95話
かくしてエニィは目覚め、数日が過ぎると俺達は日常を取り戻しつつあった。
そんな時、ササラさんから教皇が呼んでいると聞いた俺達はお世話になったザムド王に出発前の挨拶をしに向かった。
「おお！ もう体の具合は大丈夫なのか？」
ザムド王はかつてこの辺りを縄張りにしていたモンスターを倒した英雄で、年をとった今もその強靭な肉体と鋭い眼光は全く衰えていない。それでも鋭い眼光の中に優しさを滲ませた魅力ある目は王になった器を感じさせるものだった。
「ありがとうございます。手厚い配慮のおかげですっかり元気になりました」
「そうか！ それは良かった！ そなた達はこの国を救った英雄なのだ！ 遠慮はせずもっとここにいていいのだぞ？」
俺の返事に笑顔で応じてくれるとニヤッとした表情で俺にそう言ってくれた。
「そうしたい所なのですが教皇に報告があるのでまた伺います」
「うむ、では城の者達を集めて見送るとしよう」
王との謁見が終わるとアイナ、ウェンディと一緒にガドインの元に向かった。
「ガドイン！ 俺を一発思いっきりぶん殴ってくれ！」
俺はガドインを前にそう言ってから目を閉じて歯を食いしばった。過去の過ちを清算するにはこれしかないと思ったら咄嗟にそうしていた。
「……」
ガン！
「くっ！」
少しの沈黙が流れた後地面をジリっと擦れる音が聞こえると同時に頬に強い衝撃が走った。気持ちの入った一撃に俺は地面に倒れ込んだ。
「これは俺からの一発じゃねえ……悲しませたアイナとウェンディの分だ。俺にはお前を殴る資格はない、すまなかったな……あの時俺がアイナを止めるべきだった」
「ガドイン……」
ガドインの名を呟くアイナ。
「ガハハ！ この件はこれで終わりだ！」
ガドインはいつもの豪快な笑い声を響かせると俺を許してくれた。
それからガドインと話をした。ガドインはアイナ達と別れた後、失意の中以前いたカラナ王国に帰るとしばらく酒に溺れて腐っていたらしい。そんな中、帰った事を知った城の兵士達が迎えにきたのだそうだ。熱意のこもった説得を受けたガドインは再び城を守る為に隊に復帰したと聞いた。
「もうふたりを悲しませるなよ！ じゃあな！」
「ありがとうガドイン……」
去っていくガドインの背中にウェンディが別れを惜しむように言葉をかける。俺も同じ気持ちだった。でも、ガドインの背中を見ていると俺達を守ってくれたあの時のように大きくそして心強く見えてこの国の為に頑張って欲しいと思った。
俺は心の中でありがとうと感謝した。
俺達は城の人達に見送られるとガイアグラスへ帰還したのだった。
「レシナ……」
ガイアグラスに着いた俺達を一番に待っていたのはラセンだった。アリスを目にすると涙を浮かべ体を震わせてアリスの名を呼んだ。
「ラセン……私……」
アリスもラセンの姿に涙を流して言葉を詰まらせた。
「レシナすまない……ワシはお前を見捨てたのだ……許してくれ……」
ラセンは頭を下げて謝るとアリスは涙を流しながらも微笑んだ。
「ううん、いいの……リアンから話を聞いた……私の為に色々と頑張ってくれた……嬉しかったよ」
「レシナ……」
「私ね、リアンが付けてくれた名前で生きていくわ。今までの過ちはこの世界からモンスターを無くして償うわ」
「そうか……レシナよ、エルド王に会ってくれないか？ 王は今、病に伏せっておってな……アロントとレシナの事を王は酷く後悔していた……ふたりを幸せに出来なかった事に死んでも死にきれんと嘆いておる」
「分かってるの……あの時お父さんが忙しい中で私達に会いに来てくれたり気を遣ってくれた。だから少しもお父さんを恨んでないよ」
「それを王に言ってあげてくれ……病で弱くなっている今、それだけが心残りだと苦しんでいる」
「行こうアリス」
ふたりの会話を聞いていた俺は悩むアリスに声をかけた。
「うん、リアンも一緒に来て」
「俺なんかが行ったら大騒ぎになるんじゃないか？」
「ふっ、その事なら大丈夫じゃ。先日城に帰って色々と話をつけてきたところでな、ワシら魔族が起こした問題を人間が解決したと報告したのじゃ。だからその功労者であるお主達を城に招こうと思ってな」
そういう事なら大丈夫そうだ。
「じゃあ明日にでも向かおう。まずは教皇に報告しなきゃな」
俺の言葉に皆は頷くと俺はひとり教皇の元に向かうのだった。
