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84話

 教皇から発せられた言葉は起きて欲しくなかった事そのものだった。


「先程入った情報だ。ランド王国の近くでモンスターが大量発生したらしい……」


 ついに来てしまった……アリスがとうとう行動を起こしたのだ。


「すぐに向かいます。恐らく禁断の洞窟のモンスターが外に出てしまったんです」


「な、なんだと……」


 俺の言葉に顔が青ざめていく教皇。きっとそれがどれだけの被害を出すか考えているに違いない。


「そうか……今は君達だけが頼りだ。宜しく頼む」


 そんなすがるような言葉を受けて部屋を出て行った。帰ると早速スキルでランド王国に向かう為に皆を集めた。


「向こうに着いたらモンスターを出来るだけ討伐して欲しい。俺は近くにアリスが居ないか探すつもりだ」


「禁断の洞窟のモンスターっていっても今の私達なら余裕ね」


 エニィは頼もしい事を言ってくれる。


「わしも行くぞ」


 ラセンも来てくれるなら心強い。


「皆んな掴まってくれ!」 


 皆んなが俺に触れたのを確認すると俺はあの懐かしい場所を思い浮かべた。



 目の前に広がったのは俺とアイナが野宿していたカーネリアの街外れの場所。


「ここって……」


「ああ、ここが一番記憶に残った場所だった……」


 アイナの声に俺は答えた。


「ふふ、私と同じね」


 俺は第二の故郷といえるカーネリアの街を前に感傷的になっていた。5年もの歳月を過ごしていた思い出が頭に甦る。


 しかしそれは街から聞こえる悲鳴と轟音によってかき消された。


「皆んな行こう! 街からモンスターを追い出す!」




 カーネリアの街は騒然となっていた。あるひとりの女冒険者は突如街にモンスターが侵入したと聞いて仲間達と合流した。


「アルル!」


「モンスターは⁉︎」


「今高レベルの冒険者達が討伐に行った! だが、聞いた話だとかなりヤバい状況らしい……」


「どういう事?」


「そこら辺にいる雑魚モンスターじゃない、見た事もないボスモンスター級だって話だ。それも一体だけじゃない、報告だと何十体も見たときてる!」


「そんな……」


「多分俺達じゃ歯が立たない……くそ! アイナ達も居ないのにどうしろっていうんだ!」


 その時、近くで轟音が起こり、地面が揺れるとアルルはその場に座り込んだ。


「キャアー‼︎」


「な、何だこれは……」


 崩れた建物から出てくる巨大なモンスターを前にした冒険者達はあまりの迫力に体が硬直する。


「終わりだ……」


 ひとりの冒険者はその場に崩れると諦めたように呟いた。


 大きな足音を立てながら近くモンスターに次々と逃げていく冒険者達。アルルは腰が抜けると動くことが出来なかった。


「いや……来ないで……」


 モンスターの目に捉えられたアルルは真っ直ぐに向かってくる恐ろしい存在にガタガタと震え、目に涙を浮かべた。


 そして巨大なモンスターはアルルを噛み砕こうと大きな口を開けた。


 ドシュー‼︎


「ガァァァァ‼︎」


「え……」


 アルルは顔を上げると自分を守るように誰かが立っていた。その見覚えのある後ろ姿に涙が溢れる。


「大丈夫か?」


「リ、リアン……うっ、うあぁ〜!」


 アルルはその聞き心地のいい優しい声に嗚咽を漏らし、ただ大粒の涙を流していた。


 


 俺は戦場となったカーネリアの街を駆け回っていた。アリスが居ないか少しの気配も逃さず、その存在を探した。でも、アリスは姿を現さなかった。


 街のモンスターを片付けた俺達は中央広場に集まると周りには人だかりができていた。


 一目見ればその視線を釘付けにする程の美少女達に当然男達が騒ぐ。でも、一番注目を集めたのは死んだはずの俺の姿だった。


「な、何でアイツが……」


「リアン! 生きてやがったか!」


 その豪快な男の声に俺は振り返った。


「オヤジ……」


 そこに居たのは俺とアイナの恩人である武器屋の親父だった。らしくない泣きそうな顔で近づいて来るといきなり頭を下げて俺を驚かせた。


「すまん……最後に会った時お前を助けてやれなかった。様子がおかしかったのを分かっていたのによう!」


 オヤジの泣いた顔を初めて見た俺まで涙が溢れてくる。


「き、気にすんなよ……俺の方こそ馬鹿な事をしてごめんな」


 丸くなった親父の肩に手を置いてそう返すと親父は涙を拭っていつもの顔に戻った。


「ダンさん」


「アイナも元気そうだな。カミさんが会いたがっていたぞ」


「私も会いたいわ。今度落ち着いたらリアンと行くね」


「おう! にしても……いつの間にそんなに強くなりやがって! もう周りの奴らは何も言えんだろ! ざまあみろだぜ!」


 親父は周りの男達に聞こえるように大声で叫ぶとニカっとした顔で俺の肩を叩いた。


「ありがとな。こんな奴らばっかの街を救ってくれて。じゃあな!」


「まだモンスターが来るかもしれないから気をつけろよ!」


「は! 俺はお前とアイナの子供を抱くまで死なんと決めてんだ!」

 

 親父が豪快な笑いを響かせて去っていくとアイナと微笑して頷き合い、皆の元に戻る。そこではアリスがどこにいるのか話しているようだった。


「アリスは一体何処に……」


「ランド王国を襲うかもしれないですね……」


 エニィとマーナは互いに考える仕草をしながら呟いている。


「先程来たランド王国からの応援に訊いたのですが特に何もないそうです」


 ウェンディがマーナの呟きにそう答える。


「もしや……」


 ラセンは何かに気付いたようだ。


「何だ? 心当たりがあるのか?」


「この大陸でレシナの洞窟に次ぐ有名な洞窟はどこじゃ?」


 俺の問いにラセンが訊いてくる。


「そうですね……やっぱりまだ攻略されていない深淵の洞窟じゃ……」


 それに答えたウェンディはラセンが何を言いたいのか理解したように言葉を止めると他の皆もハッとなって顔を見合わせる。


「まさか……」


「行きましょう!」


 今にでも動こうとするエニィとアイナを俺は手で制する。


「二手に別れよう……深淵のダンジョンに詳しい俺とアイナとウェンディが行くから他の皆は街の外にいるモンスターをなるべく討伐してくれ。もしもアリスが現れたら戦わなくていい。なんとかやり過ごしてくれ」


「分かったわ。アイナ、ウェンディ。リアンを宜しくね」


「うん、無理はさせないわ」


「もうリアンさんをあんな目に合わせません!」


 話が終わると早速俺達3人は行き慣れた場所である深淵のダンジョンに向かった。


 

 

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