80話
「な、何なのここ……」
俺達は言葉を失った。そこは壁びっしりに本棚が並び真ん中の机には何かを入れる容器が置かれて洞窟の中とは思えない部屋となっていた。
「さっきの話が本当の事だったって言うのがこれで分かったわね……」
「じゃあここが話で出てきた変態男の研究所ってことか!」
セラニの言葉に皆も頷く。
「部屋を調べよう、何か手がかりがあるはずだ」
俺の言葉を聞いたエニィ達は散らばって部屋を調べ始めた。
「本に何が書いてあるのか分からないわ。絵からしておぞましい内容みたいだけど……」
エニィは本をペラペラとめくりながら話した。
「この液体の数々も分かりませんね……怖くて触れないです」
ウェンディも机に並べてある容器に入った液体を怖そうに眺めていた。
「ではこれらを回収してラスターに調べさせよう。あやつは魔法に詳しくてな城の魔法研究所トップの実力を持っておる」
「分かった。じゃあ皆で手分けして異空間に持っていくぞ」
それから部屋の物を全て回収するとスキルで洞窟を脱出したのであった。
「良かったな、ここを登録しておいて」
俺のスキルで魔族の城が見渡せる丘に着くとすでに空は暗く辺りは闇に覆われていた。そこから見える城は灯りが灯り朝見た景色とはまた違った美しいものだった。
俺はその景色を見ながらこれからどうするか考えているとラセンが近づいてきた。
「ワシはこれから城に帰りラスターに話してくるぞ」
「分かった。俺達はアリスが住んでた屋敷前の広場にいるから明日の朝でも迎えに来てくれ」
「すまんな……本当は城に招待したいところだがレシナが復活した事で今頃城では大騒ぎになっているはず……そこへ人間を呼び込んでは混乱を拡大させてしまうからのう」
ラセンはすまなそうな顔で去っていくと俺達は屋敷がある場所に移動していった。
「異空間発動!」
念の為異空間に誤ってモンスターや魔族が入って来れないように入り口に目隠しをして中に入った。
「あ〜〜〜今日は動いたわ!」
異空間の屋敷を見てホッとしたのかエニィはそう言って大きく伸びをした。
「そうですね。でもおかげでレベルが凄く上がったんです!」
ウェンディは嬉しそうに俺に話しかけた。
「信じられないわ……私もこんなにレベルが上がるなんて」
アイナもその話に入ると俺は皆のレベルが気になり始めた。
「皆んなレベルは幾つになったんだ?」
俺は一人ずつレベルを聞いていくとエニィ350、セラニ310、マーナ302、ウェンディ280、そして最後に聞いたアイナに至っては360と一番最後に加わったはずのアイナが一番レベルが上だったのだ。
「アイナすげえな! 一瞬で抜かされた!」
「流石勇者ってところかしらね」
「アイナさんって何か特別な力でもあるんですかね?」
「私もよく分からないの……いつも不思議に思ってるんだけどね」
皆アイナのレベルの異常な上がりを疑問に思い考えていると本人も首をかしげていた。そんなアイナに俺は能力板を見せた。
「これなんだけどギルドカードよりも詳しく能力が分かるんだ。試してみるか?」
俺が差し出した金属板を手に持ったアイナはそれをジッと見つめていた。
「開けと言えばそこに文字が浮かび上がってくるんだ」
「分かったわ……何か緊張するわ……開け!」
アイナは意を決するように言うと浮かび上がる文字を読んでいた。板に視線を這わせている。
「これって……」
アイナは次第に表情を驚きに変えて呟いた。俺は昔からどうしても気になっていた事だったのもあり思わずアイナに話しかけた。
「何か分かったのか⁉︎」
つい声を大きくして聞いたのでアイナが少し驚いて俺を見た。
「あ……ご、ごめん。俺も昔から気になっててさ……」
頭を掻きながら謝るとアイナは微笑んで板を俺に渡した。
「いいのか?」
「当たり前でしょ? リアンに隠し事なんてしたくないもん」
「ありがとうアイナ」
そして俺は板に浮かぶ文字を読んでいった。
「これは……どう言う事なんだ……」
俺は特殊能力に浮かぶ文字を見て一瞬時が止まってしまったように動けなかった。
剛雷の加護
これがアイナに隠された能力か……そういえばいつからかアイナは突然雷スキルが使えるようになったと言っていたな。
「雷かぁ〜いつこんな能力を身につけたんだ?」
セラニの声が聞こえたと思ったらいつの間にかエニィ達が俺を囲んで持っていた能力板を覗き込んでいた。
「うーん……」
アイナは顎に手を当て目を瞑って考え込む。
「もしかしたら……」
「心当たりでもあるのか?」
俺の言葉にアイナは頷くと少し間を開けて話始めた。
「私のレベルが異様な速さで上がっていったのって14歳になってからだったと思う」
「俺も覚えてる。その年に同じレベルだったはずが年が終わる頃には倍以上に離されたからな」
あの時は本当に焦った……その頃からだったな、内緒で夜にレベル上げを始めたのは。
「リアン覚えてる? まだふたりだけで深淵ダンジョンに行ってて途中で逸れた時があったじゃない?」
それは俺の中でも思い出したくない出来事のひとつだった。