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68話

 大陸の東北に向かう2台の馬車、前を走る馬車にいた勇者達に俺は今回の作戦を伝えていた。


「俺の仲間のひとりが魔族のど真ん中で暴れている間俺達は本陣にいる大将を倒す……簡単な事だ」


「簡単なわけねぇよ! ……だけどリーダーに言われると行けそうな気がするから困る!」


「アンタと同じ意見なのは嫌だけど、私もそう思う」


 イラスタとレスナは俺の作戦に乗ってくれた。


「あなたに付いて行くわ」


 アイナの言葉にガジルも頷き皆の意志を確認した俺はエニィ達がいる馬車に移った。


「あの、セトさん……アイナさんに素顔を見せなくていいんですか?」


 馬車に戻ると少し暗い表情をしたウェンディに問いかけられ俺は少し黙った後口を開いた。


「この戦いが終わったら……全てを話すよ」


 この戦いが終わったら仮面を外しアイナに全てを話すと決めていた。


「そうですか……良かった……アイナさん凄く辛そうで見ていられなかったから……この戦い早く終わらせましょう」


「ああ、絶対に勝とう」




 その頃人間達が仕掛けてくるなど微塵にも思っていなかった魔族達。それを率いる男は上陸した先の町を襲い占拠していた。


「お祖父様、いや、ラセン様これからどうするおつもりですか?」


「ふたりだけの時はいつもと同じでよい……ラスターよワシはこの戦いに正義はないと思っておる。いくら魔族が人間に殺されたといって人間全員に罪を償わせるなどあまりにも一方的な理由じゃ」


「恐らく以前から勢力を伸ばしてきた過激派が今回の件に便乗したのでしょう」


「人間を滅ぼすなど……しばらくはここで待機する」


「しかし……いつまで持つか……上からはすぐにでも進軍しろと言われています」


「理由は何とでもなる、これはワシのささやかな抵抗だ」


「兵もその内暴走するかもしれません」


「あやつめ過激派の兵を当ててきおったわ! こしゃくな」


「何としてでもお祖父様に人間と戦わせたいのでしょう」


「……とにかく待機命令を出しておけ」


「分かりました」


 ラスターが部屋を出て行くとラセンは窓から外を見る。


「ガイアよ……お前との約束ここまでかもしれん……だがワシは最後まであがいてみせる」




 俺達は順調に魔族のいる場所へ向かっていた。


 途中で休憩を入れているとアイナとウェンディが久々の再会を果たしていたのを見た。


「アイナさん!」


「ウェンディ! どうしてあなたが?」


「実は……」


 ウェンディはアイナに事情を話した。


「ごめんなさい……どうしてもアイナさんの力になりたくて黙っていました」


「確かにあの時素性が分かってたら断ってたかもしれないわ」


「……アイナさん少し元気になりましたね」


「そうかな……」


 確かに俺もアイナの表情が少しだけ変わった気がした。


 とうとう決戦を明日に控えた俺達は皆で焚き火を囲んでいたのだが俺は勇者達にエニィ達を紹介したのだった。


「リーダーもすみにおけねぇな! こんな可愛い子達と結婚するなんてよお!」


 明日は死ぬかもしれない戦いを前にしてもイラスタはいつもの調子で話し始めた。


「まだリーダーの顔を見てないけど惹かれるのが分かる気がするわ……私も入れてもらおうかしら……」


「お! おい⁉︎」


 レスナの思わぬ発言に笑顔だったイラスタは今までにない焦った顔を見せて動揺している。


「ふふふ、冗談よ! 何を焦ってるのかしら?」


「う、うるせぇ! ……にしてもリーダーの仲間達は強すぎるぜ! 勇者に選ばれてもおかしくないぞ?」


「しかもホーネス王国の王女様やカイアス様のお嬢様に教皇のお嬢様とかビックリしちゃったわ!」


「まあ成り行きでな」


「セトは私達の命の恩人なのよ、セトが居なかったら皆んな死んでいた……セトに会えた事が人生で一番幸福な事だって思うわ」


 エニィがそう言うとセラニとマーナもそしてウェンディが微笑みながら頷いたのを見て俺は仮面の下では嬉しくも恥ずかしくもあり顔が熱くなっていた。


「くぅ〜 羨ましいねぇ」

 

「ほんと運命の出会いみたいで憧れちゃうわ」


「全く明日は死ぬかもしれないのにその余裕はなんなんだ?」


 俺はイラスタとレスナのいつもと変わらない様子が不思議に思って聞いた。


「まあ勇者の装備を集めていた時はいつも明日は死ぬかもしれないって状況だったからな……」


「そうね……あの頃は生きた心地がしなかったわ」


「俺を信じて命をかけて付いてきてくれる奴の前でビクビクしてたら申し訳ないだろ?」


「だからいくら辛くても余裕を見せて安心させようと努めたのよ」


 イラスタとレスナは焚き火の火を見つめながら真剣な目で話すのを見た俺はふたりの明るさは修羅場を乗り越えた者だからこそ辿り着いた境地なのだろうと思った。


「それに俺には待ってる家族がいるんだ、絶対に死ねねーよ」


「あら? 結婚してたの?」


 イラスタの意外な発言がレスナの興味を引いていたようで少し驚いた顔をしてイラスタに聞いた。


「妹だ……俺のたったひとりの身内なんだ……不治の病でな、今じゃ何とか生きてる状態で俺を待ってる」


「じゃあいつもお金が無いって言ってたのは……」


 レスナは過去の発言を思い出して反省したのか表情は泣きそうになっていた。


「命を繋ぐには色々と金がかかるんだよ」


「……ごめんなさい、私酷いこと言っちゃったわ」


「気にすんな! 俺は同情されるのが嫌いなんだ」


「……そろそろ寝るぞ」


 俺は夜も遅くなってきたのでその場をお開きにすると皆立ち上がりそれぞれのテントに入っていった。




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