55話
普段は湖のように静かで美しいホーネス城は朝から騒音が鳴り響き慌ただしく兵が動いていた。
作戦とはいえ本当にダンジョンで一晩を過ごした後、城に帰った俺達はガルス王から事の顛末を聞いていた。
「ーーーという事だ、主犯だった第3王妃は先程地下に投獄した……もう陽の目を見る事はあるまい」
犯人は俺達の予想通り第3王妃だった。昨日マーナ達を襲って返り討ちに遭い捕らえた男達はあっさりと黒幕を吐いたらしい。
「これでやっとこの国も立て直す事ができる……本当はマーナにこの国にいて欲しかったが行くのであろう?」
話が終わるとガルス王はマーナに視線を移し寂しそうな顔を浮かべていた。せっかく生きていた娘と会えたのにまた離れてしまうと思えば気持ちは痛い程分かった。
「はい! セト様の為に尽くしていきます」
マーナのキラキラした目を見た王にこれ以上かける言葉が見つからないのか今度は俺に視線を移した。
「セト殿……マーナを頼んだぞ、平和になったら盛大に結婚を祝うからな!」
「ありがとうございます。ではこれ……いや、明日にも聖都に向かいます」
俺はすぐにでも出発したかったがマーナがここに来て2日しか経っていなかったのに気付いて今日一日は家族で過ごしてもらおうと急遽出発を明日にする事にした。
「おお! そうか! では今日はゆっくりここで休んで行くがいい!」
それを聞いたガルス王は嬉しそうな顔をしていた。
「マーナ、今日は家族でゆっくり過ごしてくれ明日からまた旅が始まるからな」
「セト様……私の為にありがとうございます……」
それからマーナは両親と過ごし俺達もゆっくり休み次の日聖都へ向かって行ったのだった。
「しかし……まさか魔族が絡んでいたとはな」
聖都へ向かう馬車の中で俺は朝にマーナから聞いた話しを思い出していた。
「勇者達の邪魔をしていたし何処かに潜んでいるかもね」
エニィの言葉に俺は頷いた。
「そろそろ攻めて来てもおかしくないな」
「勝てるのかしら……いくら勇者の装備を集めたからってたった4人で……」
「……」
俺は心の中では無理だろうと思っていたが口に出せなかった。
俺達の目的地である聖都グラスサウザはこの大陸にある4つの国に囲まれその国の国王達よりも高い権限を持つフェイルシードという人物が率いるガイアグラスという大きな城のような建物を中心に多くの人々が住む大都市だと馬車の中で俺はエニィから説明を受けていた。
「各国の王達をフェイルシード教皇がまとめているから国同士で戦争もないし平和にやっていけてるのよ、だからあそこがもしも魔族に乗っ取られたらこの大陸は終わりよ」
「なるほどな、その教皇様は俺に何をさせたいのかな……俺としては皆を魔族との戦いなんて危険な目に合わせたくないしさせるつもりもない、誰ひとりとして失うのは耐えれない」
「とりあえず考えてもしょうがないわ、話を聞いてから考えようセト」
「そうだな……」
馬車で気持ちよさそうに眠るセラニを見て決意する絶対にこの仲間は俺が守ると。
「セト様! 聖都が見えてきましたよ!」
馬車の外からマーナの声が聞こえると窓からそっと顔を出した。
「なんて大きな……」
俺は思わずその迫力に言葉を失っていた。
まず目に飛び込んできたのは巨大な建物だった。ひと目見ても唸るほど作り込まれた外観をした大きな建物から3つの塔が天に突き抜けるように伸びていてその周りを多くの建物がひしめき合い更にその周りを大きな外壁が囲んでいた。
「久しぶりに来たけどやっぱりデカいわね〜」
俺は隣にエニィがいる事に気付かなかった程その外観に圧倒され心を奪われていた。
「おわぁ‼︎ なんだぁ⁉︎ このデカい街は‼︎」
今度はいつの間にか起きていたセラニの驚く声を聞くと皆でその壮大な外景を堪能しようとマーナに声をかける事にした。
「マーナ! ここに馬車を少し止めてくれないか!」
「分かりました!」
見晴らしのいい丘に馬車を停めると少し上から聖都を見下ろす。
「やっぱりすごいですねここは……」
「マーナとエニィは来たことがあるんだな」
先程のエニィと今のマーナのセリフを聞いて俺はふたりに聞いた。
「そうね私は年一回かな、お父さんの付き添いでね」
「私もお父様の付き添いで病に伏せるまでは……年に一回各国の王が集まる会合があるんです」
「そうなのか……エニィ俺達はまずどこに行けばいいんだ?」
「どこって教皇から呼ばれてるのならあの大きな建物に決まってるでしょ?」
エニィは呆れた顔で俺の問いに大きくそびえ立つ建物を指して答える。
「あそこに入れるのか! やった〜」
セラニの跳び上がって喜ぶ姿に俺も加わりたいほど嬉しくなると早く行きたい気持ちが俺をソワソワとさせる。
「よし! 行くか!」
「ふふふ、嬉しそうねセト、さっきはあんなに難しい顔をしてたのに」
エニィにそう言われて俺は自分でも分かるくらいのいつもよりトーンの高い声を出していた事に少し恥ずかしくなり「ゴホン」と咳払いをして馬車に乗り込んだ。
「サーチェス様……報告したい事が……」
「どうした?」
「グラトリナ大陸で活動をしていたガザ、ドスト、ランザが立て続けに死んだそうです」
「何だと……人間にか?」
「恐らく……」
「分かった……そろそろあちらの大陸にも手を伸ばそうと思っていた所だ」
「では先発隊として誰か送りましょう」
「そうだな……ラセンに行かせるか」
「あの御仁ならば簡単に終わるでしょう! 何せ1000年前に現れた悪魔を封じた英雄ですからね」
「あやつはこの侵略に乗り気でない様だがひさしぶりにあの大陸に行ってみたいと言っていたからな、ちょうどいい」
数日後魔王から打診されたラセンという名の魔族はセト達がいるグラトリナ大陸に向かうのであった。