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プロローグ

 日本の何処かにある、小さな小さな工房。それでも、技術は世界でも最先端を誇り、それに伴い鍛治師も常に最高峰の位置付けで注目されている。「注目されようとしている」のニュアンスが正しいか。

 

 注目されつつある今が一番大事とも言える時期なのだが、内部では不穏な空気が漂っていた。

 夜が深く、月明かりが照らされる幻想的な場所に相応しくもない喧騒が外まで聞こえている。

 

「これはどういう事だよ、親父!」

 

 馬鹿みたいに大きい怒号、鬼の形相で詰め寄るのは、まだ青年の高坂創真(こうさかそうま)

 ただでさえ目付きが悪いというのに、怒った表情はもう見てられない。皆、そう言っている。

 

 だが、創真にとってそんなのはどうでもいい。重要なのは今、現状だ。

 

「覇道はあくまでスポーツ競技。それを戦争の道具にするなんて。まだ、金儲けの道具にされた方がマシだ」

 

「『スポーツ競技』なんて聞こえはいいが、刃を交えている時点で戦争となんら変わらん」

 

「違う! 戦争は血を流す。確かに覇道は真剣を交えているけど、ちゃんとした場とルールが設けられ、世界的競技として成り立っている。皆を盛り上がらせて笑顔を届けている」

 

「子供だな。いつまで夢を見ているつもりだ?」

 

 夢を見る事の何が悪い。夢を追い掛けて何が悪い。夢を夢と嘲笑うのかこの男性。

 心底ムカついている。こんな奴を血の繋がった親父だと思いたくもない。

 

「お前の才能は代わりの無い、唯一無二の逸材だ。そこら辺に売ってある市販の玩具でも兵器に変えられる。この家を、この俺の跡を継ぐに相応しいんだ」

 

「戦争に加担する気は無い」

 

「既にしているのだ。お前にその気は無くても、現に俺はそれを兵器として使っている」

 

「俺は選手の為に、覇道の為に造っている」

 

 ここまで話が通じないとは。だったら取る選択肢は、たった1つしかない。

 親子の縁を切る。いいようにこき使われて縛られる人生なんて、もう真っ平ごめんだ。

 その事を口に出そうとする時。先に開いたのは親父だった。

 

「なら、こうしよう。お前の言う覇道がれっきとしたスポーツ競技と言い張るのであれば、その実績を残してみろ」


「実績、だと?」

 

 何だ、創真が選手としてプロの道に進めと言うのか? 自分の道は自分で切り拓けということか。それも悪くない。

 

「海洋地方にだけ存在する覇道の全てを学べる学園に進学しろ。そこで、卒業するまでにお前が造った刃具の持ち主が覇王となったら……そうだな、好きにすれば良い。縁でもなんでも切ればいいさ」

 

「俺じゃなくてもいいのか?」

 

「別にお前が刃具を覇王になっても構わない。重要なのは『お前の造った刃具でトップを取る』これだけだ」

 

 学園で一番を取れば自分のやること成すこと、そして言うことに口を出さない。時間は掛かるが、大した問題ではない。

 要は数の暴力で、色んな人に創真が造った刃具を持たせればそれだけで──。

 

「但し、5人までだ。お前も刃具を握ると言うのなら、お前自身含めて刃具を握るのは5人までが条件だ」

 

 5人。少な過ぎる。

 

「まさか、適当な輩に刃具を配布して数打ちゃ当たる作戦でも考えていたのか? 呆れたな」

 

 図星を突かれた。他の人に自分の刃具を持たすとなると、刃具の質とそれを取り扱う武刃家の相性も考えないといけない。

 最高の刃具と最強の武刃家。

 

「別に自信が無いならそれでいいさ。数の暴力でしか、自分の腕を証明出来ないのなら、その程度の夢だったって事になる」

 

「なんだと⁉︎」

 

 これは挑発だ。しかし、乗らなければどちらにしろ創真の夢も、造った刃具も全部戦争の道具として扱われるだけ。

 だったらやってやろうじゃねぇか。元々1つしか道が無いのだ。それが茨の道になった程度。

 

「伸るか反るか、どっちだ?」

 

「造ってやるよ。学生の3年間で、俺が誇る最っ高の刃具を造って、その鼻叩き折ってやる!」

 

「じゃ、手続きしてやる。ここからは、お前だけの力でなんとかするのだな」

 

「待てよ、俺に縛りを与えるように、これからやる事成す事に干渉なんてするなよ? これは約束だ、分かったか?」

 

「俺が破った事が一度としてあったか?」

 

 クソッタレ、と捨て台詞を吐いて創真は部屋から退出した。



 ◯



「お兄ちゃん……」

 

 部屋を出ると、たった1人の妹である小春が心配の表情をして立っていた。

 聞き耳でも立てていたに違いない。なんとも行儀の悪い妹だ。しかし、これはこれで都合が良い。

 

「話聴いてたよな? 悪い小春、家業は暫くお前に任せる」

 

「えっ、私にですか? む、無理だよ私になんて!」

 

「出来るさ。お前は、俺の自慢の妹。覚えも早い、吸収力もある」

 

 背中を押す言葉を何度も投げ掛けるも、小春は頭を横に振って全部否定する。

 否定されると、兄である身としては傷付く。そこまで悲観的にならなくても、小春はやればできる子って創真が一番知っている。

 

 いつも創真の後ろに付いて来ており、遅れを取っている姿は一度も見ていない。だからこそ信じて託せる。

 

「俺の刃具で誰かが覇王になれば、そこからは自由だ。その後はお前の事も迎えに行く」

 

 涙を流しながら、胸の中に顔を埋める妹の頭を優しく撫でまわした。こうすると、昔から小春は気持ちが落ち着いて楽になる。いつまで経っても甘えたがりな性格は、治っていない。

 

「本当に?」

 

「本当だ。お兄ちゃんがお前に嘘なんて吐いた事、一度でもあったか?」

 

「ううん。お兄ちゃんは、いつも私の味方になってくれた」

 

「だろ?」

 

 ぎゅっと、力強く抱き締めて額に軽く口付けをしてあけだ。

 それをされて、小春の表情は一気に蕩ける。いつも通りの小春だ。

 

「まだ時間はある。それまで、ずっと側に居てやるからな」

 

「それは、24時間ずっとって意味ですよね?」

 

「それは違う。拡大解釈し過ぎだ」

 

「おはようからおやすみまで、お兄ちゃんがずっと側に居てくれる!」

 

 これはもう、何を言っても無駄なようだ。しかしあれだ。小春が創真を慕うように、創真自身も小春の事をしっかり愛情を持って接している。

 とても素晴らしい兄弟愛というやつだ。他の兄妹では見ない光景に、羨ましがる人も居た。

 ハートを撒き散らす小春の頭を、また優しく撫でる。

 

 父親よりも、より良い最高の刃具を造ってみせる。

 

 高坂創真は最高の鍛治師に、武鍛刃になる。ならなきゃいけなくなった。

稚拙な内容ですが、温かい目で拝読していただけたら嬉しいです。

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