71話
3人の魔族の男と戦闘を始めると力、素早さ、スキルの威力が今まで戦った奴よりも格段に上だった。
それに加えて3人は何も喋らず何ひとつ表情を変える事なく俺にひたすら攻撃を仕掛けて来るので何を考えているのか全く読めずかなり苦戦していた。
シュッ!
ザシュッ!
俺の剣は3人の内の大柄な男の腕を斬ったがやはり男の表情は何事も無かったかのように変化しない、すぐに攻撃に転じていた。
……何だ? 痛みを感じないのか?
その様子を見て不気味な違和感と疑問が生じると一旦間合いを取った。
「貴様! 彼奴らにあれを使いおったな‼︎」
その時魔王がいる方で怒りに満ちた声が聞こえ視線を移すと老いた魔族の男と若い魔族の男が魔王の側に立って抗議するように迫っていた。
「使って何が悪い! 俺は自分以外は信じないのでな、裏切らない命令に忠実な部下を手に入れたまでだ! くくく、おい人間よ! お前らは弱みにつけ込まれると何もできない愚かな存在だ!」
サーフェスは3人と再び戦い始めた俺に対してそう話しかけてくる。
「何が言いたい!」
「今お前の目の前にいる男達は家族のために俺が開いた武闘大会に来たと言っていたなぁ! 死んだら家族も飢えて死んでしまうと言ってたぞ?」
顔を歪ませて笑うサーフェスの言葉は俺の心を揺さぶり始めていた。
「俺が人間を滅ぼすぞと言ったらできないなどとほざきおったからその様な戦うしかできない人形にしてやったのだ! さあお前はそんな可哀想なそいつらを殺せるのか? 魔族だから関係ないと言うなら別だがな! グハハハ!」
「く! 何て奴だ!」
「何と卑劣な…… そこまで落ちたかサーフェス‼︎」
隣にいた老人が怒りに任せて剣に手をかけていた。
何だ? 仲間割れか? これはチャンスかもしれない、この3人を何とか気絶させれば!
「お祖父様! ダメです‼︎」
隣の若い男が老人を止めようとしている。
「止めるなラスター……もはや許すことはできん!」
一触即発な場面を注視しながら俺は3人を戦闘不能にする作戦を考えていた。
「もう終わりぃ〜?」
アリスは地獄絵図となった戦場で散々暴れた後まだ物足りないように辺りを索敵した。
「あれ? ……うふふ」
アリスは大きな力を捉えると笑みを浮かべそして消えるように移動した。
そして移動した空から見た先に魔王とラセンの姿を捉えるとアリスの中で何かが囁いた……。
「くっ! 身を覚ませ! お前達には待っている家族がいるんだろ⁉︎」
俺は必死に3人に呼びかけるが効果はない。
「どうすればいいんだ……」
俺には3人を殺す事ができない、でもこのままだとこちらが危ない。迷いが攻撃を躊躇わせると段々と劣勢に立たされていた。
そんな時アリスがスーッと空から降りてくるのが目に入る。
「何だ貴様は! ……わっはっは! これはいい! アイツらの仲間だな!」
サーフェスは降りて来るアリスに気付くと大きく笑いながら近づいて行った。
「グァハハハ! コイツを殺して奴らの絶望する顔でも拝むか‼︎」
サーフェスはアリスに拳を振り上げると上から勢いよく落とした。
ドス!
「ガッ⁉︎ ゴフ!」
サーフェスの背中から氷の剣が突き出ていた。アリスの手から伸びる黒いオーラを纏った剣から血が滴り落ちる。
グググ
アリスはその小さな体からは想像できないような力でサーフェスを持ち上げた。
「ば、バカな……俺は魔王の……」
「バイバイ……」
「グギャー‼︎」
ゴゥーーー‼︎
剣から発した黒い炎にサーフェスの全身が包まれると叫び声を上げながら黒焦げになり灰となって風に消えていった。
「ま、まさか……そんな……」
アリスの声に崩れ落ちる老人は恐怖に慄いていた。それを見た若い男が慌てて駆け寄っていた。
ドサ! ドォン! ドサ!
魔王のあっけない最期を見届けると戦っていた3人の魔族の男が次々と倒れていった。
「ふぅ〜」
流石に魔族の精鋭との戦闘はかなり疲れ深く息をついた。
さすがアリスだな……これで魔族も大人しくなるだろう……。
俺はアリスを見て剣を収めると背中からエニィ達の喜ぶ声が聞こえた。
「セト! やったわね‼︎」
「さすがリーダーだぜ‼︎」
後ろを振り向くと戦いを終えた皆の笑顔が俺に近づいて来ていた。俺も皆に近づこうと歩いていった。
ドス‼︎
「がっ⁉︎」
背中からもの凄い衝撃を受けると胸に痛みが襲った……。
「キャアー‼︎」
マーナの絶叫とも言える悲鳴が戦場に響き渡る。
「セト⁉︎」
「なっ⁉︎」
カランカラン!
衝撃で付けていた仮面が俺の視界の中で地面に落ちゆらゆらと揺れてパキッとふたつに割れる。
「ゴフ!……」
口の中から大量の血が吐き出され俺の胸から黒い剣の先のような塊が突き出ていた。
「セト……私我慢できなくなっちゃった……」
背後からアリスの感情のない声が囁かれた。
「な、なんで……アリス……」
「私が暴れて世界を壊し始めたらセト止めに来るよね? だからここでお別れするの……」
ズ!
ドサ!
アリスの人形のような感情のない表情が俺を見下ろしていた。段々と意識が薄れていく……俺は無邪気なアリスの笑顔を思い浮かべながら目を閉じた。