60話
「……と、まあそう言う訳なんだ」
馬車に乗って今まさに魔族が隠れるアジトへと向かう道中で休憩をしていると俺は皆に教皇との会話を聞かせた。
「やっぱりまだ隠れていたのね」
「まあ、セトとアリスがいれば安心だけどな!」
「そうですね、私も最初魔族を見た時怖かったですけどセト様とアリスちゃんがいたら負ける気がしません」
「リア……じゃなくてセトさん、いつの間にそんな強くなったんですか? お祖父様からはレベルが200を超えてるって聞きました」
「色々あってね。さて、異空間発動!」
俺が異空間の入り口を出すと初めて見るウェンディは目を丸くして宙に浮かぶ白い穴を見ていた。
「せ、セトさん……これは?」
「とりあえず中で説明するよ」
「さあどうぞ!」
「あわわわ!」
ウェンディは慌てた様子でマーナに背中を押されると穴に吸い込まれていった。後に続いて行くと茫然と立ち尽くしているウェンディに近づいた。
「凄い……まるで異世界に来たみたいです……」
俺とウェンディの目の前には大きな屋敷と小さく可愛いアリスの家が建っている。
「セト! ちょうどいいや! 実は装備が完成したから皆んな受け取ってくれ!」
セラニは以前皆で装備を強化すべく考えた合成を終わらせていたらしくちょうどこれから魔族と戦う事を考えるとありがたいと感謝した。
「ありがとうセラニ、じゃあ倉庫に行こう。ウェンディの装備も揃えなきゃな」
「え? でも私の装備は十分良い物だと思いますよ?」
確かにウェンディは初めて会った時からいい装備を身につけていた。今思えばあの教皇の娘とあってかなり豪華な物を贈られたのだろう。
まあ大事な娘をひとりで旅立たせる不安からなのかもしれないが。
「ジャーン!」
倉庫に着くと台に置かれた俺達の装備をセラニは両手を広げて披露した。
「ありがとうセラニ」
「ありがとうございますセラニさん」
エニィとマーナはそれぞれ装備を受け取ると早速装備して感触を確かめていた。俺もガイアの装備を身に付ける。
ガイアの装備が揃った後アリスに鑑定して貰った効果は力が2倍になるというとんでもないものだった。更にセラニの合成を得たこの装備はもう伝説級を超えた物になっている。
「な、何これ⁉︎ 前と全然違う! 全くの別物だわ‼︎」
「あの国宝級の装備が更に伝説級の装備になったみたいです!」
エニィとマーナは動きを確認しながら歓喜の声を上げている。
「だろ〜俺も最初装備した時は声を上げて驚いたぜ!」
セラニは俺達の反応が見たくて何も言わなかったようだ。俺達の驚く姿を満足そうに見ている。
「……」
ウェンディはその様子を見て唖然として声が出ない様子で固まっていた。どれも見た事のない装備だから驚いて何も言えないのだろうか。
「さ、ウェンディ来てくれ」
「え、は、はい!」
ウェンディは放心状態から脱却すると俺の後に付いてくる。魔法装備が並ぶ台に案内した。
「この中から選んで使ってくれ。効果とかは紙に書いてあるから」
「これ……みんな凄い物だって私でも分かります。今使っている杖だって皆んな欲しがるくらいの物なのに、それが霞んでしまうほど」
ウェンディは台に並べられた魔法使い用の杖をひとつひとつ見ているが凄すぎて選ぶなどできるはずもなく迷っている。それを見かねたのかセラニがある杖を手に取った。
「これなんかいいんじゃないか! これは僧侶に有利な効果があるんだよ」
セラニは並べられた杖からひとつを手に取るとその効果を解説し始めた。
「まず魔法を撃てる回数が倍になるから回数を気にしないでいいだろ、次に敵の攻撃を防ぐバリアが作れるから防御面も安心! で、何と言っても回復魔法効果を上げるのが一番かな」
「な、何ですかその至りつくせりな効果は……」
あまりにも便利な効果にウェンディは唖然として杖を凝視している。
「セラニが薦めるならこれでいいんじゃないか」
「い、いいんですかこんな凄いものを私に」
「ああ、これから魔族と戦うんだ一切の妥協はしないよ」
「あ、ありがとうございます」
ウェンディは杖を震える手で持つ。
「次は防具だな」
「え?」
場所を隣の防具棚に移動すると今度は細かな装飾が施された誰が見ても魅入ってしまう程の防具が並べられウェンディは俺に顔を向けている。何か疑問に思っているといった表情だ。
「あ、あのセトさん?」
「ん?」
「何故このような装備が山のようにあるんですか?」
「……嫌な気分にさせちゃうかもしれないけど聞くか?」
「……はい」
「俺、本当に禁断の洞窟に入ったんだ」
それを聞いたウェンディの表情は曇る、それをさせたのは自分にも責任があると思っているのだろう。
「で、そこであのアリスと会ったんだよ。アリスに助けられて洞窟を出ることができたんだけどアリスは洞窟に落ちていた装備やスキル・魔法結晶を回収しててさ、それがあれって訳なんだ。まあ他にも勇者の装備が眠る洞窟に隠し部屋があって、そこでも凄いアイテムが眠ってたんだ」
「そうですか……よく分かりました」
俺は元気が無くなりシュンとしたウェンディの肩に手を置いた。
「ウェンディ……それはもう終わったはずだろ? お互い忘れよう」
「はい……ありがとうございますセトさん」
一通りウェンディの装備を揃えるとセラニが俺に話しかけた。
「ウェンディの装備の合成はどうする?」
「そうだな、とりあえず時間が無いから後にしよう」
「りょーかい!」
数々の装備を新調したウェンディの顔は自信に溢れていた。
「私頑張って皆を支える僧侶になります!」