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89話

「話がある……」


 俺はカイアスさんの屋敷でエニィの体調が回復するまで休んでいるとラセンにそう言われて呼び出された。


「なんだ?」


 屋敷の外にある静かな丘には涼しい風が吹き、空は暗闇に染まっていた。


 そんな場所に呼び出され、尚且つラセンは深刻な顔をしているから嫌でも身構えてしまう。


「レシナを解放するスキルについてだ……」


 エニィがガイアから託されたスキルに何かあるのだろうか。


「それがどうかしたのか?」

 

「似ているのだ……アロントがレシナに使ったスキルに……」  


「どういう事だ?」


「アロントがレシナを封印したスキルも1回限りの大技で、その凄まじい威力からアロントの体が耐えられなかったのだ……結果アロントは命を落とした」


 血の気が引いた……やっとアリスを助けられると思っていた嬉しい気持ちが音を立てて崩れ落ちていく。


「まさかエニィも……」


「あの時……レシナを封印した後アロントが息を引き取る時こう言った。こうなる事は分かっていたとな……アロントは隠していたのだ。スキルを使用した代償を……」


「そんな……」


 いくらアリスを助けてもエニィが死んでしまったら意味がないじゃないか……。


「あの娘がそれを言わなかったのはアロントと同様に覚悟を決めたからじゃ」


「……」


「あとラスターから連絡があった。持ち帰った資料の分析が終わったそうだ」


「分かった……」


 今の俺は頭がいっぱいで何も考えられなくなっている。ラセンの話にもそう答えるのが精一杯だった。


「お前達人間には本当にすまないと思っている……魔族側の問題に巻き込んでしまい更にはその尻拭いをさせている……情けない話じゃ」


「……アリスは俺を救ってくれた。それがどんな理由であれアリスが居なかったら俺は死んでいた……これは俺自身で決めた事だ」


「そうか、話は終わりじゃ……また明日な」


「なあ……もしもアロントがスキルの代償の事を話してたらどうした? 使ったら死ぬかもしれないって分かったら止めてたか?」


 ラセンが後ろを向いて去ろうとした時、思わずそう口から出ていた。


「……どうだろうな。恐らく止めていただろうが結果は変わらないような気がするのだ。運命とはそういうものなのだ。いかに避けていても結局は流れに逆らえず同じ結果になってしまう……」


「だからってエニィを失う訳にはいかない……絶対に何か方法があるはずなんだ」


「それでいい……抗え、どんな結果が待っていようと最後まで諦めるでないぞ。わしはそれができなかった……だから今でも後悔しているのじゃ」


 話が終わり、ラセンが去っていくとしばらく動けずに空を見ていた。それは先程見た時よりも漆黒に染まる闇に感じた。エニィが死んでしまうなんて今まで考えた事がなかった。その可能性が出た今、俺の心に恐怖が襲っていた。


 次の日の朝は頭が痛かった。あの後なかなか眠れずにいたせいだ。


「ラスターにガイアグラスに来るよう連絡しておいた」


 朝食を食べた後ラセンからそう言葉を受けると皆を連れてガイアグラスに向かった。


「リアン様大丈夫ですか? お顔がすぐれないようですが……」


 ガイアグラスに着くなりマーナは俺の顔を心配そうに見ながら声をかけてくれた。


「そういえば朝から辛そうだったけど何かあったのか?」


 セラニも気付いていたのか俺の顔を覗き込んできた。


「少し心配になって眠れなかったんだ」


「大丈夫よ! きっと成功するわ! ね? エニィ?」


「え? ああ、そうね」


 俺は見逃さなかった。エニィは上の空になっていたのか、すぐ横にいるアイナに話かけられていたのに少し遅れて反応していたのだ。やはりラセンの言う通り何かを隠しているように見えた。


「うまくいけばアリスちゃんとまた皆んなで楽しく暮らせますよ!」


 何も知らないウェンディの言葉が心に刺さる。俺とエニィ、ラセン以外の皆が嬉しそうな顔を見せて喜び合っている中でエニィと目が合うと、エニィは耐えられないといった様子で目を逸らしてしまった。きっと俺の探るような顔を見て察したのかもしれない。


 ガイアグラスには既にラスターが俺達を待っていた。


「お祖父様お元気そうで何よりです」


「ラスターよ、報告を頼む」


 いつもの落ち着いたラスターに対してラセンは急かすように返した。


「はい、まず見つかったのは昔魔族の城より紛失した洞窟創造術に関する本でした。これがあればまたモンスターを洞窟に閉じ込める事ができるでしょう」


 これは朗報といっていいくらいの大きな収穫だ。話を聞いた瞬間周りが湧きだった。


「ほう、それはいい事じゃな! あとは?」


「どうやらあそこで行われていたのは他人に乗り移る研究のようです。それを繰り返して長年を生き抜いてきたのでしょう」


「そこまでして生きたい理由があるのか?」


 俺は不思議に思ってそう言った。あの洞窟で何年も生きる意味があるのだろうか?


「分かりません……が、その目的がお祖父様から聞いたこの世界をモンスターが支配する事なのかもしれません」


「そうだったら凄い執念だわ……」


 アイナは寒気がしたのか身震いしながらそう言った。


「これを見て下さい」


 ラスターはテーブルに大きな紙を広げた。


「世界地図ですか?」


 ウェンディの言葉に頷くとラスターは微笑んだ。


「これもあの場所にあったもので、遥か昔に魔族が洞窟を作った場所が記してあります。私はこれを見てお祖父様から昔聞いた1000年前レシナによって解放された洞窟を思い出して当てはめた所、全てこの印の場所と合致していたんです」


「なんと!」


 ラセンの驚く声を聞きながら俺はなんとなく分かった気がした……敵の目的が。


「やっぱりアリスを乗っ取った奴は昔の魔族がどこかの洞窟に封印した何かを探しているんだな……」


 それがなんなのかが気になる……長い年月をかけてまで探す程のものが……。


「これでアリスが次にいく場所が絞れるわね」


 俺が考えている横でエニィの声が聞こえると視線を移す。そこには地図をじっと見ているエニィの横顔があった。


「ウェンディ、すまないけど世界地図を持って来てくれないか?」


 ラスターの広げた地図は相当昔のものでよく分からなかったのだ。


「そうですね。これと照らし合わせれば確実に分かりそうです」


 そして急いでウェンディが地図を持って来ると古い地図の横に並べたのだった。


「これを見ると深淵の洞窟と禁断の洞窟は古代の魔族が作ったものだったのね」


 アイナは地図を見ながらそう話した。確かに深淵と禁断の洞窟の位置には印が付いていた。


「この大陸にはあと3つ印がありますね。ホーネス王国、カラナ王国、ガードル王国と各国にひとつずつ……」


 ウェンディの言う場所のどれかにアリスは向かうだろう。いや、もう向かっているかもしれない。


「次はどこかしら……」


 そう呟くアイナを見ると顎に指を添えて考えていた。当然それに誰も答える事はできず沈黙が流れていた。

 



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