73話
リアンの顔を見た時嬉しかったと同時に後ろめたさで目を直視する事が出来なかった。
あんな事をした私がリアンとまた一緒にいるなんて許されるわけない……。
私はリアンが寝ていた宿屋を出ると裏手にある森を抜けて海が見える丘に座っていた。日がそろそろ沈む時間で風は少し肌寒く空は綺麗な黄昏時を迎えていた。
そんな絶景と言える風景をただ見つめていると誰かの気配を感じた。泣き腫らした顔を見られたくない私は振り向く事が出来なかった。
「アイナ……」
いつぶりだろうか……永遠に聞くことができないと思っていたリアンから発せられた自分の名前を聞いて目から溢れ出る涙を止める事が出来なかった。
「……私はあなたを何も分かってなかった……私の弱さがあなたを死ぬ程辛い目に合わせたの! ごめんなさい……」
リアンが生きていたとはいえ死んでもおかしくない状況に私は追い込んだ……謝っても許される事じゃないのは分かってる。私は何を言われても受け止めようと覚悟をした。
「それは俺も同じだよ……アイナの想いも分からないで……アイナの様子がおかしかったのも気付かずに死に走ってしまったんだ……ごめん」
何でリアンが謝るの? 私が悪いのに。
「聞いてくれ、アイナは魔族によって俺を失うという夢を見せられ人質を取られるような弱みを突かれたんだ。だからそうならない未来にしようとアイナは動いた。俺は後でそれを知ってから自分を責めた。何故アイナの異変に気づかなかったのか? 何故もっとはやくアイナの気持ちを察してあげられなかったんだって……」
「でも私は自分が許せない、あなたと一緒にいる資格はないの……だから」
「アイナ、俺はアイナが人をモンスターから救いたいって言った時一緒にいるって誓った」
覚えてるわ……だって涙が出るほど嬉しかったから。
「俺はアイナが勇者の装備を取りに行った洞窟でも一緒にいたよ……」
リアンが眠りについている時それをエニィさんから聞いていた。いつも側で見ていてくれていて時には陰で私を助けてくれた。それを聞いた時どれほど嬉しかったか涙が止まらなかった。
「うっ……」
言葉が出てこないくらいに色々な思いと感情がごちゃ混ぜになって下を向いてただ泣くことしかできなかった。
リアンがゆっくりと近づいてくる……。
「俺はアイナがいたからここまで来れたんだ。離れ離れになってからもやっぱり俺にはアイナが必要なんだって気付いた……」
私は思わず振り返っていた。そこにはリアンの少し微笑む顔が私を優しい目で見ていた。
「アイナが好きだ」
私は勢いよく立ち上がるとリアンに飛びついた。リアンは震える私の体をしっかりと受け止めて優しく抱き締めてくれた。
「私もあなたが好き……もう離れたくない!」
リアン胸の中で私は本音を叫んだ。私の頭を優しく撫でてくれるリアンに涙が溢れる。
「ああ、ずっと一緒にいよう……」
「うわぁぁ!」
リアンの前で初めて私は心の底から大きな声で泣いた。
私はいつの頃からかリアンに自分の想いを隠すようになっていた。いつも側にいてくれているのが当たり前になっていてリアンは私から離れないと当然のように思っていたのかもしれない。でも一度離れて分かった、そんなのはただの思い上がりだって。
胸に溜まった多くの物が吐き出されていく気がした……私はもうリアンには隠さない、全てをさらけ出すと誓った。
辺りが暗くなり空に光る星をリアンと並んで座り眺めていた。
「アイナ……あの俺さ、婚約者がいて……」
リアンは空を見上げる私に気まずそうな様子で話しかける。
「うん……聞いたわ……もう! 少し離れている間に4人もいるなんて驚いたわ」
「皆んな俺にはもったいくらい素晴らしい女性なんだ」
リアンは昔からレベルの低さに劣等感を抱いていたから気付いていない、自分がどれだけいい男なのかを……レベルなんて関係なかったのに。
「そんな子達に愛されてるリアンも凄く魅力的だと思うわ……どれだけ私とウェンディが他の女の子を寄せ付けないように苦労したか……」
「え?」
「なんでもない!」
つい私はむくれてしまった。
「リアンが眠っている時にね色々話したの、みんな良い子だったわ」
「……俺は皆んなを幸せにしたい。アイナ……それでもよければ俺と結婚して欲しい」
答えは決まってる。私が一番夢に見てきたものだから。
「……あなたとニアル村から逃げてきた時一生懸命になって悲しむ私を励まして守ってくれた……あの時から私はあなたが好きだった……私の夢はあなたと結婚して幸せに暮らす事……他は何もいらないの」
「アイナ……」
「リアン……嬉しい……愛してるわ……」
私は自然と目を閉じてリアンに顔を向けた。
「ん……」
初めてのキスに心が満たされていくのを感じた。
もう絶対に離れない……どんな事があってもあなたを信じるから。