98話
再会を果たしたアリスだったけど父親があの状態では辛いものだったと思う。
面会が終わった後、部屋へと帰った俺とアリスは皆に面会の様子を話すと部屋は重い空気に包まれていた。
「私、お父さんを助けたい……」
俺としてもアリスの助けになりたかったけど、どうすればいいのかまるで分からない。帰る途中でアリスに俺の持っている万能薬を試したらどうか話したがどうやら効かないらしい。
「アリス、俺達にできることがあれば何でも言ってくれ」
俺の言葉にアリスは少し微笑んでくれた。
「ありがとう。私、諦めないよ」
俯いていた顔を上げるアリスの目は死んでいなかった。むしろしっかりと前を向いていた。
「私、体を乗っ取られてお兄ちゃんに封印されてからしばらくして封印が解けたの。それからリアンと会うまであの洞窟に何年もいた……私の中にいたアイツは凄くおしゃべりで色々話してきたわ」
アリスは何故かそんな話を始めた。
「前から気になっていたけどアイツって何者なんだ?」
いい機会だと俺がずっと疑問に思ってた事をアリスに訊いてみた。
「はるか昔……この世界がモンスターで溢れていた時代があったの」
「ラセンが言ってたな、それで魔族が洞窟にモンスターを封印したんだろ?」
「うん、アイツはその時代に生きていたらしいの」
「何ですって⁉︎」
いつも冷静なエニィの大きな声が静かな部屋に響いた。
「なるほど、だから世界を元に戻すって言ってたのね」
落ち着きを取り戻したエニィは以前俺から聞いた話を思い出したのか独り言のように話した。
「魔族がモンスターを洞窟に封印し始めると魔族の土地にある洞窟に逃げ込んだ。それが私とお兄ちゃんが攻略していた所なの」
「ラセンから聞いたけど昔あそこに研究者がいたのよね」
「じゃあそいつがその研究者ってことか」
アイナとセラニの言葉にアリスは首を横に振った。
「ううん、違うの。その研究者はアイツに乗り移られた犠牲者……凄く頭のいい研究者だったって言ってたわ。アイツは研究者から知識を手に入れた……それを使ってある研究を始めたの」
「……一体どんな研究をしていたんだ?」
「魔族の体を乗っ取ってもずっと生きられるわけじゃないから次の体を乗っ取る必要があるの。だから体をいつまでも保てるような薬を作ろうとしたの」
「それはできたのか?」
「完全じゃないけどね。リアンが持ってる薬はその過程でできたものなの」
「それって蘇生薬とか万能薬のことか?」
「うん、あれは魔族に使ってもそれほど効果はでない。魔族より体が脆弱な人間だからあの効果を出す事ができるの」
だからさっきアリスは万能薬が効かないって言ってたのか。
「そうか、魔族用の薬は人間には効果が凄いんだな」
「私は長い間アイツと一緒にいて知識を得たわ。だからお父さんを助ける薬ができるはず……」
「やろうぜ! 俺のスキル合成が役に立つかもしれない!」
「ありがとうセラニ……」
「じゃあラスターにも協力してもらおう」
いいタイミングで来たラスターに話をするとラスターは顔を輝かせた。
「本当ですか! 実は私達の研究所でも王を治す方法を研究していたんですが行き詰まってしまっていたんです」
「じゃあ行ってくるね」
アリスとセラニはラスターに連れられ部屋を出て行った。
それと入れ違いに今度はラセンが部屋に訪ねてくるとさっき会ったランサラス王子が俺達と面会をしたいらしく迎えに来たと言われた。
ラセンに連れて行かれた場所には多くの魔族達が椅子に座って部屋に入った俺達を見ていた。
静まり返った部屋で椅子に座るとランサラス王子が口を開いた。
「この度は世界をお救いいただき感謝します」
王子が頭を下げると周りの魔族達も一斉に頭を下げてきたのでちょっと気まずい。
「そしてもうひとつ……我が兄がした事をお詫びしたい」
それは人間を滅ぼそうとした魔王サーフェスの事だった。
「何故あれほど人間を憎んでいたんですか?」
横に座っていたウェンディの質問する声が聞こえた。
「魔族の住むこの大陸は鉱山が多く作物が育ちにくい場所でもあります。だから昔から一部の魔族から人間の住む場所を奪ってしまおうと考える者がいました」
それは以前ラセンから聞いた。逆に人間は魔族の大陸にある鉱物を欲しがり戦争を繰り返したんだ。
「その一部の勢力を率いていた人物が兄を仲間に引き入れたのです。昔の兄は正義感の強い人で将来父上の跡を立派に継ぐだろうと期待されていました」
「それがなんで……」
「ある時兄は人間が魔族の大陸にやって来て村を襲った事を知ると軍を率いて向かいました。そして帰ってた兄には明らかに変化が起きていた。兵士の話によると人間達は村の魔族にかなり酷い仕打ちをしていたそうで怒り狂った兄は人間達を全員抹殺したそうです」
それだけ聞けば何で人間を憎むのか分かった気がする。
「それから兄は城にある本を読み漁り人間との間で起きた事件を調べていました。そんな時兄に接触したのが先程言った人物です」
「その人は今どこに?」
「今は捕らえて牢獄に入れました。どうやらここに残って兄と連絡を取っていたようです」
エニィの質問に王子が答えた。
「では、明日には国民に貴方達をお披露目したいと思っていますので、それまでゆっくりと部屋でお寛ぎ下さい」
「まだ城の一部しかお主達がいる事を知らないのでな。申し訳ないが部屋にいてくれ」
帰るなり付き添ってくれていたラセンはそう言って部屋を出て行ってしまった。
さて、どうするか……。
「リアン、異空間出してくれる? あそこなら安心して休めるわ」
確かに、エニィの言う通り俺達には異空間があった。あそこなら安心して過ごせる。
「異空間発動!」
「そういえばここに来るのは久しぶりね」
異空間に入るなりエニィがそう漏らした。
「そうですね……何だかホッとします」
マーナは懐かしそうに周りを見渡していた。
「私はまだそんなに来てないけどこれ凄く便利よね」
「はい、旅が凄く快適で野営が出来なくなってしまいそうです」
アイナとウェンディの会話を聞くと俺も当たり前になっていたこの快適さにあらためて気付かされる。
「そういえばセラニさんが新しいものを作ったそうですよ」
そんなマーナの声を聞いた皆の視線がマーナに向いていた。
「何かしら?」
考えるようにアイナが言った。
「何でも肌を綺麗にしてくれるっていう施設が貴族の女性の間で流行っているらしくて……」
それを聞いたアイナ、エニィ、ウェンディの顔色が明らかに変わった。
「どこに建てたのマーナ!」
エニィはマーナの肩をガシッと掴んで迫るとマーナは少し呆気に取られていた。
「え? あ、確か温泉の隣だって……」
「行きましょ! セラニに後でお礼しなきゃ!」
アイナも興奮している。
「そんなに気になっていたの……?」
つい言った俺の発言にエニィが答えた。
「当たり前でしょ? 私達は日々モンスターと戦ったり旅をしているから肌荒れが気になるのよ」
やっぱり年頃の女の子なんだと俺はつい笑ってしまった。
「さあ行きましょう!」
子供のようにはしゃぐウェンディが先頭を歩き、アイナとエニィはマーナを連れて行ってしまった。
嬉しそうに皆んなで歩いて行ってしまいひとり取り残された俺は武器や防具の整理をしようと別の方向へ歩いて行ったのだった。