るのと同時に風花の刃具が天高く宙を舞っていた。弓を使っているからと言って、接近戦が出来ない訳じゃない。

 

「遠距離型の刃具に対して視覚外からの接近。それにその速さは見事なもんだ。でもな」

 

 振り返った創真の瞳を見て、風花は固まっていた。

 

「よくある話だ」

 

 風花の全身に重くのしかかる威圧感。今までとは打って変わって雰囲気が一変した。

 これは悪手だった。そう気付くのに遅くはなかったが、もう遅い。やってしまった、と嘆く間もない。

 

 この状況下で創真なら、ここで取る選択肢は3つ。

 

 1つ、未だ宙を舞う刃具を取り、その隙を突かれ敗北するか。

 2つ、中途半端な肉弾戦を行い敗れるか。

 3つ、潔く負けを認めるか。

 

 どれも負けが見えている選択肢に風花はどのような動きを見せつけるのか。

 

「私は、それでも!」

 

 跳んだ。

 

 風花が選んだのは1つ目の選択肢。

 

「予想的中!」

 

 刃具を取りに跳んだ風花の無防備な腹に、容赦の無い1本の矢をプレゼントする。

 

「なっ⁉︎」

 

 すり抜けた。

 

「風花流、涼風」

 

 風花が3つの選択肢の内ではなく、4つ目の選択肢を取った。その4つ目の選択肢は──それでも尚、強行突破あるのみ。

 

 跳んだと思われた風花は、実は跳んでおらず、逆に身を屈めて時間差で跳ぼうとしていた。

 これは、本物と見間違える程の精度の高いフェイント。

 

 読み違えた。

 

「引っ掛かりましたね」


 風花は改めて跳躍。

 

 残り時間が少なく、この緊迫した場面でその行動には恐れ入った。

 

(けどな)

 

 創真は後方に下がって距離を開けた。

 

「予想は外れたが想定内だ。焦る程じゃない」

 

 仕留められなかったのは残念だが、結局のところ遅かれ早かれというやつだ。

 

 空中では受け身など取れまい。身動きが出来ない相手を射抜くなど、目隠ししてでも仕留められる……というのは流石に盛り過ぎた。流石に目隠ししては無理があった。

 これで面倒な試合も詰み。王手。終いだ。

 

「チェックメイトだ」

 

「うー、キャッチ!」

 

 打ち出された一矢、難なく素手で掴み取られた。

 

「おま、えっ、ちょはぁ⁉︎」

 

 ちゃんと目で視認して受け止めた。感覚ではなく、視えているうえで止められるのはかなり精神的に来る。

 掴んだ矢を握力でへし折り、刃具も手にした。着地し、切っ先を向けて試合開始時の状態に戻った。

 

 残り時間17秒。

 

 次の攻撃が最後になる。勝ちをもぎ取るのなら、次の一撃で力を出し切る。

 

「疲れるけど、やるしかないよな」

 

 トリガーを3回押して、全身に駆け巡るライフエナジーを1本の矢に全て凝縮させる。

 

 人ひとりのライフエナジーを全てとなると、膨大なエネルギーなため計り知れない。加減を間違えれば、建物なんて木っ端微塵に出来る程の破壊力はある。

 身も心も未発達で成長途中の今の年齢から考えると、将来の事を考えただけでゾッとするものがある。

 

「参ります」

 

 対抗するは同様のやり方で迎え撃つ風花。

 

 刀身に帯びていたライフエナジーも全てかき集め、全身を覆い尽くし、大気が揺れ、風が荒ぶり、渦を巻く。

 

 腰を屈め、左足を一歩前へと出す。

 

「風……なるほど、そんな芸当も出来るんだな。恐れ入る才能だな。もしくは努力とかか?」

 

 風花はライフエナジーを器用に風として自然変化させている。

 

「お互い、考える事は同じようですね」

 

「みたいだな」

 

 小細工など一切不要。時間も無い今の状況から相手を完璧に打ち負かす方法、力と力の真っ向勝負以外にない。

 

「これで」

 

「はい!」

 

「「最後!」」

 

 瞬間、ライフエナジーによる煌めきが最高潮に達し、場内を包み込んだ。

 

「グロリアスレイ」

「風花流最終奥義、風神!」

 

 膨大なライフエナジーを1本の矢に変えた超圧縮エネルギーは、音速で穿たれた。

 対抗するは風花が極限にまで高めた脚力を解放した縮地に、纏う風とライフエナジーを螺旋回転させながら突撃する。

 

 両者最強の一撃が中央で激突した瞬間、お互いのライフエナジーが天にまで届く柱となり、雲を貫いた。

 

「おーしーきーるー!」

 

 気を抜けば持っていかれる。己を鼓舞し、無理矢理足を前に運んで進む。進む事しか頭に入っていない。

 創真のグロリアスレイだって、そんな気合いだけでどうこう出来る矢ではない。

 それでも2人の頭の中に過ぎる言葉。

 

 互角か、と。

 

 残り時間9秒。

 

 力は互角。勝負は拮抗。ならばここから先は、経験がものを言う。

 

「しん、ちょ……ういにぃ!」

 

 グロリアスレイを受け止めながら、風花は刃具の持ち方を変えようとしていた。

 

 激突してしまったのなら、もう後戻りは出来ない。

 矢の軸を僅かにズラして軌道を変える。この手しかない。

 

 しかし、その選択で彼女の「勝利」という文字に亀裂が入った。

 

 それはほんの刹那の時。軌道をズラすのに、試行錯誤をしていた風花の手に緩みが生じた。

 巡り巡ってきたこの好機を、当然創真は見逃さなかった。

 

「ここだ!」

 

 トリガーを3回連続で押す、押す、押す‼︎

 

 最大の向こう側。トンネルの先にある、最高の光を見た。見抜いた。

 

「押し込めグロリアス!」

 

 生みの親の声に応えるべくして、グロリアスは煙を噴き、火花を散らしながら想定以上の出力を叩き出す。

 

「う、そ?」

 

 風花の歩みが止まった。舞台に足が沈む。

 

 まだだ、まだ終わってなどいない。

 

 逆転の兆しは、今──。

 

 しかし、何か為す前に刃具が大破した。

 

「あ──」

 

 声を漏らすも、その言葉と共に風花は光の矢に食われ、呑み込まれた。

 そのまま会場の強化壁まで押し込まれ、崩れ落ちる瓦礫の中へと姿を消した。

 

「ふぅ……あっつ!」

 

 流石に性能以上の力を無理矢理引き出したせいで、グロリアスに相当な負荷が掛かってしまっていた。

 

 冷却装置が完全に機能しておらず、至る所から煙が噴き、ライフエナジーを制御する装置までもが小さく爆発してその機能を停止した。

 

 風花の方は、周りに居た生徒が瓦礫を退かして救出。

 防刃具を通り越して、制服までダメージが通ってボロボロの姿と変わり果てていた。そして当の本人の状態は、目を回して気絶だけで済んでいた。

 

 やり過ぎたと言われてもしょうがないが、そうさせたのは風花の方だ。

「俺は何も悪くない」そう自分に言い聞かせる。

 大人気なく新入生相手に加減無しでぶっ放した事で、周りからの視線が痛い。早いところこの場を去ろう。

 

 創真は、逃げるようにその場を立ち去り、会場を後にした。

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