表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/114

57話

「セト……」


 私はセトの表情が悲しみに包まれているのを見ていられず一肌脱ぐかと重い腰を上げた。


 ほんとしょうがないんだから……。


 私は当初あの勇者パーティが嫌いだった。愛するセトをパーティから追い出し辛い目に遭わせたから。でもそれが魔族の仕業と分かってそもそもそれがなければセトに会うことはなく私はあの冷たく暗い森の中で命を落としていたと思うと責めることはできず彼女らもセトと同じできっと後悔して苦しんでいただろうと少し同情の念を抱いていた。


「セト、ちょっと私達出かけてくるから休んでて!」


 私はそう言ってセラニとマーナの腕を取ると「え?」と私達に含まれていると思わなかったのか驚くセラニとマーナにウインクした。それを見て察してくれたのかふたりは一緒について来てくれた。


「おい! どこ行くんだよ!」


 部屋を出た瞬間セラニからそう言われて立ち止まった。


「どこってあの僧侶の所よ?」


「何しに?」


「ちょっと話があるだけよ」


 私達は建物の中を探し回って礼拝堂で祈りを捧げる彼女を見つけるとすぐ近くまで歩いて行った。


「やっと見つけたわ」


 私の声に彼女は振り返って私達を見た。


 多分私達がセトと一緒にいたのを見てたから誰なのかは分かるはず。


 よく見ると彼女の顔は少し怯えていた。やつれた顔も相まってこれ以上刺激はしたくなかったけど彼女をこのままにはしておけない。


「エニィ……あんまりいじめるなよ……」


 後ろからセラニが小声で話しかけてくる。


「ば、ばか! いじめないわよ!」


 私も小声で反論すると彼女を見て言った。


「ちょっと話があるの」


「分かりました……」


 彼女はそう言って覚悟を決めたような顔をして頷いた。私達に何かされるとでも思っているのだろうか。


 その後私達は勇者パーティのひとりだった彼女と話し合った。


 私の読み通り彼女はセトをパーティから追い出したひとりとして自分を責めていた。


 そこで私は包み隠さず全てを話した。勇者アイナに魔族がセトをパーティから外すように仕向けた事、ダンジョンで瀕死になった彼女をセトが助けた事を……。


 彼女はそれを涙を流しながら聞いていた。


「もうあなたが自分を責める事はないのよ」


 話の最後にそう言ったけど彼女は首を横に振った。


「……私はアイナさんを止められたはずなんです。でもしなかった……たとえ魔族の仕業だったとしても私は自分が許せません」


「そう……分かったわ、話は終わりよ。もう彼と会うのが最後になるかもしれない……ここで何も言わなかったらまた後悔の連続よ? セトも悩んでる」


 別れ際に私は彼女にそう言って帰って行った。


 後はセトね。


 ガチャ


 私達が帰って来るとセトは寝ていたソファーから起き上がり食事を取ろうと提案してきた。


「あ〜美味かったな〜! なあセト!」


「ああ、そうだな」


 セトはセラニの問いかけにそっけない返事を返していた。何か心ここに在らずといった様子だ。


「セト、話があるの」


 私の真剣な目にセトはたじろいでしまう。


 きっと何を言われるか不安になってるのね。私ははっきりしないセトの背中を押すことにした。


「セト、このままあの僧侶に何も言わないでここを出て行くの?」


「ウェンディのことか? ……あの様子だと旅で相当な辛い思いをした筈だ今さら俺が声をかけてもーー」


「彼女があんなにやつれているのはあなたをパーティから追い出した事に苛まれているからよ」


 セトはまだ分かっていない……彼女やパーティメンバーがどう思っているのか……それが分かればきっとやり直せる。


「さっき彼女と話をしたの、このまま何も言わずに出て行ったら彼女耐えれなくなって自ら命を断つかもしれないわよ」


「そんな……」


「セトは彼女や追い出した元パーティメンバーを恨んでる?」


「あれは魔族のやった事だし今は何も思ってない。逆に申し訳ないくらいだ……俺がした事で皆に悲しい思いをさせてしまったから」


「じゃあちゃんとふたりで会って誤解を解かなきゃね、彼女を救えるのはあなただけなのよ……」


 私はセトに体を寄せると自分の体が少し震えていたのに気付いた。セトもそれに気付いたのかしっかりと抱きしめてくれる。


「私にだって思うところはあるのよ……でもセトにはもう悲しい表情はさせたくないの」


「ごめんエニィ……俺行ってくるよ」


「うん……ちゃんと彼女の思いを受け止めてきなさい」


「ウェンディさん今自分の部屋にいるそうです! 行ってあげてください!」


「ちゃんとスッキリしてこいよセト!」


 マーナとセラニにも背中を押されたセトは部屋を出て行った。


「ほんとにふたりとも世話が焼けるわね……」


 セトを見送ると私はそう呟いた。


「エニィってほんといいやつだよな〜」


「エニィさん尊敬します! こんなに早く解決するなんて!」


 セラニとマーナの言葉に私は苦笑する。


 ほんと私ってなにをやってるんだか……。


「あのままにしてたらふたりとも不幸になるしね……その代わり彼女にはこれからいっぱい頑張ってもらうからね」


「エニィさん……ふふ、セト様が帰ってきたらいっぱい甘えましょうね」


「うん! 私達に寂しい思いをさせたんだから今日は寝かせないわよ!」


「うふふ!」


「そりゃいいな!」


 セト……頑張ってね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