78話
「そうか……アロントが……」
俺はラセンに禁断の洞窟で起こった出来事を聞かせた。死にかけた俺にアロントが現れて力を託した事を。
「アロントはレシナを封印する際に命を落としたのじゃ……あれからあやつの魂はあの洞窟を彷徨っていたのじゃな……」
「俺はアロントの思いに応えたい、アリスを救いたいんだ」
「ふっ、不思議なものじゃな……お主の目がアロントがしていた目と似ておる。あやつは最後までレシナを封印する事に反対していた。だが時間がそれを許さなかった……悪化していく状況にそうも言っていられなくなっていたのじゃ」
ラセンは悔しそうな表情で話を終えると俺を見て小さく頷いた。
「きっとアロントの魂はお主に何かを感じて引き寄せられたのじゃろう……それにその白銀の装備はガイアのものじゃな?」
「やっぱりそうだったのか……」
「ガイアもアロントの思いに心を打たれたのか必死にレシナを救う方法を模索していた。だからレシナを封印した後あやつは嘆いていた。もっと他に方法があったんじゃないかと……」
「もしかしたらガイアは今の状況になるのを想定してたんだと思うんです」
ウェンディがそう話を始めると俺は気になって話を促した。
「どう言う事だ?」
「ガイアはいつかアリスちゃんが復活してまた世界を壊し始めるのを予感していたと思うんです。その証拠にガイアグラスをはじめ各国には避難する為の巨大な地下空間が存在します。きっと1000前の教訓を生かしたものだと思うんです」
「初めて聞いたな、そんな場所があったなんて」
「それに各国に勇者装備をあのようなダンジョンまで作って置いておいたのもきっと……」
「確かにこの時の為と言ってもおかしくはないな」
歩きながら会話をしていると前を歩くラセンが立ち止まった。何かを探っている。
「待て……ここからはモンスターの巣窟じゃ」
「あ、そうだ! アイナの装備が出来てるんだった! リアン! 異空間出してくれよ!」
セラニは突然そう言うと俺に異空間をせがんだ。
俺はいつの間にと思いながら異空間を出すとセラニはいそいそと中に消えて行くとすぐに装備を抱えて白い輪から出てきた。
「ほら! お望み通りの強化しておいたぜ!」
アイナは受け取った勇者の装備を身に纏うとその効果に驚いているようだった。
「す、凄い……前の装備とは全然違う……ありがとうセラニ」
「おう! 間に合ってよかったぜ!」
そうして俺達は自分の装備を完了するとラセンに目で合図した。
「魔族でも近づかない場所じゃ、モンスターは強者揃いだぞ! 覚悟して進めい!」
ラセンも黒い剣を持つと目つきが鋭くなっていた。完全に戦闘モードに変わっている。
バァン!
奥からは微かにモンスターだろうか唸り声が聞こえてくる。
中を進む7人のゾロゾロと歩く音が反響しそれ以外音がしない状況が続いたが確実にモンスターとの距離は縮んでいた。モンスターの気配が濃く感じてくると嫌でも剣を握る手に力が入る。
「来るぞ‼︎」
ラセンの言葉に反応したのか現れたモンスターは見たことの無い奴だった。全身が岩のような物体がゴゴゴと音を立てて起き上がると同時にそこら中の岩も動き出した。数はざっと20はいた。
「ウェンディ! 魔法を!」
「はい!」
パァ!
ウェンディの補助魔法で強化された俺達はモンスターに向かっていった。
「飛翔強撃!」
マーナは洞窟の天井まで駆け上がるとそこから天井を蹴り一瞬でモンスターに到達すると槍で突撃して粉々に破壊した。
「破壊の10連撃!」
エニィの放つオーラを纏った1本の弓は10発の弓に分かれるとモンスターが身に纏う硬い岩を砕いていく。
「破砕の一撃だ!」
セラニのスキルで巨大化した武器で振り下ろされた一撃で数体のモンスターは岩が砕ける音を立てて押し潰されていく。
「雷光剣‼︎」
アイナの剣から稲妻が放たれモンスターに直撃すると岩を破壊して無防備になったモンスターの体を切り裂く。
ラセンも剣士の血が疼いたのか老人とは思えない素早い動きでモンスターを翻弄して岩ごと体を真っ二つにしていた。
俺はサポートに回ろうと皆の動きを見ていたがその必要は無かった。その圧倒的な戦闘を見て安心すらしていたのだった。
戦闘時間僅かに数分の出来事だった。モンスターを殲滅すると皆は俺の元に集まってくる。
「皆んな凄いよ、俺の出る幕もなかったな」
皆に労いの言葉をかけるとアイナはひとり戸惑う表情をしていた。
「アイナどうしたんだ?」
「え……この前レベルアップしたんだけど今確認したらレベルが……凄く上がってるの」
アイナはギルドカードを少し震えた手で俺に見せた。
俺が確認するとレベルは152となっていた……まあ驚くよな。
「そういえばアイナに言ってなかったわね、リアンとパーティを組む私達はレベルが上がるのが凄く早いのよ!」
エニィの言葉に俺は少し引っ掛かった。私達って言ったよな今……。
「私達ってどう言う事?」
俺の疑問をアイナが代弁するとエニィは少し顔を赤らめていた。
「ま、まあリアンとそういう関係になった私達って事よ」
「そういう関係って?」
アイナはまだ理解できてない様子を見たマーナがアイナの耳元で囁いた。
ゴニョゴニョ
アイナは顔が赤くなっていくと俺から目を逸らした。
「当たってるでしょリアン?」
エニィが微笑むのを見て俺はやっと言いたいことが理解できた。
それは俺が隠していた秘密の事だった。俺と交わった者がパーティを組むとレベルが異様にはやく上がる事。以前それを確信した俺は心に留めておこうと胸にしまっていたのだがエニィはそれに気付いていたようだ俺の焦る表情を見たエニィはふふっと微笑み確信したように笑った。
まあいつかはバレると思っていた俺はエニィに観念したと微笑み返した。
そしてギルドカードを出してレベルを確認すると105になっていた。
実は先日死の淵から蘇った俺のレベルは1になっていたのだった。最初はかなり焦っていてまたやり直しかよ! と嘆いていたのだがなんと強さはそのままだった。スキルも普通に使えるし何も変わっていなかった。
「よし……俺も上がってる」
「リアンってレベルが限界を突破したって事だよね?」
俺の安心した様子を見ていたエニィが話しかけてくると頷いた。
「ああ、多分人間の限界はレベル500なんだ。俺はそこから一切上がらなくなったんだけどあの時……一度死にかけた時アロントが言ったんだ。覚醒の時だって」
「じゃあその覚醒っていうのが限界を超えてまたレベルが上がるようになったって事なのかな?」
「分かりやすく言うとレベル500の強さでまたレベル1から始められるって事だと思う」
「じゃあもっと強くなれるのねリアンは」
「ああ、強くなればそれだけアリスを止めれれる可能性が高くなるんだ。これからここで沢山モンスターを倒してレベルを上げて行こう」
俺達は更に奥へアリスが昔辿った道を歩いていった。