77話
俺とアイナが一緒に異空間を出ると皆がニヤニヤしながら俺達を迎えた。
「おはようリアン、よく眠れた?」
エニィが分かったような顔で俺に声をかける。
「……またエニィの策略にハマった気がするけど」
「リアンさんは周りに気を遣ってあんまり自分からしたい事を言わないじゃないですか! だから私達で話し合ったんです!」
ウェンディにそう言われ周りの皆も頷いている。
「まあ5人も婚約者がそばにいるんじゃリアンも気遣い過ぎて疲れそうだからな!」
セラニは笑いながら話す。
「リアン様はそんな事を気にしなくていいんですよ。私達は愛されてると感じていますから」
マーナは笑顔で俺にそう言ってくれた。
「ありがとう皆んな、そう言ってくれると気が軽くなったよ」
そして準備を終えた俺達はとラセンとラスターが待つ部屋へと向かった。
「準備はいいな?」
「ああ、行こう」
俺達は真ん中に立つラスターを囲む。
「では行きますよ魔族の大陸に……」
ラスターがそう言った瞬間光に包まれ体が浮いた。
次の瞬間漆黒の森が視界に広がっていた。聞いたことの無い動物の鳴き声や見たことの無い植物がここを別の大陸なのだと認識させた。
「ようこそ魔族の大陸ライレーゼへ」
ラスターは周囲を珍しそうに見回している俺達にそう言った。
「ここが……魔族の大陸……」
「今いる場所はちょうど魔族の城とレシナが住んでいた屋敷の間にある谷じゃな」
ラセンはそう説明すると俺達をある場所に連れていった。
ゴォーーー‼︎
物凄い高さの滝が落ちる絶景ともいえる場所だった。
「ホレ、あれが魔族の城じゃ」
ラセンの視線の先にはホーネス王国で見た白い城を更に大きくし色を黒に染めたようなガイアグラスと同等の立派な建物だった。
「ラスターよお前は城に帰り全てを報告してくるのだ。レシナがまたここに来るやもしれん……早急に対策を練るようにな」
「分かりました、お祖父様お気をつけて……」
ラスターは一緒に行くつもりだったのか少し残念な顔をしたがすぐに表情をいつもの無表情に変えてこの場を立ち去っていった。
「ではついて参れ」
しばらくラセンに付いて歩いていると視界の先に家の屋根が木々の間から姿を見せた。
更に歩き着いた先の大きな屋敷はもう誰も住んでいないのが分かるくらい今にも崩れ落ちそうな程朽ちていた。
「ここに来るのはあの時以来じゃな……ここがアロントとレシナが生まれ育った屋敷じゃ……」
ラセンは当時を思い出したのか表情を暗く落として懐かしむように眺めて言った。
俺がその屋敷を見ていると皆の視線が俺に集まっている事に気がついた。
「リアンの体が青く光ってる……」
「え?」
その時俺の体から青いモヤモヤした霧のようなものが出ていくと屋敷の前に集まっていった。
「え⁉︎」
青い霧はそこに4人の人物を映し出していた。
ひとりは豪華な装飾が施された服を着た魔族の男、隣には40歳くらいの人間の女性、その女性に手を引かれるふたりの子供……男の子ともう一人の女の子の姿はアリスそのものだった。
4人は楽しそうに話している。
俺達はその光景が消えるまで幸せそうな家族をじっと見ていた。
そのうち青い霧は晴れ元の朽ちた屋敷に変わると俺は息をしないで見入っていた事に気付いた。大きく息を吸うと今見た光景に心が苦しくなっていた。
「やっぱりアリスだったのね……」
エニィは悲しげな表情をしてそう言った。
「この頃はまだパーラが生きていたから家族で幸せに暮らせていたんじゃ……しかし魔族と人間は寿命があまりにも違いすぎてな、パーラが老いていくのが早いのをアロントとレシナも気付いていたのじゃろう……年を重ねるほどパーラと一緒にいられる時間が少ないと感じていたふたりの表情は次第に暗くなっていた」
「お母さんとの別れがまだ子供だとしたら辛いですね……」
「しかも周りに頼れる人がいないならもっとね……」
ウェンディが悲しそうな顔で話すとアイナも過去の体験からか表情は辛そうだった。
ラセンは悲しむ俺達に「先を急ぐぞ」と言うと歩いていってしまった。
屋敷から更に奥へと進むと大きな岩でできた山が見えた。その入り口には禁断の洞窟にあったような柵が建てられていた。
「昔と変わらずここは誰も近寄らない洞窟じゃ……ついて参れ」
ラセンは柵に掛かった鍵を開けて中に入っていくと俺達も後を追っていった。
洞窟内は暗く通路には火種が配置されている。それにラセンが火を着けながら先頭を歩いていった。
やがて洞窟の広い部屋に出るとまた俺の体から青い霧が出てある光景を映し出した。
お兄ちゃん! はやく行こう!
レシナ落ち着けって!
先程屋敷で見た時より大きくなったアリスの姿、それにもうひとりは間違いない、俺に力を託した若い男だった……。
あの若い男がアロントだったのか……だからアリスの事を俺に……。
ふたりは歩きながら話をしている。
この洞窟の一番下に行く事ができれば私達外に出てもいいんでしょ? 他の人達が私達を認めてくれるってお父さんが言ってたよ!
……
アロントは何も答えず俯いていた。
フッ
そこで霧は消えていった。
「エルド王子は悩んでいた……パーラがいなくなってから寂しいのかいつにも増して外の世界に出たがるふたりをどうしたらいいのか……」
ラセンはその光景を辛そうな顔で見ていた。