58話
俺はシャルトさんを呼ぶとウェンディと話がしたいと願い出た。
するとシャルトさんは俺の鬼気迫る様子に目を丸くしていたが快く部屋まで俺を案内してくれた。
「あんまり遅くまで話し込まないようにね」
そう言ってシャルトさんは去っていった。
この扉の奥にウェンディがいる……。
俺は胸の鼓動が早くなるのを感じると一度深呼吸してから扉を叩いた。
「ウェンディ……話がしたいんだ」
何とか声に出すとしばらくして扉はゆっくりと開いていく……そこには前より少し目に光を帯びたウェンディが顔を出して俺を中に入れてくれた。
わずかな照明だけで薄暗い部屋に入ると俺は椅子に座るように促され言われた通りに椅子に座る。
「……」
しばらく話すタイミングを伺うようにふたりとも黙っていたが俺はウェンディに伝えたい事をぶつけに来たのだと気を奮い立たせ重い口を開いた。
「ウェンディ俺間違った事をしたと思ってる……心配かけてごめん……だから……」
「謝らないといけないのは私の方です! あの時幾らでも止めることはできたのにしなかった! リアンさんに安全な場所にいて欲しいと勝手に自分の都合のいいように考えてリアンさんの気持ちも解ろうとしないで……あなたを苦しめてしまった……本当にごめんなさい……」
ウェンディは頭を下げて俺に謝るとそのまま下を向いていた。
「俺は……大人ぶっているけど時々素が出て少女に戻るあの頃の君に戻って欲しい……もうやつれた君を見たくないんだ」
俺は心の底から以前のウェンディに戻って欲しいとあの楽しかった日々のウェンディの笑顔が大人のように澄ました顔が脳裏に浮かびそう願った。
「……私あなたに会うまで男の人が苦手でした。偉そうに上から言う人や下心を覗かせて近寄ってくる人ばかりで距離をとっていたんです」
「最初は話かけてもくれなかったな」
「ふふ、でも一緒に旅をしているうちに私はあなたに視線がいくようになっていた……一方的に無視されてるのに戦闘中には当然のように助けて励ましてくれた……あなたの優しい目で見られると胸が熱くなってしまうんです」
ウェンディは当時を思い出していたのか遠い目をしていたが座っていたベッドから立ち上がると真っ直ぐな目で俺を見る。
「あなたを愛しています」
「ウェンディ……」
俺はウェンディが自分の事をそう思っていたとは気付かず戸惑っていた。
どう返事をすればいいんだ……。
ウェンディのことは愛してるとまではいかないけどいい子だと思っていたのは正直なところで今はっきりと告白された俺の胸は熱くなっていてそれが更に俺を困惑させる。
まさにその絶妙なタイミングだった、覚えのある感覚が俺の身体に起こり始めるとまさかと思いながら俺は部屋を見回していた。
……何であれが。
俺の予想は的中する、いつの間にか部屋の扉の前にあの壺が白い煙を噴き出しながらちょこんと置いてあったのだ。
俺がそんな事をしている間にいつの間にかウェンディが俺のそばに来てそっと抱きつくと俺の胸に顔を埋めて小さな声で話し始めた。
「エニィさんから聞きました。あの時……私が瀕死だったのを助けてくれたのはリアンさんだったんですね……嬉しかったこんな風に温かくて……」
ウェンディが見上げて俺を見る顔は色気を出しその美しく可憐な顔に見入っているとゆっくりとその顔が近づいていた。
「ん……」
ウェンディにキスをされウェンディの柔らかい唇が俺の理性を奪っていく。
「リアンさん……私も仲間になんて贅沢は言わない……今だけでも私を……」
その言葉で限界を迎えた俺はウェンディをベッドに押し倒していた。
薄暗い部屋のベッドには優しい明かりが灯り俺とウェンディは寄り添って横になっていた。隣のウェンディはピッタリと俺の腕に抱きついて離さなかった。
「ウェンディ俺には婚約者がいるんだ」
「知ってます……エニィさん達と話したんです、そこで色々と聞きました……」
「……皆んな俺を慕ってくれるんだ……こんなどうしようもない俺に」
「リアンさんは自分を分かってないです……あなたは人を惹きつける雰囲気と優しさを持っている、それに裏で努力を重ねてるのも知っていました」
「え?」
「夜に内緒でレベリングやっていたり情報屋から色々と知識を得ていたり皆んなの為に頑張っていた事です」
「知ってたのか……」
「だから私はあなたを尊敬していました。充分立派ですよ」
「ありがとう……あのさ、婚約者がいるのにこんな事を言うのはおかしいかもしれない……でも言うよ……さっきウェンディに告白された時胸が熱くなって嬉しかった……ウェンディ一緒にいて欲しい」
「嬉しい……私もあなたを支えます皆んなと」
ウェンディはその後眠りに落ちると俺はそっと部屋を出て行った。
ガチャ
エニィ達が待つ部屋に戻ると待ちかねたようにトタトタとエニィ、セラニ、マーナが嬉しそうに俺の前に集まった。
「その顔だと上手くいったみたいね」
俺の表情で察したのかエニィは微笑みながら話しかけてきた。
「全く……いつの間にこれを仕掛けたんだ?」
俺は白い壺を苦笑しながらエニィに返した。
「ふふふ、秘密よ」
エニィが笑いながら答えると今度はセラニが口を開いた。
「セト! 異空間出してくれよ!」
「え? ああ、異空間発動!」
白い穴が浮かぶと同時に俺はセラニとマーナに両腕をガシッと掴まれ拘束された。
「さあ行きましょう!」
「さあさあ!」
俺はそのまま異空間の屋敷に連れて行かれた。
「セト……私達寂しかったのよ……」
エニィは俺に抱きついて言った。
「エニィありがとう俺の為に色々動いてくれて、セラニとマーナにも心配をかけたね、ごめん」
「じゃあお返しに私達を慰めて……」
それから夜遅くまで頑張った結果体は疲れ果てぐっすりと朝まで眠ったのであった。
俺は目が覚めると時間を確認して朝だと起き上がった。
周りを見るとエニィ、セラニ、マーナに寄り添われて皆気持ちよさそうに眠っている。
「セト……おはよう」
皆の寝顔を見ながらしばらく考え事をしているといつの間にか起きていたエニィが囁くように言った。
「おはようエニィ」
「ふあぁ〜おはようセト〜」
「ん……おはようございますセトさん」
「おはようセラニ、マーナ」
セラニとマーナも起きると気持ちのいい朝に俺は伸びをしてベッドから降りた。
「皆んな……俺決めたよ」
「決めたって?」
セラニの問いに俺は振り返って答えた。
「魔族と戦う……だから皆んな力を貸してくれ!」
俺の宣言に皆は大きく「うん‼︎」と返してくれると俺に迷いは完全に無くなり決意する皆の笑顔のためにこの地を守ると。