91話
昔幾度となく俺を守ってくれた大きな背中に懐かしい声が重なると心がカッと熱くなった。
「ガドイン!」
「ははっ! まさか生きていたとはな! ここは俺達に任せろ‼︎」
かつての仲間であるガドインはあの頃と変わらず頼もしかった。ガドインは城の兵士達を引き連れていて号令と共に一斉にモンスターに攻撃を始めた。
「頼む!」
「ガドインありがとう!」
「アイナ、良かったな! さあ行け!」
ガドイン達にその場を任せて城に着いた瞬間体が揺れる程の轟音が鳴った。
「リアン! 上の方からだわ!」
アイナが見ている場所から大勢の人の声と共にガラガラと城の一部が崩れ落ちているのが見える。
「入り口は向こうだ!」
大きく開かれた城門をくぐり抜け城の中を駆けていく、次々と驚く兵士の間を抜けて行くとアリスの気配と戦闘音が間近に迫っていた。
「もうすぐだ!」
ドガァン‼︎
カラナ王国の紋章が施された扉を体当たりで開くと本来なら美しい庭園だっただろうと想像できるような場所に出た。庭園の真ん中を飾る噴水は壊れ、花壇には大きな穴が幾つも空いていてそこらじゅうに兵士が倒れていた。
その先では何人もの冒険者達が空に浮かぶアリスに対峙していた。冒険者達の顔は恐怖に慄いていた。まるでアリスをダンジョンのボスモンスターを見るような怯える目で見ていたのだ。
「あれは! 勇者様だ!」
そんな緊迫した中を俺とアイナが走って近づくと気付いたひとりの冒険者が声をあげた。
「これで安心だ!」
「おお! これは心強い!」
その声に周りの冒険者達も気付いてその場が大きく湧きだつと俺達は冒険者達に囲まれた。
「皆は怪我人を運んで撤退して! 私達が戦うわ!」
「分かった! 悔しいが俺達じゃ歯が立たない! 頼んだぞ!」
アイナの指示に冒険者達は迷いなく頷くと倒れた人に向かって散っていった。
「アリス……」
俺達を見下ろすアリスの顔は笑みが溢れ余裕さえ感じる。
「そんなにこの娘を助けたいか? だが無駄な事だ……諦めるんだな」
アリスを乗っ取った奴は俺達を嘲笑い手を出してスキルを唱えた。
「さあ! 我が野望の幕開けだ!」
高らかに手を上げて宣言する敵を前に俺はなす術がない歯痒さに苛まれていた。
「どうすればいい……」
「リアン、エニィを連れて来なかったのは理由があるんでしょ?」
その言葉に驚いてアイナをチラッと見た。
「……気付いていたのか?」
「やっぱりね……私でも分かったわ。皆んなが喜んでるのにふたりだけ様子がおかしかったんだもん」
「あのスキルは命に関わるんだ……だから使わせたくない」
「エニィに謝らなくちゃ……そんな事も気付かないで喜んでた」
「俺だってラセンから聞かなかったら同じだったよ……だから他の方法を探したい」
「じゃあ今は戦うしかないわ……なるべくここで消耗させて時間を作るの」
「そうだな……今はダメでもいつかアリスを助けるんだ」
俺達の中で意思が固まればあとは戦闘に集中できる。
「行くぞ!」
俺はその掛け声と共に全力でアリスに襲いかかった。
「高速回転斬り〜!」
セラニは手に持つ巨大な斧を体を回転しながら振り回してモンスターの群に突っ込み蹴散らした。
「飛翔急襲撃‼︎」
マーナは空を舞い上がり、巨大なモンスターの頭上に強烈な一撃を与えて葬り去ると次の標的に向かって再び空に舞った。
「浄化の光!」
ウェンディもまたアンデットを消し去り、3人は城に侵入しようとするモンスターを排除していた。
そしてモンスターの咆哮や地面を揺らす足音が次第に無くなっていったのだった。
「よし! これで周りは片付いたな!」
セラニは静かになった戦場を見渡すと背中に武器をしまった。
「では私達も城へ向かいましょう!」
はやる気持ちを抑えながらマーナは歩き出す。
「そういえばエニィさんの姿が見えませんね?」
ウェンディの言葉にマーナとセラニは足を止めた。
「あれ? ほんとだ……何処にいったんだ?」
「一足先に城に向かったのかもしれませんね」
「俺達も早く行こう!」
3人は示し合わせたかのように走り出すと城に向かったのだった。