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第79話

 アリスが豹変した原因を探るべくダンジョンを進む俺達にモンスターは容赦なく襲いかかってくる。それを皆で蹴散らしながら進んでいきすでに数時間が経っていた。


「結構奥に来ていると思うけど洞窟の中があんまり変わらない景色だからよく分からなくなるわ」


「この洞窟はまだ攻略されていないからのう……階を降りるごとに目印をしているから今の階は分かっとるんじゃが」


 通路を歩く俺にエニィが話しかけると俺の代わりにラセンが口を開いた。


「今何階なんだ?」


「12階じゃ……そういえば昔アロントからレシナがおかしくなったのは20階に降りたところだったと言っておったな」


「じゃあ目指すは20階ね」


「そういえばお主アロントのスキルを使っておったな。最初見た時は驚いたぞ」


 俺は覚醒した後能力板を確認した。そこに記されていた特殊能力欄の呪縛状態が消え、代わりに「蒼炎の加護」となっていて驚いたのだがそれだけではなかった。スキルの欄を見ると覚えのないスキルが5つ追加されていたのだ。


「しかしお主の太刀筋はまだまだ鍛えれば威力が上がり隙もない強力なものになるぞ?」


「少し前までは普通の冒険者だったからな、急激なレベルアップで体がついていけないんだ」


「時間があったら鍛えてやろう、お主にはレシナを止めて貰わねばならんからな」


 


「このダンジョンに入ってからここまで来て分かったけどアリスが何であんなにダンジョンに詳しくて強かったのかよく分かったわ」


 15階を過ぎた所でエニィが納得した様子で口を開いた。


 俺もそう思った。これまでアリスがダンジョンの隠し部屋を知っていたのもあんなに強かったのもここで培ったものだったのだ。


「ああ、人間なら一階で全滅してるよ。そんな高難易度のダンジョンに毎日来ていたんだな……しかもふたりだけで……」


 エニィの言葉に頷いて答えた。


「入り口で見たふたりの会話……アリスちゃんは外に出たかったんでしょうね……」


 マーナの言う通り入り口の会話ではここを攻略すれば外に出られるとアリスは言っていた……でもアロントは悲しそうな顔でその言葉に対して何もいえなかった様に見えた。恐らく魔王がふたりを外に出せず思わずついた嘘なのだろう……アロントはそれに気付いていたのかもしれない。


「アロントとレシナはこの洞窟に通う内に力をつけた。特にレシナは当時最強クラスと言われていたワシでさえ超える力を身につけていったのじゃ」


 そして目的地である地下20階へやってきた。そこは今までと変わり映えのない景色だったが禍々しい雰囲気は明らかに今までとは違い寒気を感じた。


「アロントの話ではこの階がふたりが降りた中で最深部と言っておった……レシナの身に何があったのか調べよう」


 ラセンに付いて歩いていると突然俺の体から青い霧が出ていった。


 そこに映し出されたのはアロントだけだった。アリスと逸れたのか必死にアリスの名を呼びかけていた。


 レシナ! 何処だ!


 ……お兄ちゃん……


 そこへアリスがフラフラと歩きながら現れた。


レシナ……どうしたんだ?


 何で私達だけこんな所で暮らさなきゃいけないの……


 何だよいきなり……


 私達は生まれてきちゃいけない子だったの?


 そんな事はないよ……そのうちお父様が何とかしてくれるはずだ


 嘘よ……ふふふ


 レシナ?


 アリスの目は正気を失い無表情の顔はゾッとさせるものだった。


 私達を受け入れないなら全部壊しちゃおうよ! いつまでもここにいてもつまんないじゃない?


 な、何を言ってるんだ……


こんな世界いらないわ! この力で好き放題しちゃおうよ‼︎


 やめるんだレシナ!


