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59話

 私は5歳の頃お祖父様が話してくれる英雄ガイアの話が大好きだった。心を震わせる冒険の話や困っている人を助ける痛快な話に夢中になって何度も話をせがんだ。


 そして私はその頃からか未来に現れるであろう英雄の力になりたいと僧侶を目指し始めた。努力に努力を重ねて周りから認められるほどのレベルを上げ魔法を幾つも習得していった。


 そんな時だった、聖都にいた冒険者の話から耳にしたランド王国にいる冒険者アイナ……異常なレベルの上がりようにガイアの再来と噂されていると。


 私は居ても立っても居られずアイナさんの元に行くと決意したのだった……。


「ん……」


 目を開けると窓から差す日の光が顔にかかり朝を迎えたのが分かるとふと隣に視線を移した。


 でもそこにはリアンさんの姿がなく少し残念な気分になる……それでも私の心は晴れやかだった。


 いつぶりかな……こんなにスッキリした朝を迎えたの……。


 旅の中でも眠れない日が続いていたのに旅から帰ると脱力感が更に睡眠を妨げただ泣いて過ごす日々が続いていた。


 アイナさんに付いていけなかった自分の不甲斐なさとリアンさんを失った事……精神的にも追い詰められていた私はリアンさんの所に行きたいと死を求め始めていた。


 そんな私に昨日奇跡が起きた。


 リアンさんを見た時ただ嬉しかった……でもリアンさんの目にできた前にはなかった暗さが私に大きな衝撃を与えた。それは言わなくても分かる想像できないくらいの絶望……そして苦痛を味わった人がしている目だった。私はリアンさんの変わりように涙が止まらなかった。


 自分のせいだ……申し訳ない気持ちと好きな人にしてしまった酷い仕打ちにただ泣くことしかできない自分が許せなかった。


 でもリアンさんは私を許してくれた……私は今人生で一番幸せだとハッキリ言える。


 幸せな気分に包まれ昨日リアンさんと迎えた一夜を思い出すと顔が赤くなり思わず布団に顔を隠した。


 これからまたリアンさんと一緒にいられると思うと更に幸せな気分が溢れてくる。


 そして私に再び立ち上がる勇気をくれた……私はリアンさんの為に全てを捧げると決意した。


 急いで着替えて部屋を出るとそのままお祖父様の元に向かった。


「お祖父様!」


「ウインディーネ……ふっ、昨日までとは別人に見えるな……なるほど、あの男だな」


 お祖父様は私の顔を見て少し微笑んでいた。


「お前が16の時だったか、ここを出て有名な冒険者アイナの元に行きたいと直訴したあの顔を思い出すな……それで辛い思いをしたというのにまた行くというのか?」


「私は自分の使命を見つけました。それはセトさんを支える事……私の同行をお許し下さい!」


 お祖父様に頭を下げ言った言葉はアイナさんの元に行きたいと直訴した時と同じで、でもすぐにダメだと言われてケンカして結局私は無断で出て行ってしまった。


「ふっ、どうせ行くなと言われてもいくのだろう? 行くがいいウインディーネ! 英雄となる彼の力になるのだ!」


「ありがとうございますお祖父様……」


 またダメだと言われると覚悟していたけどお祖父様は了承してくれた……その事に涙を抑えきれずそのまま部屋を出て行った。


「セト殿がもうすぐ旅に出るみたいだよ、今入り口にいる」


 旅の支度を終え部屋を出ると部屋の前で待機していたシャルトお兄様にそう告げられリアンさんの元に急いだ。


「あ! 来た!」


 リアンさん達が私を迎えるように待っているのを見ると自然と走り出していた。


「行こうウェンディ!」


「はい!」


 私はリアンさんの言葉に心からの笑顔で答えた。




 ウェンディが旅の支度をしている間俺は教皇に昨日の答えを返すべく部屋を訪れていた。

 

「俺は魔族と戦います」


「そうか……感謝するセト殿、それにウインディーネを助けてもらった。あの子は最近酷く落ち込んでいて見ていられなかったのだ。だがさっき見たウインディーネの目は完全にそれらを消していた。あんな輝いた目を見たのは小さい頃以来だよ」


「俺にもそうさせた責任がありまして……だからこの先絶対に彼女を幸せにそして守ります」


「まるで結婚するような言葉だな! くくく、まさかあの男嫌いなウインディーネが惚れるとは驚いたわ!」


「すいません……いきなり変なことを言って」


「いや、君にはあの子を任せたいと思っておる。実はあの子は捨て子でな……昔この建物の前に置かれた赤ん坊のあの子をワシが引き取ったのだ本人にはワシの口からは言ってないが薄々気づいているようだ」


「そうですか……」


 衝撃の事実に俺はウェンディを幸せにしたいと心に強く思った。


「それで早速で申し訳ないが君に頼みがあるのだ」


「何かあったんですか?」


「ああ、実はワシ専属の特殊部隊から連絡があってな。この大陸に隠れて活動している魔族のアジトを発見したのだ」


「やっぱり……これまで何度か魔族と戦っていたので残党がまだ何処かに潜んでいると思っていました」


「報告だと数はそう多くないそうだ」


「分かりました。討伐に行ってきます」


「頼む、あと少しで各国の勇者が集まる……それまで奴らに倒される訳にはいかんのだ」


「では失礼します」


「幸運を祈っている」


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