70話
アリスは変わらず空から魔法で暴れていた。
「隊長! ダメです! あの空から攻撃してくる人間に攻撃が当たりません!」
「化け物め!」
魔族達はアリスを止めようと地上から魔法と矢で迎撃しようとしたがアリスの周りに貼られた物体に全て弾かれなす術なく混乱が止む事はなかった。
「仕方ない! 一旦本陣に引き返すぞ!」
しかし本陣の前に合流することは叶わなかった。そこには勇者達とエニィ達が待ち構えていた。
「皆んな来たわ! セトの方には絶対行かせないわよ!」
「守りは俺に任せろ!」
「補助魔法を掛けます!」
「ありがとうウェンディさん! セト様には指一本触れさせません!」
エニィ達は街に戻ってくる魔族の兵士を魔王と戦うセトの元へ行かせまいと陣形を作ってゾロゾロと来る兵士の前に立ち塞がった。
「リーダーの邪魔はさせねぇ! アイナ! ガジル! 前方は任せた! 俺とレスナは援護する!」
「分かったわ! 思いっきり行くから背中は預けたわよ!」
「おおー‼︎」
「補助魔法を掛けるわ! アイナ無理しちゃダメよ!」
アイナ達も負けじと陣形を張って押し寄せる兵士を待ち構えた。
「魔王様の元へ急げ! 邪魔する者を排除せよ!」
「「「おおー‼︎」」」
魔族の兵士達は威勢よく街へ雪崩れ込んでいった。
「飛翔連撃‼︎」
マーナは空を駆け魔族達を蹂躙していく。
セト様のおかげで私は生き返り十分過ぎる程の幸せを与えてくれました……これからも私は貴方の側で生きていきたい……。
「だから! 絶対に食い止めます!」
「だりゃー!」
セラニは小柄な体格に似合わない大きなメイスを振り回すと魔族の群れに叩き込んだ。
俺はセトに会わなかったら道具として使われて終わってた……でもそんな俺を助けてくれた、毎日が楽しくて……ずっと俺はセトや皆んなと生きていきたいんだ!
「こっから先は通さねえ!」
「障壁展開! セトさんには近づけさせない!」
ウェンディは魔法で街の入り口に壁を作り侵入を防ぐ。
リアンさんとこの先も一緒に歩んでいくためにもここは絶対に死守しなければ! この命にかえても、愛する人はもう失いたくないっ!
「降矢の嵐! 1人も逃さないわよ!」
エニィは矢の雨を一斉に魔族達の頭上から落とした。
セト……最初は人間不信になって孤独の中にいたあなただけど今はこんなにも慕っている人がいるのよ、それはあなたがやってきた事が間違っていなかったから! だから頑張ってセト、あなたを信じてるから!
「さあ! どんどん来なさい!」
「おお〜リーダーの嫁さん達の戦いは凄まじいな! 勇者の俺達が霞んじまうな!」
イラスタ達勇者はエニィ達の戦いを脱帽して見ていた。
「ほんと頼もしいわね、私達も負けてられないわよ!」
「来たわ!」
アイナはこちらに向かってくる魔族を見ると剣を強く握って待ち構えた。
「目的はリーダーがボスを倒すまでここで足止めさせる事だ! 変に深追いはするなよ!」
「分かってる! ガジル行くわよ!」
「おおー‼︎」
アイナ達も魔族の兵士と戦いを始め戦場には爆音と怒号が響き渡っていた。
アリスが半分の兵士を戦闘不能にしていたがそれでも残り5000いう数の兵士は本陣に合流しようと必死になっていた。そんな途方もない数が押し寄せる先にいた勇者達の表情には焦りが見え始めていた。
「くっ! 次々と!」
「キリがないわね!」
「諦めないわ! 彼ならきっと倒してくれる!」
アイナは息を切らしながらも必死に戦っている。それでも時間が経ち集中力が削がれていくとイラスタの痛々しい声が響いた。
「グアァ!」
「イラスタ⁉︎ アイナ、ガジル! イラスタを回復するからそれまでお願い!」
レスナは倒れるイラスタに駆け寄るとアイナとガジルにそう叫んだ。
「分かったわ!」
レスナはイラスタを膝枕すると怪我の具合を診ていた。
「ちっくしょう……ドジったぜ」
「良かった……これなら私でも治せる……」
「すまねぇな……」
「あなたには待っている人がいるんでしょ?」
「そうだな、それに……俺はお前と一生添い遂げるって決めてんだ」
「……ふふ、それってプロポーズのつもり? こんな時に言うなんて何考えてるのよ……」
「へへっ、最期になるかも知れねえからな……あの世で後悔するのはごめんだ。まあこの柔らかい膝の上で死ぬのも悪くないか……」
「馬鹿ね……でもこの戦いに生き残れたら考えてもいいわ」
「ほ、本当か⁉︎」
「ほら! 治ったわよ。 早くアイナ達に加勢してきなさい!」
レスナはイラスタの頭を軽くこずくとイラスタは勢いよく飛び起きた。そしてアイナ達の方へ駆け出して行った。
「うおぉー‼︎ アイナ! ガジル! そこを退けぇ‼︎ 俺が蹴散らしてやる!」
「ほんと馬鹿なんだから……」
レスナは微笑みながらその後ろ姿を見ていた。