 邪魔するの? じゃあお兄ちゃんも敵ね……


レシナ⁉︎ ぐあ⁉︎


 アリスの手から魔法が躊躇なく放たれるとアロントの周りで爆発が起きた。



 そこで霧が晴れると俺達は突然の出来事に言葉を失いしばらく無言になっていた。


「アリスに何かがあったのは確かね……」


 エニィはそう言って考えるように黙りこんでしまった。


「……奥に行こう」


 俺の言葉で皆の足は再び歩き出しアリスの変貌ぶりに困惑しながら奥へと進んでいった。


「⁉︎ ……これは⁉︎」


 俺達が見たのはダンジョンで初めて見る人工物と思われる祭壇だった。黒一色の岩で造られおりそれが怖さを増長していた。


「なんなのここは……凄い寒気がする……」


「ああ、早くここから出たい気分だぜ」


 エニィとセラニは身を震わせながら言葉を発した。


「……ワシがレシナを追って旅をしている時ダーラからある話を聞いた……」

 

 ラセンが突然話し始めると俺達は黙って話の続きを待った。


「ダーラは豊富な知識を持ち様々な古書を読んでいて歴史に詳しくてな。その中でこの洞窟で起きた凄惨な事件を話していた……」


「この洞窟で? どんな事件だったの?」


「ダーラによると今から数千年前この洞窟にひとりの男が住み着いていたそうじゃ、怪しげな魔法を研究していて他の者は気味が悪く近寄らなかったそうじゃ。それから何年かが過ぎた頃魔族の間で失踪事件が散発するようになった。次第に不安の声が大きくなり当時の王が事件の解決に乗り出し調査が始まった。調査は難航し諦めが見えたとき王の元にある情報がもたらされたのじゃ。失踪したひとりがこの洞窟に入っていくのを見たとな」


 ラセンはそこまで話すと一息入れ、少し間を開けると険しい表情に変わり続きを話し始めた。


「王は少数の精鋭部隊を編成して洞窟に送り込んだのじゃ……洞窟の先では変わり果てた同胞の亡骸が散乱していたそうじゃ……部隊は更に奥で男を発見した。捕まえようとしたが男は激しく抵抗して逃げたが結局最後は追い詰められ男は自ら死んでいったそうじゃ。その後の調べで男は魔族を研究の実験体としてさらったり洞窟に来た者を捕らえて使っていたと分かった」


「とんだ悪党だな……狂ってる……」


「その後男の亡骸をこの洞窟に埋め被害者の慰霊を建てて事件は終わった。それからは誰も近づかないうちにモンスターが住み着くようになったとダーラは話していたが最後にこう続けた……もしかしたら男は死んでいなかったのではないかと……」


「何か怖いわね……」


 そう呟くアイナの顔色は青ざめていた。


「じゃあその男がアリスに乗り移ったと?」


 エニィの問いにラセンは頷く。


「あくまで推測じゃ、実際男が何の研究をしていたのかも分かっておらんしな」


「まあロクでもない事だとは思うが」


 祭壇のある部屋を調べてみたが先に行く階段が見つからなかった。


「階段がないわ、ここが最下部って事?」


 一旦集まった所でアイナが言った。


「みたいだな、帰るか?」


 そう俺が言った時だった。体から青い炎が出ていくとある場所に移動していった。


「なんだ?」


「アロントが導いているのか?……」


「行ってみましょう!」


 急いで炎が移動した壁に行くと俺は辺りを調べ始めた。


 ガコ!


「あった!」


 まるで勇者の装備が眠るダンジョンにあった隠し部屋に繋がる扉のように何もない壁から扉を発見した。重い音を立てて開くと階段が姿を現した。


「用心して進むぞ」


 ラセンはいつもの通り先に階段を降りていったので俺達も息を潜めて後に続いた。


 しかし通路を歩いていてもモンスターの気配はなく俺達の足音だけが鳴り響いていた。


「さっきの話を聞いた後だから今凄く怖いわ……」


 アイナは手を体に回して震えていた。


「そうね……この先に何があるのか……緊張してきたわ」


 エニィも表情を固くして歩いていた。


「あ! 扉があります!」


 ウェンディが指を差すと確かに頑丈そうな扉が俺達の進行を阻んでいた。


 ギギギィ……


「開いてる……」


 錆びついた扉は悲鳴をあげるように少しずつ開いていった。


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