87話
何処のダンジョンとなんら変わらない殺風景な道を歩いていると隣を歩くアイナが口を開いた。
「ここのモンスター結構強いわね。多分レベル100はないとキツいわ」
確かにさっき出会ったモンスターは禁断の洞窟と比べても遜色ない強さだった。
「私思ったんですけど……」
ウェンディはそう前置きして少し黙る。
「何か分かったの?」
アイナに言われてウェンディは話を続けた。
「はい、ガイアは装備を集めた勇者達をここに来させたかったんじゃないでしょうか……各国には大陸に災いが起こる時勇者を選任して装備を集めさせると言い伝えられています。今回は魔族の襲来というガイアの思惑とは違った形になってしまいましたが結果的にアリスちゃんが復活して予期していた災いが起こりました。本来ならアリスちゃんの復活で災いが起こり勇者達が装備を集めた後にこの地を訪れるという流れができていたんだと思います」
俺はまさにその通りだと心が昂る。
「なるほどね。それだと合点がいくわ。お父さんがガイアの遺言を今になって思い出したのがそもそも魔族襲来が天地を揺るがす災いじゃ無くてアリスの話を教皇から聞いた時だったって言ってたし」
エニィはウェンディの推測に関心したようで他の面々も確かにと頷いていた。
「後はガイアが勇者達に何をさせたいのか……」
「それはガイアの元に行けば分かるはずだ」
ウェンディの呟きに俺は答えた。ガイアがこんな場所に来させるからには重大な何かがあるはずだ。期待をしないのには無理がある。
「何階あるか分からないけど一気に進むぞ!」
俺は興奮を抑えて前から迫るモンスターにスキルを放った。
……ここが最下層だと分かったのは奥に行ける道が無かったのを知った時だった。しばらくその階層を彷徨っていた俺達だがエニィが突然立ち止まると誰かに話しかけられているように耳を傾けていたのだ。
「……呼ばれてる」
エニィは目を閉じて歩き出した。ガイアに導かれているのだろうか。
そして光が漏れる小さな穴を見つけるとその奥に大きな空間を発見した。
「ここで間違いなさそうね」
目の前には幻想的な空間が広がっていた。
虹色の光が降り注ぐ場所には心地良い音を立てる水が流れ、生き生きとした草木が生い茂っている。それが背景となり遠くからでも分かるほど大きな石碑が建っていた。
「綺麗な場所ね……」
「はい、心が洗われるようです……」
エニィとウェンディは思い思いに口を開き他の面々もその幻想的な絵に心を奪われているようだった。
俺はひとりその石碑に向かって歩き出すとラセンが横を歩いていた。それを見た皆が慌てて歩き出すのが背後からの音で分かった。
草木が多くある事で空気が澄んでいるのか昂る心が落ち着いてくる。
石碑に辿り着くとその後ろが祭壇になっている事が分かった。
「これは……」
祭壇を調べていると石碑にいるウェンディの驚く声が聞こえてきた。
「これ読めるの?」
アイナは食い付くように石碑に目を這わせるウェンディに話しかけていた。
「はい、私は昔からガイアに関する古文書を読みたくて勉強をしてたんです」
そう言いながらも石碑から目を離さず内容を読んでいた。
「すまないけど声に出して読んでくれないか?」
俺は石碑に夢中になっているウェンディに背中越しに話しかけた。
「あ! すいません‼︎」
ウェンディはやっと我に帰ったのかこちらを振り返って謝ると再び石碑に目を向けた。
「最初はよくここまで来てくれたと書いてあります。次からは今起きているだろう災いに関して説明していますね。それからガイアは災いの元凶であるアリスちゃんを仲間の魔族と共に封印したと……」
ここまでは俺達が知っている事だ。肝心なのはこれからだと耳を傾けて話の続きを待った。
「そしてガイアは災いはまた復活するであろうと、各国に避難用の地下施設を作らせたり勇者の装備に足りうる強力な装備を用意して災いに備えたと書いてあります」
「ウェンディの推測通りね」
「そうですね……」
ウェンディは少し微笑むと先を読み始めた。
「ガイアはその後アリスちゃんを解放する術を求めて残りの人生全てを費やし世界を旅したそうです」
「な……なんとガイアが……」
ラセンはそれを知らなかったらしい。
「ガイアはアリスを封印した事をそれほどまでに悔やんでいたんだな……」
俺は前までガイアがどんな人物なのか知らなかった。でも、ウェンディやラセンから聞いた話で段々分かってくると正義感が強く、まさに英雄に相応しい男だと思った。
「ガイア……お前は諦めていなかったのじゃな……自分の人生をかけてまでレシナを救おうとしてくれたのじゃな……」
ラセンを見ると皺くちゃの顔を涙が次々と伝っていた。
「あやつとの最後の会話を今でも覚えておる……ガイアは言った。魔族が人間を滅ぼさないように計らってくれないかとな。当時あった魔族と人間のいざこざを知っていたのだ。代わりに俺はアロントの意志を引き継ぐと続けて去っていったのだ」
「それを約束通り実行していたんだな……」
ガイア……なんて凄い男なのだろうか。
「私、ガイアの子孫って事にそこまで誇りを持って無かったけど今の話を聞いて考えを改めるわ」
エニィは石碑に向かってそう話した。
「そして長い旅の末とうとうその方法を見つけた……と」
「なんだって……」
俺はウェンディの言葉を聞いてここに来れた事を心から感謝した。希望の光がここにあったのだ。