64話
私は命をかけて集めた勇者の装備を携えカーライル王に報告に赴くとそこで他にも自分と同じ勇者が3人いると聞かされた。その3人の勇者は今も装備を集めている途中でそれが終わるまでここに留まるように言われたのだった……。
ガス! ドン! ガン‼︎
今日も大きな音を立ててモンスターの形をした訓練用の標的を一心不乱に攻撃して周りにいる兵士達の注目を集めていた。今日も城の訓練場で黙々とひとり汗を流していた。
「今日も頑張るなぁ勇者様は」
「ここに来てから毎日ああやって疲れないのかな?」
「この前王子に食事に誘われたらしいけど断ったらしいぞ」
「俺も聞いたが他にも貴族や城のお偉方も狙っているらしいけど見向きもしないそうだ」
そんな訓練場にそぐわない会話を背に私は訓練を続ける。毎日のように自分にいいよる貴族や王族の男達に加えて魔族が襲ってくるかもしれない状況にも危機感のない兵士達に憤りを感じそれを晴らすかのように的目掛けて木製の剣を振るった。
そんな私にカーライル王から全ての勇者が装備を集めたと聞いたのだ。
一秒でも城にいたくなかった私はすぐに支度をすると言われた通りに聖都に向かうのであった。
それから数日が過ぎ聖都に着くと私の乗った馬車は人の歓声で騒がしい街の中を進んでいた。
他の勇者達は一足先に到着していると馬車の中で聞かされ、もっと早く言って欲しかったとカーライル王に文句を言いたかった。
広場で降ろされると初めてのガイアグラスを見上げていた。
「アイナ殿行きましょう」
そんな私にお供の兵士から声がかかるとガイアグラスの建物へ入って行った。
「ようこそおいで下さいました勇者アイナ殿。こちらの部屋に他の勇者殿がおられます」
私は扉の前で少し緊張していた。自分と同じ使命を背負った人達はどんな人物なのか高鳴る胸を押さえて部屋に入る。
「しばらくここでお待ちください」
案内人が部屋を出ていくと男女の会話が聞こえてくる奥へと進んで行った。
「お! 噂で聞いた通りのかわい子ちゃんだな! こりゃあやる気が出るってもんよ!」
「ま、アンタみたいな貧乏勇者には見向きもしないわよきっと」
私より少し年上と思われる男の人は興奮した様子で話始めると向かい側に座っていた私と同じ歳くらいの女の人はすかさず口を挟む。
「男は金じゃねえ! ハートだ! ハート!」
「……馬鹿じゃないの?」
私は緊張していた事を馬鹿馬鹿しく思えるほど気の抜けた会話に拍子抜けしてしまった。部屋を間違えたと一瞬出て行こうかと悩んだ。
「これで全員揃ったな! 自己紹介でもしようぜ! これから俺達は一緒に魔族の野郎どもと戦うんだからな!」
でも間違いないみたい。私は不安になっていた。
「アンタに仕切られるの何か嫌だけどまあそうね」
「よっしゃ! まずは俺からだな、ゴホン! 俺は西のカラナ王国から来た勇者イラスタだ、レベルは101で弓矢を得意としている」
「次は私ね、私は南のホーネス王国から来た勇者レスナよ、レベルは102で魔法使いと僧侶を兼任ってところね」
「……俺は北のガードル王国出身である勇者ガジルだ……レベル103の重装だ」
「私は東のランド王国の勇者アイナ、剣士をしているのレベルは107よ」
「マジかよ! 107ってこの大陸で最高じゃないか⁉︎」
「頼もしいわね」
自己紹介が終わるとレスナとイラスタはひたすら他愛のない話をしていた。前から知り合いなのかなと思う程で止まる事なくそれは続いた。やがてフェイルシード教皇の所に案内される事となった。
私達が通された部屋には机がひとつ置かれていて殺風景だけど周りの窓から空一色の青色と光が差して幻想的な雰囲気になっていた。
「ようこそガイアグラスへ勇者諸君、試練を乗り越えよくぞここまで来てくれた事に感謝する」
フェイルシード教皇は開口一番にそう言って私達を迎えた。
この大陸で一番の権力者である教皇の鋭い眼光に息を呑むとそれを察した教皇は苦笑する。
「ふっ、そう固まるな。早速で悪いがこれからお前達には訓練としてあるダンジョンに行ってもらいたい」
「またダンジョンかよ……」
イラスタが思わず本音を口にすると私を含めた皆が心で同じことを言っていたと思った。
「魔族がいつこちらに来てもおかしくはない状況だ。それに備える為にも個々のレベルアップと連携が必要なのだ」
「チッ、わかったよ」
「ではまずリーダーを決めた方がいいかと、その方がまとまりやすくなります」
レスナは教皇にそう提案すると他の勇者も頷いた。
「まあアイナでいいんじゃねえか? レベル一番高いし」
「アンタと同じ意見なのは少し嫌だけど私もそう言おうと思っていたわ」
「……お前俺のこと嫌いだろ?」
「ちゃんと察してくれてるのね、鈍感じゃなくて嬉しいわ」
「グッ! こ、この⁉︎」
「全く、連携をと言っているのに何を言っとるんだお前達は……まあいい悪いが別にいる」
「え?」
私は意外な言葉に思わずそう言っていた。普通に考えれば納得がいくはずがない。
「お前達勇者をまとめる役を用意した、彼の指示に従ってもらう」
「何だそりゃ⁉︎ 俺は嫌だぜ! そんなどこのどいつか知らないのに従うのは!」
「アンタと同じ意見なのは嫌だけど私もよ」
すかさずイラスタとレスナは反対した。私もそうだ、絶対に綻びが生まれるのは目に見えているから。
「そうか、では条件を出そう彼と戦って勝てたらお前達の意見を飲もうではないか」
教皇の出した条件は私達の力を試しているのかと思えたけどその顔には揺るぎない自信が見える。何かあるのだろうか……。
「面白ぇ‼︎ 乗ったぜ!」
イラスタは負けると思ってない。自信満々に叫んだ。そう、私達は勇者という看板を背負っているんだ。