第三話
─ツヴァン村
パンセ・ポンセに手を引かれ、アマナが辿り着いたのは、森の中にある小さな集落だった。
「おーい!」
ポンセが先行し、村の入り口へ。
「ポンセ!帰りが遅いので皆が心配していたのだぞ!パンセも無事か!?」
村の入り口に立っていた、槍を携えた男が言う。その姿たるや二足歩行の人型ではあるものの、鱗に覆われた肌、後ろ腰から生えた太い尾、鰐や蜥蜴を思わせる頭部を持つ亜人種“竜人”であった。
「おっちゃん、ただいま。パンセも無事だし、お客さんを連れてきたぜ」
と、ポンセはパンセとアマナを指さす。
「……あれは只人じゃないのか!?」
縦長の瞳孔がアマナと目を合わせるや、剣呑な声音に変わる。
「この姉ちゃんはいい只人なんだ!オイラ達を助けてくれたんだぜ?」
「そうよ。あたしなんて毒で死にかけてたんだから!」
パンセとポンセが必死に説明する。
「良い只人だと?“陛下”と“殿下”以外に只人は信用ならん!」
今にも口から火でも噴き出しそうな竜人を静めたのは、一人の老婆であった。
「通してあげなさい、コレートや」
「長老!!」
竜人コレートは長老と呼ばれた老婆に向き直ると、頭を下げる。
「そのお嬢さんは、お困りの様です。只人の陛下が我々を助けてくれた様に、今は我々が只人を助けてあげましょう」
「……解りました。娘、通るがいい。ただし、貴様が村に危害を加えようものなら、その時は覚悟をしておけ、」
コレートは睨むも、アマナは笑顔で返す。
「ありがとうございます。私はクロウ・アマナ。只人って種族みたいです。そしてコレはお近づきの印です」
と、アマナはコレートのごつごつとした掌を両手で上と下から挟む様に掴むと、上に置いた掌から円形の菓子を出現させた。
「これは!?」
コレートは驚く。普通、只人という人種は竜人を怖がり触れる事すら嫌がるのに、この娘は踏諾う事なく鱗だらけの手に触れてきたこと、そして見たことも無い物体を掌から生み出したことに。
「おっちゃん、それ食ってみな?トぶぞ!」
「あたしなんて、それ食べて猛毒すら飛んでいったんだから!」
戸惑うコレートの周りを飛び回る小精たち。
「……成る程、やはり普通の人ではない様ですね。パンセ、ポンセ、それにアマナさん。私の家までいらっしゃい」
3人は長老の後をついて行く。その姿が遠のき小さくなると、コレートはアマナの菓子を口に放り込む。
「……美味い!ぬおおおお!!」
コレートの鱗が半透明の乳白色に変化して破れ、飛び散り、その下から艶やかな鱗が現れたではないか。
「あまりの美味さと溢れ出す活力により脱皮してしまった!この菓子は…あの娘は一体!?」