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81話

 アイナが言ったあの時……それは俺は人生の中で一番後悔したと言ってもいい出来事だった。ふと周りを見るとアイナ以外の視線が俺に集まっている。その目は話して欲しいと言っているようだ。俺は胸に少し痛みを感じながらもあの話をすることにした。


「3年前……あれはまだ年が始まったばかりの頃だったな……」


 まだ冒険者になって一年が過ぎ俺達が深淵のダンジョンに慣れてきた時、好奇心旺盛だった俺は情報屋から聞いた隠し部屋の噂に取り憑かれていた。その部屋があるとされた階層はまだ俺やアイナには危ない領域だったがまだガキだった俺の抑えきれない好奇心は不安がるアイナを半ば強引に連れて行ってしまった。その結果手強いモンスターに出会し逃げる途中でアイナと逸れてしまったのだ。俺は近くにいたパーティに泣きついて助けを求めアイナを探し回った。数時間後に見たのは気を失って倒れているアイナの姿だった……俺の心は後悔の念に押しつぶされそうだった。後少しでも遅れていたらと考えると自分を責めずにはいられなかった。


 俺は話を終えると俯くアイナに謝った。


「アイナ、あの時は本当に悪かった……」


「いいって言ったでしょ? 付いて行った私も行けなかったの。不安だったけど内心少し刺激が欲しかったのかもしれない……で、その時の記憶がなかったんだけど最近少しずつ思い出してきたの」


 アイナは俺の謝罪にかすかに微笑んで返すと俺と逸れた後の事を話してくれた。


「あの時……リアンと離れ離れになってから必死になって走った……そしたら突然横から飛び出してきたモンスターに攻撃を受けちゃって、何とか振り切ろうとしたけど傷が思ったよりも深くて目の前にあった穴に飛び込んだの。穴の先にはお墓みたいな石碑があって、そこで気を失った……そしたらね声が聞こえたの。声がなんて言ってたかは分からなかったけど私怖くて死にたくない助けてってずっと言ってた……それで意識が無くなって気が付いたらベッドの上にいた……」


「あの、私……お祖父様から聞いたことがあるんです」


 アイナの話が終わると皆黙っていたがその沈黙を破るようにウェンディが何かを思い出したのか口を開いた。


「ダンジョンには守護者がいるって」


「守護者?」


 俺がウェンディに聞くとウェンディは少し頷いて続きを話し始めた。


「はい、何でも世界の4大陸にはひとつずつ火、雷、水、風の守護者がいるダンジョンがあるそうです」


「じゃあ深淵のダンジョンに雷の守護者がいたってこと?」


 アイナがウェンディに確認するとウェンディは「恐らく……」と返してから思わぬ方向に話を続けた。


「それで思ったんですけどアリスちゃんも加護を受けていたんじゃないかと……」


「あ‼︎ 確かにそうだ! アリスって水の魔法が得意だって言ってたぞ!」


 セラニがウェンディの話が終わる前にハッとなって大きな声で叫んだ。


 ウェンディの説を聞いて俺も納得できた。最後にアリスから受けたのは水のスキルだった……俺の体を貫いた黒いオーラを纏う氷の剣は間違いなく水スキルだった。


「じゃあさっきまで潜ってたダンジョンに水の守護者が……」


「その可能性は高いと思います」


 アイナの言葉にウェンディが確信したかのように自信に満ちた表情で答えた。


「待って下さい! じゃあリアン様の炎も加護の力なんじゃ……」


 今度はマーナが大きな声を発すると皆が一斉に俺を見た。皆目を大きくして驚いているようだった。


「確かにそうだわ! 何で気付かなかったんだろう……」


 エニィは大きく頷いてみせた。


「アロントさんが加護を受けてそれをリアンが受け継いだってことかしら……」


 エニィが考察を始めると俺はそろそろ休憩をしたくなったので話を終わらせようと思い皆に屋敷へ入るよう促した。加護の話については推測の域でしかないからだ。


「多分そうだと思うけど考えてもしょうがないよ。さ、家に入ろう……お腹すいたよ」


「そうだな! 俺も話に夢中だったから腹が減ってたの忘れてたよ!」


 セラニも俺の提案に乗ってくれたのでそのままの勢いで屋敷に入って行った。皆それを見て付いてくる。


 俺達は屋敷で思う存分寛いで疲れを癒した。セラニのおかげで屋敷が建ち他にも倉庫や鍛冶場に訓練場も完成した。いつの間にかここはもう安心して休める居心地のいい場所となっていた。


 大きなベッドの上で皆で横になると灯りを消した。しばらく薄暗い部屋に沈黙が流れたが横からエニィの声が聞こえてくる。


「アリスを助ける方法見つかるかな……」


 その不安そうな声に俺はできるだけ前向きな答えを返そうと口を開いた。


「大丈夫……明日その方法が分かるはずだ。もしも明日分からなくても世界の果てに行ってでも探し出してやる。俺は絶対に諦めない……」


 最後は自分に言い聞かせるような言葉だったがエニィは小さく「うん……」と言った。


 皆それを聞いて安心したのか次第に寝息があちこちで聞こえ始めた。その安らかな寝息につられ次第に意識が薄れていった。


 目覚めのいい朝だった。


 俺は目を覚ますと隣にはウェンディが普段の澄ました顔とは対象的に幼い少女のような可愛い寝顔で寝ていた。起き上がって周りを見渡すとセラニがベッドの端まで移動して気持ちよさそうに寝ていて他のメンバーはいなかった。


 いつもアイナは朝練にエニィとマーナは朝ご飯を作りに早く起きているのだ。


「ふっ」


 俺はいつもの朝の光景に口元が緩んだ。

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