第十二話
剣が、槍が、斧が、矢が、魔術が。あらゆる力と意思がぶつかり合う。帝国兵200騎と、王国兵100騎と亜人達数十人の戦いは数と練度で勝る帝国側が優位に見えた。
「うおおおっ」
一人の王国兵が帝国兵一人を斬り伏せる。
「ベイク!危ない!!」
別の王国兵が杖の先から飛ばした火炎弾が、ベイクと呼ばれた王国兵の背後から近付く帝国兵に直撃。すかさずベイクは刺突で帝国兵の喉を貫く。
「助かったぜ、ドモチョ」
「気を抜くなよ、相手は帝国最強部隊だぞ」
剣士ベイクと魔術師ドモチョ。カスターの善き友であり右腕左腕と称される部下でもある。
「ひっ……うわああああ」
ベイクとドモチョが悲鳴のした方を向くと、王国兵が何人も転がっていた。そして、その惨状を生み出した主と対峙する。
「こいつは……地竜!」
帝国の竜駆士が乗る地竜は、その爪牙と鞭の様な尾で何人もの王国兵を蹂躙したのだ。
「ベイク、あの鱗には剣も魔術も通りにくい!迂闊な攻撃はするな!」
「ほう。王国にも利口な奴がいるものよ……ならば、こうだ!」
竜駆士が合図をすると、地竜が大きく口腔を開き、その奥から赤い輝きと熱源が見えた。
竜属の発する吐息 (ブレス)は凄まじき破壊力を秘めており、小さな地竜の吐く火炎でも食らえばひとたまりもない。ベイクとドモチョが死を覚悟したその時だった。
「伏せろ只人!」
巨躯の亜人種─鬼人 (オーガ)がベイクとドモチョに覆い被さり、
「コレート!頼むぞ!」
「応ッ!」
地竜と鬼人の間に立つ竜人コレート。地竜の口からは火炎放射器が如く炎が発射される。
「ぬおおおおおおっ!」
炎に耐えるコレートの鱗は焦げ、煤けてはいたが致命傷には程遠い。
「オーバーン焼きにより生まれ変わった私の鱗に、この程度の炎は効かん!今だマッチャー!」
コレートが呼びかけると、鬼人は立ち上がり地竜へと向かっていく。
ふしゅるる、と鼻腔から噴気音を鳴らし、地竜の尾撃が鬼人・マッチャーを襲う。が、
「ぬんっ!」
左腕でその尾を受け止めて掴むと小脇に抱え……
「ぬおりゃ!飛龍旋回!!」
巨体をコマの如く一回転させながら倒れ込むと、地竜は尾を軸に螺旋を描く。その衝撃で騎乗していた竜駆士は地上へと投げ出されたではないか。
「只人の!」
「おうよ!」
ベイクとドモチョは地に転がる敵兵が起き上がる前に接近し、
「そらっ!」「火炎魔術!」
ベイクの刺突とドモチョの魔術は敵兵の、両掌を左右それぞれ貫き焦がす。
「その手じゃ手綱も握れまい!命が惜しければ退ね!」
ベイクが剣の先を突きつけて言うなり、敵兵は脱兎の如く立ち去る。
「地竜よ、其方を縛るものはもうおらん。同じく鱗を持つ者同士争う気はない。どこへでも行くがよい」
竜人であるコレートは竜と言葉を交わすことが可能である。彼の言葉を聞いた地電は森のいずれかへと去って行った。
「助かったよ。竜人さんに鬼人さん」
ドモチョがコレートとマッチャーに言う。
「礼には及ばんぜ、只人」
マッチャーが言うと、ベイク達は
「ベイクだ」「僕はドモチョ」
右手を差し出す。
「私はコレート」「ワシはマッチャーや」
亜人二人もゴツゴツとした手を差し出そうとするが、
「ベイク、ドモチョ……君達は何の為に戦っている」
コレートの問いに対し、只人の二人は
「殿下と」「聖女様のため」
コレートとマッチャーは差し出された手を握る。
「そして王国と」「未来の為やな!」
目的を共にした只人と亜人たちは手を取り合う。オーバーン王国の理想はオーバーン焼きにより、少しずつ叶えられようとしていた。